第四話 After a Life and Death Struggle
悲鳴が確かに聞こえた。
「カリンっ」
ガルクが話しかけてくる頃には地面を蹴って思いっきり走り出していた。悲鳴が聞こえてきた、薄暗い広場の奥の狭い通路へ。ガルクも追いかけてきてくるけど、素早さに差があるからどんどんと差が開く。私は1人で走り続けた。
やがて大きな空洞に出た。空洞の入り口に1人倒れているのを見つけ、すぐさま駆け寄った。
少し年上ぐらいの男性で、全身に火傷をおっていた。まだ息はあるようだ。私はポーチの治癒のポーションを少々無理矢理ながら飲ませる。すると男性は僅かに目を開けた。
男性は空洞の奥を指さして
「竜が…いる…」
とだけ言った。
「このまま休んでいて」
私は男性をその場に横にすると、空洞の中へ進んでいく。すると奥に赤い光が2つ見えた。
そして赤い瞳をした黒く大きなドラゴンが姿を表す。その威圧感からこの階層のボスだと確信する。私は深呼吸をしてから剣を構える。ドラゴンがこちらを見つめる。
次の瞬間、ドラゴンが雄叫びしたかと思えばそのままこちらへ炎のブレスを吐いてきた。私は左へ跳躍して回避する。これまでもそうだったけど、ボスが放つ攻撃は全て即死級。数多のプレイヤー達がその犠牲になってきた。一撃足りとも食らう訳にはいかない。
私はそのまま側面に回りドラゴンの腹部を狙う。ドラゴンがこちらを向く前に懐へ潜り込んだ。
「閃光」
素早く魔法を唱えると、持っていた剣が雷を纏う。素早く近づき雷を纏った剣で斬り裂く。これが私の基本スタイル。二つ名の「雷撃一閃」もこの戦法から名付けられた。
雷を纏った剣をドラゴンの腹部に振り下ろす。でも、鱗が硬いのか弾かれてしまった。何度当てようと突破出来るようには見えない。ドラゴンが噛み砕こうとこちらへ牙を向く。
やむなく私はドラゴンの尻尾側へ逃げる。そして尻尾を切断しようと今度はこちらへ剣を振り下ろすけど、こちらも弾かれてしまった。ドラゴンが尻尾を振り回して攻撃してくる。
私は後ろへジャンプして避けた。ドラゴンはびくともしておらず、ダメージはほぼ全く入っていない様子。ドラゴンがこちらを向く。
そして私はとんでもないことに気づいた。ドラゴンの頭に白い紋章が浮かび上がっている。間違いなくあれが弱点だと即座に判断する。以前開催されたイベントで「浮かび上がった紋章の場所しかダメージが通らないゴーレム」がいたことがある。それと同じパターンだろうと思った。
ドラゴンはこちらを見て笑った、ような気がする。やれるもんならやってみろ、とでも言うかのようにじっと見つめてきた。
私はもう一度深呼吸をすると、ドラゴンの背中に向かって走り出した。ドラゴンも容赦なく炎ブレスを吐くが、なんとか避けながらドラゴンの足まで近付いた。そしてドラゴンの背中に飛び乗りそのまま首の方へ駆け上がる。頭まで登り切って紋章の部分を攻撃する算段。
ところが首に差し掛かった途端、私は足を滑らせた。このドラゴン、首の辺りに油か何かを纏っていた。
それに気づいた時にはもう遅く、私はそのままドラゴンの横へ落下してしまった。全身が悲鳴をあげている。
それでもなんとか顔を上げると、
ドラゴンが私の方へ向けて炎ブレスを発射する姿が見えた。
あ、死ぬかも。私はその時変なほど冷静な思考で覚悟を決め、そっと目を閉じようとする。
その時、目の前を影が横切った。