伏線 3
昨日はあまり眠れなかった。
電気をつけて、少し眠っては、わずかな気配に目を醒ます。
けれども目を開けると、目の前にアイツがいそうで、目を閉じたまま時間が過ぎるのを待った。
何度もそれを繰り返す。
おかげで、最悪な朝だった。
生徒たちと一緒に校門をくぐる。
教師が何人か立っており、「おはよう」と声をかけてくる。
「おはようございます」
圭祐も挨拶を返した。
「おかえりなさ、いませ~」
奇妙な声が混じった。
聞き間違いかとも思った。
ぎょっとして、後ろを振りかえる。
あの不気味な怪異が立っていた。
「おかえりなさ、いませ~」
耳まで避けた口を、歪に引き攣らせ、怪異はさらに笑ってみせた。
「うわああああああ!!」
圭祐は必死に逃げた。
上履きに履き替えることなく、玄関を通り抜け、廊下を走る。
「おかえり~」
怪異が追いかけてくる。
けれども、誰も気にする様子はない。
こんなに生徒がいるのに、誰も怪異に気づいていなかった。
やはりというか、あいつは圭祐にだけしか見えていないのだ。
圭祐はいつの間にか、屋上に追い詰められていた。
屋上に通じるドアを閉めた瞬間、自分の過ちに気づく。
鍵は内側だったのだ。
つまり屋上に出た圭祐には、ドアに鍵をかけることができない。
絶体絶命だった。
あの怪異相手に、力で押し勝つことができるだろうか?
いや、無理に決まっている。
ドアノブがゆっくりと回っていく。
圭祐は泣きそうになりながらも、必死にドアとドアノブを押さえた。
(死ぬ! 殺される!!)
あの怪異に捕まれば死ぬ。
根拠はないが、本能がそれを感じ取っていた。
ドアノブが回っていく。
圭祐の力では押さえることはできない。
諦めた圭祐は、慌ててどこかへ逃げようとするが、恐怖で足はもつれ、無様に転んでしまった。
ドアがゆっくりと開いていく。
「あ、ああ…」
圭祐は涙の混じった絶望の声をあげた。
どうして自分がこんな目に遭うのか?
この世界には理不尽しかないのか?
ドアが開く。
そして、中から飛び出してきたのは…。
──雛原乙希だった。
圭祐は混乱した。
怪異が出てくると思ったのに、現れたのは、学校でも有名な美少女、雛原乙希だったのだ。
乙希はすぐに圭祐を見つけると、
「えっと、名前を訊いてもいいかな?」
「え? あ…。目黒圭祐…だけど」
まだ頭が混乱している。
疑問に思うことはたくさんあるはずなのに、圭祐は呑気に自己紹介をしていた。
「…目黒圭祐…くんね? ちなみに、私の事はわかる?」
「え? ああ。一応は、知ってます」
つい敬語になってしまった。
彼女は圭祐と同じ学年で高2だ。
けれども自分は陰キャで、向こうは陽キャの中でもトップに君臨する存在。対等であるはずがなかった。圭祐のことを知らないのも無理はない。
「どんなふうに?」
「え? どんなふうにって…、普通に」
何が普通なんだろう、と圭祐は心の中でツッコミを入れた。
「そっか…」
乙希はどこか安心したように息を吐いた。
「それはそうと、目黒くん。君は何かに追われているよね?」
どうして乙希がそのことを知っているのだろう?
一瞬疑問に思うも、それ以上に、理解者がいたことに嬉しさを覚えた。
「そうなんです! でも、なんで?」
「え? なんでって?」
乙希は意味がわからない、といった表情をした。
「誰にも見えていないようだったから」
「ああ…」
すると乙希はあっさりと、ある意味予想外で、ある意味納得できる答えをくれた。
「私には霊感があるの」
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