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雛原乙希

 雛原乙希は、幼いころから自分が「持っている」側の人間であることを知っていた。

「乙希ちゃん、可愛いね」

「乙希ちゃん、なんでも出来るんだね」

 何をしても、どこへ行っても褒められていたし、同時に不思議にも思っていた。

(どうして、この程度の事ができなんだろう?)

 やがて、乙希は人が平等ではないことを理解した。


「雛原さん、付き合ってください!」

 思春期になると、男から告白されることも多くなった。

 むろん、人から好きだと言われて嫌な気はしないし、誇らしくもあった。

 けれど、それ以上に、あまり話したこともない相手からいきなり告白されるのは、謎だったし、恐怖でもあった。

 どんな性格かも分からないし、価値観や趣味もわからない。

 それなのに、どうして外見だけで、付き合うという親密な関係になれると思うのか?

 彼らは乙希という人間が好きなのではなく、単に欲情できる玩具がほしいだけではないのか?

 だとしたら屈辱だ。


 そんなことを、女友達に愚痴ったことがあった。

 同意してもらえると思った。

 同情してくれると思っていた。


「なんか調子乗ってない?」

 

 女子の間で陰口を囁かれるようになった。

 陰口だけど、すぐに乙希の耳にも届いた。

 当然だ。

 女子の陰口は、聞こえるように言うものだから。


 どうしたらいい?

 攻撃を受けている。

 泣き寝入りすればいい?

 こっちが謝ればいい?


「霊感あるとか、何様アピールよ。馬鹿じゃない?」


 仲の良い友達には、霊感があることを話していた。

 私の生まれつきの個性。

 私だけが見える世界。

 それが否定された。


 乙希にとって「霊感がある」は単なる事実だったのだが、「持たざる者」にとってはそうではなかった。

 マウントの道具。

 他人よりも優れている証。

ただでさえ、すべてを持っている自分が、それをアピールしたのが鼻持ちならなかったのだろう。

 気持ちは分かる。

 だけど、許せなかった。


 なぜなら、乙希に霊感があることは本当だからだ。

それを勝手にマウントの道具にされたことにも腹が立つし、ましてや「乙希は嘘つきだ。でも自分には霊感がある」と、嘘つきが本物を詐欺師呼ばわりしてくるのだ。

AI絵師が、本物のイラストーターを侮辱して煽るような行為。

こんなことが許されていいわけがない。


 乙希は、戦うことを決めた。


 彼女たちが表立って攻撃してこないのは、それをやったら男子を敵に回すから。

 だから、こっちから男子に近づいて、男子と仲良くなった。

 ちやほやしてくれる相手。

 それはそれで楽しかったけど、女子の間でも居場所が欲しかった。

 

 なので、男を提供してやった。

 言い方を変えると、恋の仲人になってあげた。

 冷静に男女を観察していると、乙希がその中心にいるからかもしれないが、誰と誰が片思いなのか、なんとなく分かってくる。

 女子の片思いの相手が、乙希の取り巻きなら、しめたものだ。

 乙希に寄ってくる男のほとんどは、乙希の中身には興味を持たない性欲の塊。

 そんな連中ほど、きっぱりとフって、「〇〇があなたのこと好きみたいだけど?」と言うと、そっちに乗り換えるのだ。

 無論、付き合うに至るまでのフォローは手厚くしてあげた。


 結果、女子の信頼を取り戻すことができた。

 だけど、主犯の連中は許せない。

 何事もなかったかのように、謝ることもせずに、「誤解だよ」と必死に言い訳して、みっともないし、かえって怒りが再燃した。

 向こうが先に攻撃してきたのだ。

 こちらが攻撃して何が悪い。


 でも、虚しかった。

 何をやっているんだろうと思った。

 私はすべてを持っているつもりでも、本当に大切なものを持っていないのではないか?

 中途半端だからこそ、こんなどうでもいい苦労をするのではないか?

 そんな不安を覚えた。

 

 楽になりたい。

 マウントしたいわけでも、幸せになりたいわけでもない。

 ただ、無駄な苦労をしたくないだけ…。

 そんな力がほしかった。

 そんな才能がほしかった。

 中途半端な才能でなく、誰もが認めてくれて、アンチすら湧かないような絶対的な才能が!


 そんなときだ。

 ヒガン髑髏の話を聞いたのは…。


 ヒガン髑髏の映像を見たとき、ぞわぞわぞわっと鳥肌が立った。

 ヤバいヤバい! と頭の中でサイレンが響き渡った。

 あれは本物じゃないの?


 その夜は眠れなかった。

 布団のなかで、何度も向きを変えた。

 もしあれが本物なら、噂通り、才能を授けてくれるのだろうか?

 中途半端じゃない、本物の絶対的な才能を。

 

 ぶるりと、体が震えた。


(え? なに?)

 声が出ないことに気づく。

 体も動かない。金縛りだ。


 ぞわりとした感覚が辺りを包み込む。

 キーンと、耳鳴りが響いた。

(何か…いる)

 

 気配を感じた。

 横向きに寝ている乙希の背後。

 それは「なんとなく」という曖昧なものではなく、確実に「いる」と思わせる気配だった。


 どん、と二の腕を叩かれた。

(ひっ!)

 さらに、トントンと二の腕を叩かれた。

 恐怖で思わず目を閉じた。

 目を開けたら、致命的な何かを見てしまうような恐怖。

 何度か霊は見たことがある。

 部屋の隅とか、遠くの窓とか。

 けれども、やはり慣れることはない。

 怖いものは怖い。


 しばらくの静寂。

 去ったのか?

 そう思った瞬間。

 ズン、といった感じで、誰かが乙希の上に覆いかぶさってきた。

 

 呼吸の音がする。

 顔に息がかかっている。生暖かい息。カビたような臭いがした。


「ネガ、イを…。サイをあたえ、ヨウ…。4つの…ヤクサ、イをあつめ…シチニ、ナナニ…ん…ナノカ…いき…ノビよ」


 乙希ははっとなった。

 これは、ヒガン髑髏の傀祇言文。

 やはり、あれは本物なのだ!


 どうして、気を抜いてしまったのか?

 興奮した乙希は思わず、目を開けてしまった。


 顔の上半分がぽっかりと抉れた、おぞましい女の幽霊を、間近で見てしまった。


カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。

ちなみに、カクヨムのほうで評価しないと、カウントされません。

何卒、よろしくお願いいたします。

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