開始前
「確か、100人の参加者で7日間逃げ出さずに生活したら、賞金がもらえるんでしたよね?」
「そ。場所はオカルトマニアの間では有名な、ちょっと曰く付きの廃村なんだけどね」
怪異から逃れ、自分がすでに死んでいることを知った次の日、休日のファミレスで、圭祐は乙希からデスゲームの詳細について説明を受けていた。
怪異から守ってくれたら、デスゲームに一緒に参加する。
その約束を果たすために。
けれど、オクリヌシからも逃げ回っていただけの自分に、果たして何ができるのだろうか?
「YouTuberのハイジンとシュンケル、やまだ天気とH乳牛、それと夜昼寝の5人。彼らが企画したイベントなの。名前くらいは知ってる?」
「ハイジンとシュンケルくらいは。ほかは知らないです」
「ええ~。あんまり動画見ない人?」
「お待たせしました~」
ファミレスの店員がやってきて、テーブルの上にデザートとパスタを並べた。
苺パフェと抹茶パフェ、ココッシュとチーズケーキ、ついでにマカロンアイスまである。
全部、乙希が食べる気なのだ。
ただしパスタは乙希が食べる訳ではない。
体面に座る男性のものだ。
「っていうか、向井さんもしゃべってよ。私が独りごと言ってるみたいじゃん」
「あ、ああ…」
言われて、乙希と圭祐の対面に座る青年が曖昧に頷いた。
彼こそが乙希の言っていた知り合いの霊能者で、怪異から圭祐を助ける術を教えてくれた人物である。癖ッ毛に眼鏡の、ややぽっちゃりとした体形の男だ。
乙希が趣味で入っていたオカルト系SNSで知り合い、意気投合した仲らしい。
元から霊感のあった乙希は、自分と同じ霊感を持つ人たちのつながりを求め、いろんなオカルト系のSNSやサークルに参加して人脈を増やしているのだという。
ただでさえ、マニアックな集まりに、乙希のような美人で陽キャがやってきたら、さぞチヤホヤされるだろうな、と圭祐は思った。
「…というか、こんなにハッキリと幽霊を見たのは初めてで」
「ちなみにどの程度見えてるの?」
「一応は人の顔に見える」
圭祐は、果たして自分はどんなふうに見えているのだろう? と疑問に思った。
どうやら思っているよりは、幽霊っぽい風貌をしているらしい。
ふと、圭祐の脳裏に甦るものがあった。
──えっと、名前を訊いてもいいかな?
初めて乙希と会ったときの科白。
今思えば、乙希は自分の名前を知らなかったのではなく、誰だか分からなかったから、名前を訊いたのだろう。
その証拠に、
「目黒圭祐くん…ね」と、学年を訊く前に、自分を「くん」付で呼んでいた。同学年であることは知っていたのだ。
「でも、ウイスパーは見たんでしょ?」
「あれは幽霊じゃなく、呪いの一種だから」
「はいはい」
真顔で言う向井に、乙希が呆れた表情をした。
「ウイスパー?」
「あとで説明するわ。デスゲームに関係することだし。そのまえに…デザートね!!」
乙希がデザートに夢中になったので、圭祐は少しばかり手持ち無沙汰になった。
ちらりと向井を見ると、向こうもこちらを見ていた。
目が合う。
「あの、向井さんは霊能力者なんですよ…ね? 幽霊をハッキリ見たのは、これが最初なんですか?」
「このレベルでは初めてだよ。今までは『縁』がなかったんだろうね。条件を踏んだり、相性が良かったりすると縁は強くなるんだけど、こんなふうに霊と会話するのも初めてだよ。君のように魂と魂魄がくっついている状態は珍しい」
「魂と魂魄って違うものなんですか?」
「人が、魂と精神、肉体の三要素からできているのは知ってるかい? プシュケ、プネウマ、ソーマとも呼ばれる。魂はそのまんまソーマの座で、魂魄はプネウマの座に位置する。簡単に言うと、君は幽霊でありながら、意志を持っているということさ」
「普通はないんですか?」
「ないね。呪いや怨念が、条件を踏んだ者を無差別に攻撃するのは、そこに意志がないからさ。魂魄、つまりは精神だけの存在として、この世に存在している」
分かるような分からないような話だった。
「乙希くんが食べてる間、僕のほうからデスゲームについて説明しようか」
向井が話した内容をまとめると次のような感じだった。
ハイジン、シュンケル、やまだ天気、H乳牛、夜昼寝の5人の人気YouTuberがコラボ企画として、参加型の肝試しを計画した。
夏休みに合わせた企画だったため、安直に肝試しになったらしい。
しかし、普通の肝試しと違っていたのは、曰く付きの場所で、曰く付き呪憑物をたくさん集めた中で行うという、YouTuber特有の悪ノリだった。
本当に呪われたらどうなるか?
