呪憑物・人面ナイフ
畑中由詩たち居残り班は、廃校の教室で、猿姫人形の捜索班が戻ってくるのを待っていた。
下手に寝てしまうと猿夢に殺されてしまう。
とてもそんな気分ではなかったが、仕方なく体を動かすゲームなどをしながら、睡魔と戦っていた。
「居残り班は全員いるか?」
入ってくるなりシュンケル(Youtuber)が質問を投げた。
「ええ。全員いますけど…。それで猿夢は!?」
シュンケルが気まずそうに視線を逸らす。何か嫌な予感がした。
「詳細は言えないが、もう少し時間がかかる」
「え? どういうことですか? どうして言えないんです!?」
「おい」
低い声で威圧してきたのは篠田武光(金髪)だった。
「気持ちは分かるが、少し落ち着け。あとでキチンと話すから」
「どうして今は言えないんですか?」
「あんたらの命を守るためだ」
「……」
そのように言われたら、由詩は何も言えなくなった。
「嘘だ!! あんたら何を企んでるの!!」
吠えたのは忽那来夏だ。
こちらの不満を代わりにぶちまけてくれるし、黒幕がいるという主張も、それなりに賛同する人はいるが、やはりまだ、ちょっと空気が読めない人といった印象がある。
彼女が騒ぐと、そのぶん、こちらが大人にならなければならない気がするのだ。
「わかりました。いつまで待てばいいですか?」
「ちょっとあんた! 何勝手に納得してるの!? おかしでしょうが!!」
「ちょっといい加減にしなよ! 大人なのにみっともねえ」
来夏に突っかかってきたのは阿久津未来だ。
最近ふたりは言い合いになることが多かった。
「たぶん、明け方までかかると思う。それまで単独行動をとらないよう見張りながら、待っていてほしい」
シュンケルがふたりの喧嘩を尻目に答えた。
正直、「見張る」という言葉に違和感があったが、単に「目を離した隙に寝てしまう人がいないように」という意味で理解した。
猿姫人形の捜索班が全員戻ってきたのは、陰鬱な朝日が不気味な光を放つ、朝の6時だった。
全員が一睡もせずに、彼らの帰りを待っていた。
正直、小学生たちがいるので心配だったが、友人の末次宏樹(小学生)が猿夢に殺されたことが相当ショックだったのだろう。ウトウトすることさえもなかった。
由詩たちは運動場に集められ、驚くべき事実を聞かされた。
今回のイベントで、運営が容易した呪憑物は全部で13個。そしてヒガン髑髏を除き、本物の呪憑物は4つだった。
動画配信を見たオカメンたちの情報から、4つのうち、3つの呪憑物は判明している。
猿姫人形、人面ナイフ、しおりちゃん日記の3つ。
猿姫人形は発見されたが、呪いの中身=エンティティは空っぽだった。
それはつまり、ここにいる誰かの肉体に憑依していることを示す。
念のため捜索班は、すべての呪憑物を回収した。
その結果わかったことは、人面ナイフとキンシン袋の2つが行方不明であること。
そして、しおりちゃん日記のエンティティも空っぽだったという事実だ。
つまり──
「この中に、呪憑物に憑りつかれた人が最低ふたり、そして消えた呪憑物を隠し持っている人がいるかもしれないんです」
真壁浩人が代表して事情を説明してくれた。
けれども理解が追いつかない。
確か、呪憑物に憑りつかれた人間を助ける方法はなく、地面に埋めて封印するしか術はないと言っていたはず。
それはつまり、私たちの中からふたりを選んで、地面に埋めて殺せという意味なのだろうか?
「そこで、みなさんの荷物を確認させてください」
「はぁ!? ふざけないでよ!! なんで私たちが持ってることが前提なのよ!!」
来夏が声を荒げる。
確かに、誰かが持っているという決めつけはおかしい。野生の動物が持ち去った可能性もあるだろう。
「なんでそんなに嫌がるんだ? もしかして見られたくないモノでも入ってんのか?」
篠田が煽るように言った。
「何それ!? なんでそんな発想できるの!? 気持ち悪い!!」
「もちろん、持っていない可能性のほうが高いとは思っています。ただ、調べないなんて選択肢はない。そこは理解できますよね?」
「あの…」
手を上げたのは、佐土原麻衣の父親、佐土原典秀だった。
小学生の3人は母親と参加していたが、麻衣だけは父親が参加していた。
早くに母親を亡くしたと聞いている。
「もしも、呪憑物を持っていた場合、その人は憑りつかれていると思っていいんでしょうか?」
典秀の質問に、葉月は面倒臭そうに答えた。
「十中八九そうだな。まともな人間は呪憑物を持ち去らねえだろ? その時点で『呼ばれてる』んだよ」
「100パーセントではないのですか?」
「なんらかの理由で直接触っていないなら、憑りつかれていない可能性はあるぜ。ただ『呼ぶ』目的は触れさせるためだから、持ち去って触れていないなんて考えにくいってことさ」
少し揉めたが、最終的には全員が荷物を調べることに同意した。
「勝手に荷物を触られるとか嫌なんだけど!!」
「じゃあ、自分で出せばいいだろ?」
来夏が文句を言ったので、篠田がそのように言い放った。
確かに、自分の荷物を人に調べられていい気はしない。
その配慮は嬉しかった。
紛失した呪憑物のうち、キンシン袋を見たことがあるのは蜜蜂花子(運営スタッフ)だけで、人面ナイフについては動画で配信されていたが、正確に覚えていない人も多かった。
けれども、人面ナイフは古いナイフ、キンシン袋は赤黒い巾着袋と、そのままのイメージなので、それっぽい物を見つけたら、葉月たちを呼ぶ流れだ。
最初に、リーダー班がみんなの前で持ち物検査をして、身の潔白を証明した。
残りの参加者については、1人ずつ行うと時間がかかるので、いくつかのグループに分かれて、同時に持ち物検査をすることになった。
運動場のテントの中に荷物を置いていた由詩は、同じく外に荷物を置いていた数人と、グループを割り当てられた。
由詩たちのグループの立会者は、シュンケルと天元健三郎(髭)のふたりだ。
順番に荷物が確認されていく。
次は由詩の番だ。
由詩は荷物を取り出そうして、指先に鋭い痛みを覚えた。
見ると、指先がぱっくりと切れていた。
「どうかした?」
目ざとく気づいたシュンケルが、駆け寄ってくる。
「ちょっと指を怪我したみたいで…。絆創膏あるから大丈夫です」
由詩は再び、鞄の中に手を入れて、
──それに気づいた。
不気味なナイフが入っていた。
刃の部分に、気味の悪いシミがついている。
そう、そのシミは、何人もの人間が苦悶の表情で叫ぶ怨嗟の顔に見えた。
どくん!
由詩の心臓が脈打つ。
どくん、どくん!!
どうして、これが自分の鞄の中にあったのだろう?
……い、……い。
この指の傷は、おそらくこのナイフに触れて、ついたものだ。
…くい、にく…い。
激しい感情が流れ込んでくる。
にくいにくいにくいにくにくいにくにい!
声が明確な意志を伝えてくる。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!
殺せ!殺せ!殺せ!!
由詩は、呼ばれるままに、人面ナイフの柄を掴んだ。
カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。
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