day dream
悲しみと申し訳なさと会えた喜びに揉まれながら僕は写真を撮った
慌ててピースサインを作った
くしゃくしゃの笑顔だった、涙だって流していた、だけど無理矢理作った笑顔なんかじゃなかった
あの日あかりが殺されたその日から僕と双葉先生は学校に来なくなった
生徒を心の底から愛していた先生は事件のショックでおかしくなってしまったんだと皆んなが言っていた
僕はあかりの死を受け入れられなかった
学校に行くようになってからも
何もかもあかりに関する何もかもを僕は聞きたくなかった
だから僕には聞こえていなかった
そうだったあの頃から事件のもっと前から…
決まって何か良くない事があった次の日
疲れているだけだとそう思っていた
そういうことだったのか…
「あかり、遼君、ともえちゃんごめん…僕は帰ってきたよ」
言わずにはいられなかった
張り裂けそうなこの胸の痛みをはち切れそうに溢れるこの喜びを表現する為の言葉を僕は持ち合わせてなどいなかった
3人が僕を心配しているのが分かる
僕は泣きながら写真を撮って、よくわからない事を言っている人になってしまっているんだから
それでも僕は言葉を続けた、震える手で胸を押さえつけ空を見上げた
まだ雲など一片もないような真っ青に向かって
「僕は7年後から来たんだ
沢山の過ちを繰り返し、辛いって、苦しいって、諦めようと思った事だって…
でも僕はまた戻ってきた、僕の意志なのか写真の意志なのか
分からない
そんなのどうだっていいんだ
僕はまた君達に会えて嬉しいんだ
これで終わりにしたい、もう嘘はつきなくないから
聞いて欲しい僕の話を」
誰も言葉を発しようとしなかった
皆んなの視線が集まる
“ウィーン”
チェキから写真が出てくる
黒く塗り潰された世界が彩られていく
僕が見せた4枚の写真と同じように
写真を見て皆んなが驚いたように僕の方に顔を上げる
あかりだけが泣いていた
「ごめんねはる君…あかりの願いがはる君に呪いをかけたのかもしれない」
そう言って泣くあかりを僕はそっと抱きしめた
「泣くなよあかり…優しい君の笑顔が見たいから
僕は戻ってきたんだ
あかり…ありがとう」
今日やることは多いんだ
***
取り敢えず学校には行かないと
「霊媒師さんお願いがあるんです」
少女の霊を成仏させた僕達は霊媒師さんにも本当の事を話した
「7年後から来たじゃと!?
そんな信じられない事が起こるもんなんじゃな
確かにこの写真は全部本物じゃからな〜
小僧、わしは7年後も生きとったんか?」
霊媒師さんはさほど驚いてもいないようだった
未来の自分に興味があるらしい
「いやもうすっごい元気でしたよ
通りすがりの青年に霊が憑いてるとか言ってました
その人本当にビックリしてましたよ」
「そうかそうか!ハハハ!!
にしてもまさかあの人がそんな事をするとは思わなんだ
何が起こるか分からんが不足の事態はわしに任せぇ」
僕の悩みなど吹き飛ばしてくれそうな豪快な笑い方に僕も思わず笑顔になってしまう
「本当にありがとうございます」
これまでも何度この人の優しさに助けられたか
霊媒師さんは知らないだろうけど僕は忘れなどしない
物心ついた時には祖父母がいなかった僕は無償の優しさを与えてくれる霊媒師さんにまるで本当の祖母のような安心感すら感じている
さて、後は明日の為に時間を使わないと
***
僕達はやってきた
美味しそうな匂いが立ち込め、昔ながらの建物が立ち並ぶこの場所に
「明日同じ惨劇を繰り返さぬよう
ここで確実に犯人を…双葉先生を捕まえる!!」
そう僕が言うと流石の皆んなも戸惑い出した
今まで散々僕が未来からきた事も何もかも信じてくれていた皆んなだったけど先生がそんな事をしでかすとは思えないらしい
それはそうだろう、僕だってそうなんだ
「双葉先生が何で私達にそんな事するわけ!?」
