伏線 4
「霊感…?」
「そう、霊感。だから、オバケの類が、なんとなくだけど見えるの」
乙希があっけらかんと言い放った。
霊感。
誰でも一度は聞いたことのある単語だろう。だが、実際に霊感を持っている人に会った経験を持つ者は稀だ。
無論、自称「霊感持ち」はいるだろうが、彼女は似非ではない。自分を追いかけてきた怪異を目撃できているのだ。
「あれが何だか知ってたりします?」
「情報をくれれば、何かわかるかも」
「情報ですか?」
「うん。だって、私にはあれは単なる光にしか見えていないから。目黒くんには、もっとはっきり見えているんでしょ?」
圭祐はうん、と頷いた。
頷きながら、もしかして自分の霊感は、乙希よりも強いのだろうかと考えた。
「もしかして、目黒くんのほうが私よりも霊感が強いって思った?」
「え? いや! そ、そんなことは…」
「図星じゃん! ウッケる~」
乙希はケラケラと笑った。気分を害した様子はない。
圭祐はほっと息を吐いた。
今、彼女の気分を害するのは悪手でしかない。
「たぶん、私よりも今の目黒くんのほうが霊感は強いと思うよ。だけど、それだけじゃないの。目黒くんはあのオバケに目をつけられていると思う。つまり、『縁』ができた状態なの」
乙希はさらに説明を続けた。
縁とは「ご縁がある」といったように、目に見えない霊的なつながりのことを言う。怪異と霊的なつながりを持つことにより、より強固にお互いを認識できるようになるらしかった。
だから霊感が無い人間も、縁が結ばれると、その怪異を目にすることができるそうだ。それだけでなく、特定の条件を満たす行為、霊能力者に言わせると「条件を踏む」をしてしまうと、縁が強固になり、対象を呪い殺すことさえもできるのだという。
圭祐は、自分が体験した内容を乙希に伝えた。
「なるほど、目黒くんには、そう見えてるわけね。そいつに触られることに極度の恐怖を感じているのなら、触られること自体が『条件を踏む』ことになるかもしれない」
「それって、触れたら死ぬってことですか?」
「うん。だから、絶対に掴まらないように」
「そりゃ、俺だって掴まりたりたくないです。だけど…」
あの怪異から逃げ伸びることなどできるのだろうか? 絶望がぎゅっと内臓を絞めつけてくる。
「……助かりたい?」
「そりゃ、もちろんです」
「私の知り合いに霊能力者が何人かいるわ。彼らに相談すればなんとかなるかも」
「本当ですか? 是非お願いします」
まさに渡りに船だった。本来なら乙希のような高嶺の花と会話すること自体、奇跡に近い僥倖なのだが、今はそれ以上に助かる可能性があることが嬉しかった。
だんだんと、あの怪異の気配が近づいている気がする。早く対策を練らなければ、取り返しのつかない事態になりかねない。
「それで、見返りってわけじゃないけど…」
乙希がお願いするように、両手を合わせてきた。
嫌な予感がした。
このタイミングでの交換条件。
決して安いモノではないだろう。
陰キャの防衛本能が根拠ない疑念を抱かせる。絶対に碌な話じゃない。
あの怪異の件も含め、乙希が裏で糸を引いていたんじゃないのか、とすら思えてきた。
「お願い、目黒くん!」
来た。やはりお願いだ。
いったい乙希は、何をお願いしてくるのか?
「私と一緒に7日間のデスゲームに参加して!! お願いします!」
角川ホラーデスゲーム応募作です。
カクヨムでの評価で決まります。