第六話 咲き誇れ、二人の桜樹街道
「で、改めて返事を教えてくれない?」
立ち上がったガルクに言われる。見つめられたものだから気恥ずかしくて仕方ない。結論は決まっているけれど、少し自分語りがしたかった。
「…正直ね、最初はガルクのこと嫌いだった。無理矢理ついてくるから、早くいなくなれば良いのにって思ってた」
ガルクが眉を顰めた。だけど、ここで話は終わらない。
「でもね、その内ガルクがいることが当たり前になってしまった。今のドラゴンだって、オークロードだって、私1人ならどうなってたか分からない。負けて死んでるかもしれないし、勝ったとしてももっとダメージを受けてると思うの」
自分からそう言うのは情け無いかもしれないけど、事実は事実だ。
「ガルクがいてくれるから、私は安心して動くことが出来るんだなって。ガルクがいるから安心して背中を預けられた」
無意識であろうと、私はガルクに信頼を置いていたんだなということが今なら分かる。後ろはガルクに任せっきりで、前に進むのが習慣になっていた。
「…ソロの頃から、危なっかしいとは思ってたんだ」
ガルクが口を開いた。
「…僕らの同年代のトップ層って、今はもう殆どいなくなった。ほぼみんなダンジョンで行方不明になって」
私はかつての同胞達を思い浮かべた。ミルキー、カナリア、ロット…皆ダンジョンへ単身乗り込んだきりその姿を見たことはない。
「タッグが義務化された時、同年代の生き残りだったカリンに真っ先に声をかけた。もうこれ以上、仲間がいなくなるのは見たくなかった」
「じゃあ、サポート役に徹していたのは…」
「死なせない為。もう仲間がいなくなるのは嫌だったんだ。だから何と言われようと僕はこの道を進むって決めた」
そこまでガルクは私のことを…と思うと変な感情になる。だが、気持ちは少し分かる気がする。ガルクのいない冒険など考えられなくなっていた。
「…ありがとう」
「お礼なんて言わないでよ。僕の自己満足なんだから」
「それでもありがとうって言いたくて…」
「…そっか」
少しの間、両者に静寂が流れる。
「で、どう?」
ガルクに聞かれた。
答えなど一つしかない。
「…喜んで」
恥ずかしくて仕方ない。頬を真っ赤にさせながら、頑張って声を捻り出した。
するとガルクは私に抱きついてきた。私もそのまま抱き返す。ガルクの身体の熱が伝わってくる。それはとても暖かくて、幸せな感情を産む。暫くその状態から動けなかったし、動きたくなかった。
その後ドラゴンのドロップ品を回収し、ダンジョンから出ようと歩きはじめたけど、第二層についた辺りでいよいよ疲れ切ってしまい、倒れ込んでしまった。ガルクと相談し、近くのオアシスで休憩を取ることにした。ダンジョンには必ずオアシスというモンスターがいない休憩所が存在する。
オアシスと言ってもちょっと広い洞穴の空間。しかしバリアが貼られているのでこの中ならモンスターが来ることもない。私は壁にもたれかかって疲れを取ろうとする。そしてガルクも私に寄り添うように隣で壁にもたれかかった。
ガルクを見つめた。ゲーム上とはいえ、婚姻関係を結んだ相手である。意識せずにはいられなかった。
「な、なにさ」
見つめられていたことに気づいたらしい。ガルクは赤くなりながらこちらを見つめてくる。その姿がかっこよくて、可愛くて、素敵で、愛おしい。これほどまで私はガルクを愛していたのかと呆れてしまう程湧き上がる気持ち。
私はその気持ちに従うままガルクをこちらへ引き寄せ、彼を抱き締めながら彼の唇に自分の唇を重ねた。
「んっ!んんっ…」
ガルクは少し驚いたようだけど、すぐに私を抱き返してくれた。
「んっ…ガルク、大好きだよ…」
「ぼ、僕だって大好きだよ…」
甘い甘い時間は中々終わらなかった。