デスゲーム1日目 4
曰く付きの廃村で、いわくつきの呪憑物を集めているとはいえ、100人近い人がいるせいか、昼間から恐怖を覚える人は、まったくと言って良いくらい、いなかった。
幽霊である圭祐は、敏感に不気味な気配と、常に誰かの視線を感じていたのだが、乙希や向井をはじめ、それに気づいている者はいないようだった。
自分をセンサーとして雇った乙希の考えは正解だったと言える。
だが、それに気づいたからといって、圭祐に何ができるわけでもないのも、また事実だった。
「それでは、『自己紹介&ホラー語り』をはじめたいと思いま~す!」
YouTuberのハイジンの声が、スピーカーを通して聞こえてきた。
デスゲームの本番は、ひとりで過ごす夜だ。
つまり、昼間はちょっと暇になる。
運営もそのことを理解しているのか、昼間の時間は、レクリエーションや食事の準備などに費やすスケジュールになっていた。
初日の今日は、自己紹介。
ただの自己紹介ではなく、怖い話を添えての自己紹介となる。
壊れた校舎の中で、20数名ずつの組をローテーションさせることで、最低一度は全員と話をする感じになっていた。
ちなみに、自分が経験した怖い話は強く、人伝に聞いた話だと、誰かと被って恥をかく可能性もあり、その点もなかなか面白かった。
このレクリエーションのおかげで、圭祐は全員の顔と名前を把握できた。
自己紹介が終わったら、さっそく夕食の準備がはじまった。
狙ったのか、メニューは定番のカレーだ。
ガスを使うため、運動場で料理を行っていた。食事もここでする予定だ。
「食事のときはチャンスかもしれません」
「え? 何が?」
カレーの鍋を掻き混ぜている乙希に、圭祐は話しかけた。
幸い、独り言が聞かれそうな位置に人はいない。
「H乳業です。食事のときは、着ぐるみを脱ぐと思うので」
「ああっ、ああ! そうね。あと、H乳牛だから」
「…もしかして忘れてました?」
「そんなわけないよ~。いきなりだったから、どの話かわからなかっただけ」
圭祐はH乳牛の姿を捜した。
しかし、見えるところにはいないようだ。
あまり人の顔を覚えるのは得意なほうではなかったが、ここにいる全員の顔は必死に覚えた。
仮にH乳牛が素顔で混じっていたとしても、すぐに気づく自信がある。
H乳牛は食事の時間になっても現れなかった。
「どうしたんでしょう?」
「さあ? …聞いてみようか?」
YouTuberたちは、それぞれ違うテーブルに座っていた。
彼らだけで固まるのではなく、ファンたちとの交流を優先しているようだった。
乙希は同じテーブルの夜昼寝(YouTuber)に尋ねた。
「ああ、もう少ししたら来ると思うよ」
「何かあったんですか?」
「ああ。いや、心配するようなことはないけど、ほら、あいつ着ぐるみじゃん」
「ええ」
「ファンに素顔を見せるわけにはいかないから、食ってからこっちに来るってさ」
「……」
その可能性は考えていなかった。
確かにファンのことを考えれば、食事とはいえ、素顔を晒すわけにはいかないだろう。
「すぐに行けば間に合うかもしれません」
「え? …ええ、そうね」
何故か乙希の歯切れは悪い。
どこらへんで食べているのだろう?
そんなふうに、まわりに視線を巡らせたときだ。
「あ! H乳業が来たぁああああ!!」
小学生たちが騒ぎはじめた。
「もお~! だから業者じゃないって!
校舎のほうから、H乳牛がやってきた。どうやら、間に合わなかったらしい。
食事をとった後は、各自が自分の宿泊ポイントへ移動した。
廃村は数キロに広がっているため、遠くのポイントを割り当てられた者は、早めに移動する必要がある。それでも、22時までは自由に移動して良い決まりだった。
真夏の空は日が長く、19時を過ぎて、ようやく夕焼けに染まりはじめた。
しかし、空の色が変わってからの変化は早く、あっという間に暗くなった。
「焦る気持ちは分かるけど、7日もあるんだから…」
持参したテントの中で、乙希は小説を読みながら、やんわりと否定してきた。
スマホが使用できるのは今日知ったので、乙希は暇つぶしに本を持ってきていたのだ。
ただし、トラフィックと公平性の問題から、22時までは通信は切られていたし、22時以降も助けてコール以外のスマホの使用は禁止されていたため、結果的に暇つぶしのツールは必須だった。
「でも、はやく犯人を特定しないと…」
圭祐としては、なんとかH乳牛の素顔を見たかった。
けれども、乙希の反応は鈍い。
あまり気が進まないようにも思えた。
「雛原さんは、あまり賛成じゃないんですか?」
思わず尋ねていた。
乙希は小説から、視線を外した。
「…目黒くんは、犯人を見つけたらどうるすの?」
その質問に、すぐには答えられなかった。
自分を殺した相手であり、家族の仇でもある。
出来るのなら、呪い殺してやりたい。
けど、どうやったら呪うことができるのだろう?
霊体が現世に影響を与えるには、呪蓋を降ろす必要がある。
圭祐は、そのやり方すら分からなかった。
向井に聞けば教えてくれるだろうか?
犯人を殺したいので、呪う方法を教えてください。
果たして向井はどう答えるだろう?
「私は、少し怖いかな。目黒くんには悪いけど…」
ああ、そうか。と圭祐は理解した。
すでに死んでいる自分は大丈夫かもしれないが、乙希は違う。
最悪、殺されてしまう可能性もある。
犯人に近づきたくない、という気持ちは理解できるものだった。
犯人を知って、すぐに警察に駆け込めば良いかもしれない。
けれども、そのためにはデスゲームを降りる必要がある。
命の危険を覚悟してまで、乙希はこのゲームに参加している。
途中で降りることはないし、また関係のない殺人に巻き込まれるつもりもないのだろう。
彼女の立場からすれば、渋るのが当然かもしれない。
「でも、なんだか嫌な予感がするんです」
「…ごめん。着替えるから、ちょっと外に出てもらえる?」
乙希は自分の服に手をかけた。
生前は同級生だった女子のそんな所作を見たら、圭祐としては外に出ざるを得ない。
幽霊だから、という理由は、ナンセンスだ。
「人が少ないほうだったら、見つからないと思うから」
乙希の言葉が、圭祐の背中に投げかけられた。
谷間に位置する廃村は、異様な静寂に包まれていた。
満天の星空は美しいが、それ以上に不気味な闇があたりを覆っている。
まだ22時ではないので、散策している参加者がいて、圭祐は今にも飲み込んできそうな、森の暗闇に身を隠した。
変な話だが、幽霊になっても怖いものは怖い。
いや、感覚が優れているぶん、ダイレクトに恐怖を感じてしまう。
早くこの場から逃げ出したいと思った。
と、そのときだ。
「…、…い、…ん」
ぞわぞわと耳にまとわりつくような声が聞こえた。
この世ならざる者の声。
ぞくりと背筋が粟立つ。
闇の奥から何か悍ましいモノが急速に迫ってくる気配を覚えた。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!)
圭祐は泣きそうになる。
明らかに何かが近づいてきている。
必死に逃げようとするが、体が金縛りになったみたいに重い。
夢の中で必死に体を動かそうとしているみたいだ。
「お…、…い、ちゃ…」
掠れた怨嗟の声が頭の中を掻きまわしてくる。
(嫌だ!嫌だ!嫌だ!逃げたい逃げたい逃げたい!!)
「おにい…ちゃん」
刹那、怨嗟の声がはっきりと聞こえた。
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