ともえちゃんは足を踏み鳴らしたちょっと怒っているようだ
「先生に何があったのかは知らない
ただ僕達には知らない一面を先生は隠し持っていた
そうとしか思えないんだ
これまでの僕の経験を考えても
全ての事を実行可能だと思える人が双葉先生だけなんだ
それに…僕は直接聞いたんだ双葉先生の口から
勿論それが嘘の可能性もある
僕だって信じられないし、信じたくなんてないさ
それでも先生は間違いなく何かを知っていた
僕にはそう見えたんだ」
僕は7年先で会った先生との会話を思い出していた
「でもよ、ハルの話が本当だとして
先生を倒すって言っても、殴ったりとかまして殺すなんて
俺にはできん!」
静聴していた遼君が口を開く
「大丈夫…先生と戦うつもりはないよ
先生には僕を襲わせる
それを皆んなで見てて欲しい
先生が生徒に危害を加えたその事実、証拠さえあれば後は何とでもなる
もし、戦わなきゃいけなくなったら皆んな逃げて欲しい
僕はその為なら自分の命なんて惜しくなんかない!」
「駄目!はる君が死んじゃうならあかりは明日なんて来ない方がいい!!」
あかりは目に涙を浮かべながら僕の手を掴んできた
「ちょっと大袈裟に言っただけだよ
僕だって死ぬつもりなんてもう無いよ
実はもう1回死んでるし…
まぁ、だから君達の力が必要なんだよ
僕が、あかりが、遼君が、ともえちゃんが皆んなで笑える明日が必要なんだよ
頼む先生を止めるのに協力してくれ!」
人に思いを伝えるのが苦手な僕には自分の心のうちを曝け出す事の全てが恥ずかしい
だけどそんなくだらない事より大切なものがあるから
僕は目を閉じて手を差し出した
「ハル!俺とお前はこれからもずっとダチだ
もちろん7年後もな」
遼君が手をのせる
「先生だか何だか知らないけど悪い人は懲らしめなきゃ」
ともえちゃんが手をのせる
「ばーか」
あかりが手をのせる
「何だよばかって」
「だってあかり達がはる君を助けない訳ないじゃん」
あかりも皆んなも笑っている
僕のいた未来じゃ僕はもう誰とも話してなかったから…不安だったんだ
「そうだよな、これからも皆んな一緒だ!」
僕達は観光地の下見をして簡単な作戦を練った
***
5度目の昨日を乗り越え3度目の今日を最後の今日を迎える
できるだけ自然に自然にそう言い聞かせながら学校に向かう
学校について皆んなの顔を見て落ち着こうと思っていたけれど皆んなも緊張しているのか様子がおかしい
このままじゃ先生が教室に入ってきちゃう
もしバレでもしたらまた理科実験室爆発なんて事になりかねん
笑えねぇ
「皆んな落ち着こう、大丈夫僕達はうまくやれる」
気休めの言葉だが皆んな安心したのか笑い出した
「ハルお前…鏡見ろ」
遼君があまりにも笑っているので鏡を見に行く
緊張していた僕は寝癖を直すのを忘れていたみたいだ
頭の頭頂部で落武者のようにぱっかり割れた髪が左右に飛び出している
「あかりぃ!!何で登校中に教えてくれなかったんだよ!」
僕は顔を真っ赤にして叫んだ
「だって皆んなに見せたかったんだもん!」
ぐぬぬ!このクソガキが
ふぅ…でもいい感じに雰囲気が柔らかくなった
「皆さんおはようございます!!」
双葉先生の挨拶で運命の1日が始まる
あかりがマッチに火をつけたときは流石に冷や冷やしたが
3限目までが何事もなく終わった
何となくクラス中がソワソワしだす
いよいよだ。課外授業の時間、勝負の時間が迫ろうとしている
「はい、それじゃあ自由時間です
40分後には”絶対にこの場所に戻ってきてください
分かりましたか?」
「「はーい」」
前より若干自由時間が伸びているがそんなのは誤差だろう
無事にここまで来れたことに取り敢えず感謝だ
この先は無事でいられるか分かったもんじゃないが
「先生僕と一緒にお寺に行きませんか?
僕だけじゃ入れなくて…」
「あら、お寺に興味があるの?