そんな不安や懸念は、「おもしろそう」というノリの前には一顧だにされなかった。
むしろ、彼らが自らアピールする「デスゲーム」という方向性にマッチしいていた。脱落者をOUTと表現し、死んだ扱いにする。その悪ノリに。
彼らが集めた呪憑物の多くは偽物だった。
呪いの効果はなく、単に不気味な逸話を持つだけの紛い物。
しかし、その中に、本物の呪憑物が混じっていたのだ。
「ヒガン髑髏。7日間生き残った者に、比類稀ない才能をもたらす成就の器。それが混じっていた」
「才能…ですか?」
「そうだ。才能だ。歌の才能があれば、あらゆる聴者を魅了できるし、スポーツの才能があれば、金メダルも夢じゃない。絵の才能があれば誰もがちやほやしてくれるイラストレータに成れるし、商売の才能があれば大金持ちさ」
圭祐はごくりと息を飲んだ。
才能。
生まれながらに決まっている人生最初のガチャ。
これがあるかないかで、大きく人生が変わる。
後天的にそれが得られるのだとしたら…。
「あ、でも…、どうしてそれが本物だと分かったんですか?」
「ウイスパーが現れたんだよ。7日間生き延びたら才能をやるって、啓示を伝えに。…シュンケルたちが企画を盛り上げるため、いつかの呪憑物を動画で配信したんだが、その中にヒガン髑髏が混じっていた。それを見た者すべてのところに、おそらくウイスパーが現れている」
「だけど、全員が啓示を受けたわけじゃないわ」
乙希が話に戻ってきた。
「え? どうしてです?」
「ウイスパーは霊的な存在。霊感がない人には見えないし、気づかれないの。朝までぐっすりってわけ」
「実際、僕たちのオカルトコミュニティでも、見た人と見てない人で大きく割れていたよ」
「生き延びたら…って、人が死ぬってことですか?」
「…正直わからない。だた、ヒガン髑髏にはテラーフィールドを作り出す力があるとされるわ」
テラーフィールド。どこかで聞いたことがあった。
そうだ。
オクリヌシが出現する直前に感じた、肌にまとわりつくような恐怖の気配。
それを乙希が、テラーフィールドと呼んでいた。
「僕はテラーフィールドじゃなく、呪蓋と呼んでるけどね」
向井が説明を引き継いだ。
呪蓋。
それは、この世あらざるモノが現世の存在に影響を及ぼすための空間。
死の呪いを発動できる前提が準備された状態だ。
「麻雀でいえば、リーチ状態ってわけさ。わかる?」
圭祐は首を横に振った。麻雀は詳しくない。
「分かりやすく言うと、『縁』が全体的に強化されて、霊障が現れたり、呪いが発動しやすくなるってことさ。ヒガン髑髏の儀式には、最低でも四つの強力な呪憑物が必要だとされている。おそらくは、その呪憑物の呪いを使って、殺しにくるんだと思う」
「ヤバいじゃないですか!?」
「ああ。だけど、条件を踏まない限り大丈夫だ。さっきも言ったけど、プネウマの座には意志はない。無条件で呪われることはないさ」
それは本当だろうか?
いや、本当であっても、死ぬリスクがあることには変わりない。
ふたりはどうして、そんなデスゲームに参加するのだろう?
それは本当に偶然だった。
ふと、視線を移動させた先に、キャップ帽を被った男性が座っていた。
帽子の端から金髪が見えている男性。
彼と目が合った気がしたのだ。
けれども、男はすぐに視線を逸らしたため、確証はない。
自分を見ていたという自信もない。
可能性でいえば、見目麗しい乙希を見ていた可能性のほうが高いだろう。
しかし…
「そこで目黒くんに協力してほしいってわけ」
急に自分の名前が呼ばれて、圭祐は我に返った。
「え? なんです?」
「だから、君は私たちよりも霊感が強いの。それでいて呪いで死ぬことはない。私たちの身を守るためのセンサーになってほしいのよ」
なるほど、そういうことか、と圭祐は納得した。
最初から自分が幽霊であることを知っていたから、乙希は一緒にデスゲームに参加してほしいとお願いしてきたのだ。
「でも、騒ぎになりませんか? だって、そのデスゲーム、霊感が強い人も多いんでしょ?」
参加者の100人をどうやって決めたかは分からないが、ただでさえヤバそうな肝試しに参加する馬鹿が、そこまで多いとは思えない。
けれども、望みの才能が手に入るとすれば、どうだろう?
本来は大金を積んでも手に入れることができないモノ。
啓示を受けた霊感持ちならば、命を懸けても参加したいと思うのではないか?
事実、圭祐も心が揺らいでいた。
もう、死んでいるから意味はないけど…。
「確かに、呪いの儀式が行われる場所に、幽霊を連れて行けば、いらぬ誤解を生むかもしれないね。もしかしたら、圭祐くんを除霊できる霊能者も来るかもしれない」
向井もぞっとする言葉をつけて、同意してきた。
「それについては、ちょっと実験したいことがあるの。大丈夫よ!」
カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。
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何卒、よろしくお願いいたします。




