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ワン・オールドメイド 4

 智美オカメンは、縦抜和文オカメンの手からカードを抜き取った。

 周囲に知っている者はいないか、ちらりと確認する。

 でも、本人以外にはカードを見せないよう徹底していたせいか、誰もが固唾を飲んで、事の成り行きを見守っていた。

 知っているのは縦抜のみ。

 けれども抜けることが決定している彼の表情は、生き残った安堵の感情で満たされており、このカードがなんなのかまでは分からなかった。

 ゆっくりとカードを上げてから、見る。


 見知った顔がそこにはあった。

 クラブのクィーンだった。

 暗い沼の底に落とされたような気持だった。

 必死に願って、やっとの思いで追い出したはずの、惨めな死。

 それが巡り巡って、再び自分の手に戻ってきたのだ。

 こんな皮肉なことがあるだろうか?

 熱いものが込み上げてきた。

 死の恐怖よりも、自分の惨めな人生を肯定されたことのほうが悔しかった。

 何をやっても駄目なんだという絶望が、呪蓋のように自分を覆っていた。


 残るカードは3枚。

 智美がクィーンを持っていることは、誰もが理解していた。

 残るプレイヤーである、松田加奈代(小学生の母)もそうだ。


 智美は機械的に、カードをシャッフルする。

 なんとなく、自分に決まるだろうな、という予感があった。

 カードを裏にして差し出す。

 けれども、加奈代はなかなかカードを引かなかった。

 智美は訝しげに加奈代を見た。

 はっと、感情に火が灯った。


 加奈代も泣いていた。

 ぐしゃぐしゃに顔を崩しながら、涙を流しながら、震える手を伸ばしている。

 命が掛かっているのは、向こうも同じだ。

 死にたくないのも、同じだ。

 智美は自分ひとりだけが不幸だと思っていたが、加奈代も同じ思いなのだ。


 ぐすり、と近くから涙の音が聞こえた。

 松田龍也(小学生)だった。

 ああ、と智美は理解する。

 このトランプは、龍也のトランプだ。

 おそらくは、友達と遊ぶからと言って、加奈代に買ってもらったトランプだろう。

 夏休みの思い出として、期待に胸を膨らませていたに違いない。

 その息子のトランプが、今は母親の命を奪おうとしている。

 こんな皮肉なことがあるだろうか?


 どれくらい時間が経ったのだろう。

 加奈代が、ようやくカードを引いた。

 周囲の祈るような気配が伝わってくる。

 加奈代がカードをめくる。

 耐えきれなくなったように、口元を押さえて涙を流す。

 どっちなの?

 加奈代の態度からは、どのカードを引いたのか、智美には分からなかった。

 

 智美は先に自分のカードを確認する。

 …クラブの5だった。

 

 加奈代が泣きながらカードをシャッフルする。

「お、お願いします」

 震える声で懇願してくる。

 何をお願いされているかは、なんとなく分かった。

 だけど、どうすれば良いかは分からなかった。


 周囲の視線が痛い。

 加奈代を、息子の龍也が自ら協力してきたゲームで、しかも親子で買ったトランプで、死に追いやっては駄目なことくらい、智美にも理解できる。

 空気を読むなら、自分が犠牲になるべきことも分かる。

 だけど──

(どうしようもないじゃない!! 私だって生きたいのよ!!!)

 誰も何も悪くない!

 誰も何も悪くない!!

 なのに、なんでこんなことになるわけ!!

 忽那来夏ヒステリックが犠牲になれば良かったのだ。

 あるいは、加奈代以外であれば、こんなに葛藤することもなかった。

 あるいは、自分がこの場に残っていなければ、気楽な傍観者になれた。

 どうして私は、いつも運が悪いの!?


 逃げ出したいと思った。

 すべてから逃げ出したい。


 智美は意を決して手を伸ばした。

 頭に酸素が行き渡っていない。

 緊張と罪悪感から、頭がぼぅっとしてきた。

 今は、早く終わらせたかった。


 向かって左側のカードに手を掴む。

 そのときだ。


 ──違う! そっちじゃない!!


 声が聞こえた。

 智美はぎょっとなって我に返った。

 慌てて周囲を見回す。

 けれど見えるのは、自分を訝しむ周囲の表情だけだ。

気のせいだったのだろうか?

智美は再び、向かって左のカードを掴んだ。


──だから、そっちじゃない!!


 再び、声が聞こえた。

 間違いない。これは、目黒圭祐(幽霊)の声だ。


 ──左がクィーンで、右がスペードの5だ。


 心臓が痺れるような痛みを覚えた。

 完全に運だと思っていたゲームに、イカサマが仕込まれていたらどうだろう?

 しかも、自分の都合の良いほうに…。


 完全に運任せだからこそ、仕方ないと思えることが出来た。

 だが、そこに自分の意志が介入できたとしたら?

 自分の意志で、選ぶことができるのなら?

 

 智美の中に複雑な想いが交差する。

 加奈代が選ばれたのなら、どうなるのか?

 泣き叫ぶ親子の姿が容易に想像できた。

 龍也少年はきっと、自分のしたことを激しく後悔するだろう。

 自分の手で、愛する親を殺してしまったと、幼い心に刻むことだろう。

 

 いや、よくよく考えてみれば、まだ死ぬと決まったわけじゃない。

 人面ナイフが封印されたお陰で、ヒガン髑髏の呪蓋は弱まり、無事に外に出ることができるかもしれないのだ。

 そうだ。

 私は悪くない!!


 智美は、向かって右側のカードを引いた。

 引いた瞬間、ふと思った。


 そもそも圭祐がカードを教えてくれた理由はなんだろう?

 おそらく圭祐は、ずっと自分のオーラの中に潜んでいたはず。

 あのとき、圭祐に憑りつかれるのを拒否したが、圭祐は消えるふりをして、智美の影に潜んでいたのだろう。

 廃校で急に消えた理由も、トンネルで彼の声を聞けた理由も、それなら納得できる。

 生魂憑依ができる彼ならば、呪蓋の中でなら、自分の気配を完全に消すことも可能なはずだ。


 だとしたら圭祐は、智美の「あの行動」も見ていたはずだ。

 言い逃れできない決定的な証拠を残した瞬間を。


 ぞわりとした。

 やられた! と気づいた。

 このカードは、クィーンだ!!!!


カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。

ちなみに、カクヨムのほうで評価しないと、カウントされません。

何卒、よろしくお願いいたします。


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