いいわね行きましょう」
先生はにこやかに笑っていて凄い乗り気だ
「こっちです」
僕達は先生を予め決めておいた人気のない場所へと誘い出した
人気のない場所にしたのは先生が僕を襲いやすい状況を作る為である
勿論周りには皆んなが隠れて僕と先生を見張っている
「先生…僕先生の事本当に好きです」
「あら、ありがとう先生もよ」
先生が優しく微笑みかける
「先生もういいんです、僕は全部知ってるんです
先生が僕達の事殺そうとしてる事」
「ハ、ハル君?な、何を言っているの?」
先生の顔は引き攣っていてとぼけているようには見えなかった
「先生これ以上僕に言わせないでくださいよ
昨日だって…本当は霊を使って僕達を殺すつもりだった
本当は霊が見えていた
そうでしょう!?先生?」
「い、いや、わ、私は」
先生は頭を抱えて半狂乱のようになった
「だったら1人で来るのは間違いなんじゃないか?
そうか…お前が私の邪魔を…」
先生とは思えないほど冷たい声…何度か聞いたことのあるような?声
いや、これは本当に僕の知ってる双葉先生なのか!?
「お前誰だ双葉先生じゃないだろ
双葉先生をどこにやったんだ!!答えろ!!」
僕は身構えた
「私が誰だって?
私は私だよお前の知ってる双葉先生そのものだ
それ以外の何者でもない…」
「違う!俺の知ってる双葉先生はそんな人じゃない」
「黙れ!!コイツが…コイツが悪いんだ
コイツは私を見ようとしない私がどれだけ問いかけても
コイツは何も返さない
それどころかコイツは!!…
私を忘れて無かった事にしようとした…
私もお前達の事を私の中からずっと見ていた…
別にお前達が嫌いな訳じゃない憎んでなんかいない…でも仕方ないよね…私が自由に生きて何が悪い!!」
そう叫ぶとソイツは僕に飛びかかってきた
私は私だと…?
そういう事だったのか
先生が二重人格になったのは6月7日の事件の後なんかじゃなかったんだ
ずっと…もっとずっと前から先生は二重人格だったんだ
ソイツは何かに激しい怒りを抱いているようだった
「お前は双葉先生すら知らないもう1つの人格だったということか!!
今だ皆んな、先生を止めてくれ!!」
僕は茂みに向かって叫んだ
顔を出す皆んな霊媒師さんの姿もある
「先生…もう無駄よ皆んな見とった」
「先生や大人しくせんか」
「乱暴な真似はしたくねぇよ先生」
先生は僕達を見て足を止めた
やがて片手で頭を抑えて狂ったように笑い出すと
「このままじゃあ捕まってしまうな
私としたことが、全てを知っているのに君が1人で来る訳がないか…フフ
私だってできれば自分の手は汚したくなかったんだ
これは私の体でもあるんだからね
事故でも装って君達を殺そうと思っていたんだけどね
そしたらコイツは…愛する生徒を失ったコイツは人格が崩壊するから…それで私が自由になるつもりだったんだけどね…
仕方ないか…自分の手で人を殺したとコイツが知るのも面白いそれが自分の愛する生徒なら尚更…フフフ
想像するだけで楽しみだよ…
なぁ死んでくれないか私の為に…!!!」
コイツ狂ってる!!人を殺そうとする奴が理性など持ち合わせてると思った僕が馬鹿だった!!
やるしかない!!
僕は隠し持っていたナイフを構えた
「おおー怖いナイフなんて何処から出してきた
銃刀法違反で君も逮捕だね
あーそんな事言っても分からないかな?」
「ハル!!お前何するつもりだ!!
逃げるんじゃなかったのか!」
遼君の叫びが痛い
僕は酷いやつだまた君達を騙した
先生と戦わなければいけない状況になったら逃げればいい
僕はそう言った
でも僕は知ってるそんなに上手く逃げられないって
この子供の体じゃ思ったようにはいかないって身をもって経験してる
僕が罪を負ってでも…先生と差し違える覚悟で止めないといけないんだ!!
