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ワン・オールドメイド 3

 阿久津未来ギャルが、次に抜けが確定した友人の友枝姫蒔ギャルと抱き合って喜んでいる。

 智美オカメンがショックを受けているうちに4周目は終わり、5周目が始まった。

 前の縦抜和文オカメンからカードをひったくるように取ると、素早くかき混ぜる。

 一刻も早く、ババを捨てたかった。

 最後までペアが出来ず、ひとり孤独に死んでいく。

 それが「オールドメイド」の本来の意味。

 友達もできず、誰からも愛されずに、犠牲にだけはなる自分の生き方に、重ねて見えた。

 そんな惨めな最期は絶対に嫌だった。


「え? 見なくていいの?」

 次の番の山下朋子ギャルが、戸惑ったように言う。

 しまった!

 智美は、全身の毛穴が粟立つのを感じた。


 智美は自分がクィーンを持っていることを知っている。

 だから、揃わないことを知っていた。

 早くクィーンを手放したい一心で、確認するという、誰もが行っている動作を端折ってしまった。

 私は今、いったいどんな顔をしているだろう。

 息が、苦しい。

「あ、…うん」

 糊のように粘る息をなんとか吐き出し、それだけを口にする。

 カードを見て、それからシャッフルを再開した。

 白々しい行動だった。

 明らかに周囲の空気が一変している。

 智美がババを持っていることは、おそらく全員にバレてしまった。


 ゲームが進行していく。

 ババを智美が持っているのがバレたせいか、カードを引くスピードが早くなった気がする。

 5周目は8名が抜けたが、6周目は0名だった。

 智美は、忘れないよう確認する演技をしてみせたが、次もクィーンは手札に残った。

 惨めな孤独死が、自分の手から離れてくれない。

 込み上げて来る無念の想いが、表情を溶かしてしまいそうだった。

 けれども必死に我慢する。

 堪えきれなくなった瞬間、自分の中の大切な何かが崩壊しそうだった。


 7周目。

 引け! ババを引け!!

 祈ったが、ババは手元に残った。

 代わりに朋子が抜けていった。

 7周目の抜けは多く、10名となった。残りも10名だ。

 

 8周目。

 智美は再度、祈った。

 お願いです!お願いです!お願いです!

 今まで誰も自分の声に耳を傾けてくれなかった。

 どんなに助けてと言っても、誰も助けてくれなかった。

(だからお願いします! 最後くらい! いい思いをさせてよ!!)


 松田加奈代(小学生の母)の手が、智美のカードに伸びてくる。

 こちらの緊張を感じ取っているのか、なかなか決めてくれない。

 智美は心臓が破裂しそうだった。

 手汗が気持ち悪い。

 自分の2枚のうち、どちらがクィーンか智美は知らない。

 知っていたら、とてもじゃないが、表情を消すことはできなかっただろう。

 真壁の配慮が、今の智美を救っていた。

 足りないのは運だ。

 才能を得るために、殺人まで犯したのに、こんなところで死ねるか!


 加奈代がようやくカードを引いてくれた。

 彼女はちらっとカードを見て、すぐにシャッフルをはじめた。

 カードは揃わなかったようだ。

 どっちだ? どっちが残っている?

 智美は、おそるおそるカードを確認した。

 精神はすでに限界に近い。

 今度もあの、自分の人生の象徴のような呪いのカードが残っていたのなら…。

 

 カードを傾ける。

 徐々に、模様が明らかになる。

 どっち? どっちなの!?

 カードを見る。


 手元にあったのは、ダイヤの7だった。


 智美は内心で歓喜した。

 熱いものが込み上げてくる。救われたような気がした。

 世界が自分を認めてくれたような気がした。


 8周目に動きはなかった。

 カードが少ない分、一気に数が減るかと思ったが、ここに来て停滞が起こった。

 抜けは0名。次の9周目、10周目もそうだった。

 10名を維持したまま、11周目に入る。

「よっしゃぁ!!」

 金村翔太(下睫毛)がペアを揃え、離脱した。

 その後ろの、蜜蜂花子(運営スタッフ)も自動で抜けが決定する。

 さらに4名が抜け、11周目終了時に、残りは4名となっていた。


 智美と加奈代、縦抜と荒木望(大学生)の4名だ。

 智美は縦抜からカードを引いた。

 クラブの5だった。手札はダイヤの3。まだ抜けることができない。

 加奈代が智美の手札からカードを引く。

(抜けないで!!)

 智美は祈った。

 加奈代が落胆の表情をする。どうやら、揃わなかったらしい。

 そして荒木が、カードを引き、小さく拳を握り締めた。

「よし!!」

 カードを地面に捨てる。

 ダイヤの3とハートの3が揃っていた。


 智美は呆然と、縦抜を見る。

 荒木が抜けたため、彼の抜けも決定している。

 彼の持つ1枚のカード。

それを次は、智美が引くのだ。


 どくん。

 胸が痛い。

 ドクンドクンドクン!!

 心臓を小刻みにノックされているかのようだ。

 

 残るカードは、自分の持つクラブの5、それと対となるスペードの5、そしてクラブのクィーン。

 つまりは、ババだ。


 ここで彼の持つカードが5なら、智美の抜けが決まる。

 だが、それ以外なら…。


 手が震えた。

 命のかかったカードの重さ。

 こんなにも緊張するゲームが、今まであっただろうか?


 震える手で、縦抜の手からカードを引いた。

 そして、ゆっくりと裏返す。


カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。

ちなみに、カクヨムのほうで評価しないと、カウントされません。

何卒、よろしくお願いいたします。


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