ソイツが僕に向かって一直線に走っている
見開いた眼球には僕の姿しかうつっていない
“ダダダダダ”
ソイツが僕の首に手を伸ばし僕がソイツにナイフを向けようとしたその瞬間
「やめて!!!」
あかりが叫んだ
この状況だというのに微笑んだあかりはソイツに語りかけた
「先生もまだそこにいるんでしょ…お願いこんな事やめて!!」
あかりの言葉が先生に届いたのか、ソイツは酷く苦しみ出した
「お前は…お前は誰だ!!やめろ!!私の体から出ていけ!」
頭を抱え地面に座り込んだソイツは頭をブンブンと横にふり口を開いた
「聞いて欲しい!私は7年後から来た」
先生のようなそうでないような声の何者かはそう言った
「許して欲しいなんて言う資格は私にはない…
ごめんなさい私は君達を沢山苦しめた…私は生まれてこない方が良かったんだ
私は写真を嫌っている自分を確立できていない私にとって
自分の姿を映す写真とはとても恐ろしいものだ
だから速く!!私が私の主導権を握っている…うち…に…!!!」
「はぁはぁ!!」
「まずいアイツが戻ってきたぞ!!」
「そういう事だったのか…
私は見たぞコイツの記憶を7年後の記憶を
君も7年後からきたんだろうハル君?
だから私の邪魔ができた…違うかい?
ふふ…そうか私は君達を殺す事に成功したのか…
だけど自由になりきれなかった…!!!
やはり私の、この双葉の手で君達を殺さないといけないみたいだ
チッ…お前は邪魔をするな!!」
先生は体の中で自我の主導権を激しく奪い合っているようだった
「あかり!!そのチェキで願いを叶えるそのチェキで先生を撮るんだソイツが表に出ている時に!!」
「だったら私を…お前は出てくるな!!
…だったら私を消して…”私の存在を消して欲しい”と願って
…黙れ!!お前は見ていろ私が再びコイツらを殺すのを」
“ガハッ”
あかりの方を見ていた僕はソイツに捕まってしまった
ソイツの手が僕の首を締め上げる
女性とは思えない程力強い
「あ、あがり、ば、はやく」
「やれ!!」「やって!!」「やるのじゃ」
震える手でチェキを持つあかりはボタンを押した
“カシャ”
“グアアッ”
苦しそうにもがき出したソイツは悶えながら道へと飛び出していった
先生を追って僕達も道に飛び出した
道に倒れ込む先生、それを見て慌てたのか逃げるように走り去っていく男
「先生!!」
僕達は先生の体を揺さぶったが応答はない
もう死んでしまったんじゃないかそう思った時
先生は気を取り直した
“…つっ”
「どうして…どうして私の存在を消さなかった!!」
目を覚ました先生は訴えるようにあかりを両手で掴んだ
「あかりにはできなかった
先生が好きだから…先生にも笑っていて欲しかったから
先生の存在を消して喜ぶなんてできない…
だからあかりは
明日の先生が笑えるようにって」
あかりは泣いていた
その言葉を聞いて僕も目頭が熱くなったがグッと堪えた
「ソイツはどうなったんですか」
僕は聞いた
「道に飛び出した私はサラリーマンの男とぶつかった…
まさか…!!私はそのサラリーマンに乗り移ったかもしれない…」
「先生や落ち着きなされ
奴が霊体でないのならば必ず体が必要になる
体に無理矢理別の魂が入ると体は拒絶反応を起こす
奴がどうやってサラリーマンに取り憑いたのかは知らんが
奴は必ずお前さんの体を奪う為、お前さんの前にもう一度姿を現す
ふむ…お前さん達には奴を捕まえてもらおう
奴を捕まえたら奴に札を張る
奴を男の体から無理矢理剥がし、霊魂を捕まえて滅する
問題は奴にどうやって奴を捕まえるか
あまり時間はない
最悪の場合男の霊魂が消え奴の霊魂が残る可能性もある」
「それなら、奴を誘導する場所は1つしかない
誰にも邪魔されず僕達も先生もよく知っている場所が」
僕達は皆んな顔を合わせて頷いた
***
学校そこで奴を待ち受ける
放課後の小学校に生徒はおらず邪魔される事もない
そしてこっちには双葉先生がついてるから何でもできる
使えるものは全部使ってやるさ
誘い入れるように開けた体育館のドアから奴がやってくる
ニヤリと笑った奴の右手にはナイフが握られている
奴が乗っ取った男あれはいつぞやのサラリーマンだろうか…まるで自分の体のように器用に動かしている
「随分と余裕があるじゃないか
ここは僕達のテリトリーだ
その薄ら笑いもすぐにできなくなるよ」
僕は2階から奴を見下ろしていた
「フフ…そこにいる私なら分かるんじゃないかしら
私はずっと私の中から外の世界を見ていた…
学校は私のフィールドでもあるわ
不利なのは貴方達よ、私は貴方達を殺すつもりで来たけれど…
貴方達はこの借り物の体を殺すことができない」
「焦っているようだね
お前は今日中に自分の身体に戻らないといけないんだろう?
僕達は逃げる事だってできた
今こうして姿を現すのはお前に勝つ算段がついているから
そしてお前への最後の情けだよ」
「フフフ…ハハ、ハハハハハ!!!
ハル君君はいつも私の邪魔をしてくれるね
君達が嫌いじゃないと言ったけど
私はやっぱり君の事は嫌いになってしまったみたいだ
やっぱり最初に君を殺さないと私の気がおさまらない…」
取り敢えず1つ目の作戦成功
僕の方へ奴の意識を向けさせた
奴との距離はまだ充分にある、ここから1番近い階段には
油が撒いてある…そこを登る時必ず隙ができる
絡んでくれたら1番良いが…そこで奴の動きを封じる
「ハル君…いや君達も何処からか私を見ているんだろう
だったらプレゼントだ」
奴はポケットから何かを取り出しそれを空中に放り投げた
“バン”体育館の中心に太陽が現れる
突然目の前が真っ白になり耳鳴りが聞こえるようだ
まるで車にはねられたように…何が起こったのか分からない
自分の立ち位置さえ把握できない僕は手探りで手すりにしがみつきようやく立ち上がる
フラッシュバンか?…奴は何故そんなものを
待て、奴は何処に行った?
「おやおや、もう立ち上がれるのかい
ちょっと距離が遠かったかな」
奴はすでに僕の近くまで迫っていた
「フフ…大丈夫だから
すぐに楽にしてあげるから…お仲間さんも一緒にね」
「今だ!!!」
僕はそう叫んで走り出した
奴は身構え周りを警戒するが…何も起こらない
その隙に僕は逃げ出した
「フフ…小癪な
あまり隠れんぼは好きじゃないんだけどね」
僕は教室へと向かった
1個目の策が失敗した時の保険だ
僕達にもそんなに時間があった訳じゃない
充分な準備はできていない
できるならこれで決めきりたい
“コツコツコツコツ”
静まり返った学校に奴の足音が不気味に鳴り響く
奴が僕達の待つ教室に近づくほど僕の心臓の鼓動も速くなる
“ガチャガチャガチャガチャ”
1つ1つの部屋を丁寧にチェックしている奴はとうとう僕達が待ち構えている部屋の前までやってきた
“ガチャ”
ドアが開く…それが合図だった
仕掛けておいた黒板消しが奴の頭に目掛けて落ちチョーク粉があたりに立ち込める
咳きこむ奴に追い討ちをかけるように消火器をもったあかりとともえちゃんが消火剤を浴びせ、遼君が奴を椅子で殴る
…それでも奴は倒れなかった
消化剤で前が見えない奴はナイフをブンブンと振り回す
僕が教室にあった花瓶を投げ怯んだ奴に先生が飛びかかりナイフを奪う、倒れた奴が身動きが取れないよう押さえつけ縄で縛ら上げようやく奴は観念したように抵抗をやめた
「やったな!」
遼君が突き出した手に力強く応える
「安心するのはまだ速いわよ、早く霊媒師さんを呼んできて」
先生のひと言で緩んだ空気が引き締まる
「僕が呼んできます」
「じゃああかり達はここで待ってる」
縄で縛られた奴は口を開こうとしない
ただ静かに僕を睨みつける…奴の目力に気圧されそうになった僕は急いで教室を後にした
僕が去った教室では先生と皆んなの間で問答が行われていた
「先生どういう事か教えてくださいよ
アイツが何者なのか…先生は本当に味方なんですよね?」
ともえちゃんは願うように先生を見つめる
「私は…味方よ…でも貴方達の知ってる先生ではない…
私は7年後の未来から来た私
これは私に与えられた最後のチャンス…
私が奪った命を、時間を取り戻す為の、そして私が私を救う為の
アイツは貴方達が知っている私とは別の人格…私は…
待て…奴は何処に行ったんだ」
奴を縛ったはずの場所には縄だけが落ちていた
「俺達は奴を確かに縛った、きつく…絶対に解けないように
いや、それよりもハルが危ねぇ」
「は、早くはる君を助けに行かないと!!」
***
霊媒師さんは応接室で待機してもらっている
念の為だ、霊媒師さんに何かあった時点でこの計画は破綻する
霊媒師さんには万全の準備をしてもらっていた
本当に双葉先生が犯人だという事が分かったがショックは受けていない
僕の知っている、僕の好きな双葉先生はそのままであり続けていてくれたから
何はともあれ後は霊媒師さんが上手くやってくれるだろう
これであかりを皆んなを僕自身を救う事ができるのだ
「おや、何処に行くのですか?
もう少し私と遊びましょうよハル君?」
何処からともなく奴は僕の目の前にぬるりと現れた
どうして!?奴がここにいる…皆んなは?
「お前皆んなをどうした?」
「フフ…すぐに君も皆んなのところに送ってあげるよ」
冷静になれ嘘だもし誰かが死んだのなら僕はまた6月7日に戻っているはずだ
でも待てよ…本当に死がトリガーなのか?
だめだだめだ今は考えるな僕は僕にできる事を
「いや、お前は皆んなを殺していない
お前は僕を最初に殺すと言った」
「信じてくれるのかい?私の言葉を…フフ
そうさすぐには殺しやしない…私はお前を私の目の前で殺す
それでようやく私の計画が完遂されるのだから
未来から来た私のようなヘマはしない確実に私は私を消す
おいおい…また逃げ隠れるつもりかい?」
僕は走った一生懸命死に物狂いで、1対1は奴にぶがある
奴はそれを楽しむようにつかず離れずに追ってくる
追い詰められた僕は理科実験室に入った
「ここを覚えているのだろう君も
未来の私はここで君達を葬りさろうとした
フフ…まるで…」
「ああ覚えているさここでこうやってマッチをつけた
そこで僕の記憶は終わっている」
「聞きたいかいその後の…」
「どうしてお前はそう余裕をチラつかせる?
本当は余裕がないんだろう?だから見栄を張る
臆病なお前は自分の手を汚さないんじゃなくて、汚せないんだろう?恐いんだろう僕が
今こうして僕を追い詰めた気になっているその瞬間も」
「…黙れ」
「本当に僕が追い詰められてここに入ったと思ったのか?
僕はお前を誘導したんだここに…何故か分かるか?
分からないだろう、ささいな異臭にも気を配る余裕がない」
「ま、ま…」
僕はマッチを放り投げた奴のいる方向に
轟音とともに吹き飛び、叩きつけられて意識を失う奴
窓ガラスはほとんど割れてしまった
爆発の音で警報が鳴る
やがて”ドタドタ”と皆んなが駆けつける音がした
「はる君…良かった」
気を失った奴に霊媒師さんが札を貼り付け何かを唱えると形を持たない白いモヤのようなものが飛び出した
霊媒師さん曰くこれが霊魂であると
形がはっきりしていないのはコイツが自分を確立できていない不確かなものだかららしい
このサラリーマンは本当に申し訳ないと思っているが構っている余裕はない
せめて学校の出来事に巻き込まれないよう病院の近くの公園のベンチに寝かせておいた
まぁ大丈夫たぶん打撲程度…下手したら骨折はしてるかもしれない…貴方の幸せを願っているよ
捕まえた霊魂を霊媒師さんの家まで連れていく
家に入り、いつぞやのお札の貼られた雰囲気のある部屋の中へ1人2人と消えていく
部屋のそこら中にお札や縁起物、四方には塩が置かれていた
部屋の中心にある机の上に霊魂を置いた
ふざけているものは誰もいない、ある者は祈り、またある者は瞑想をしながら静かにその時を待っていた
先生は思い詰めた様な表情で胸に片手を当てていた
「うぅ…おい!!私に何をした!ここから出せ!!」
奴が目を覚まし、喚いている
いくつもの死線を越えてきたからだろうか
それとも奴が他の霊とはちょっと違った特殊な霊魂だったからだろうか
あかり、遼君、僕にもハッキリとその姿が見え、声が聞こえている様だった
「双葉先生や本当に成仏させていいんじゃな?
まだ生きておる霊魂を無理矢理成仏させるという事がどういう意味か分かっているのじゃな?
その責任を負うのはわしとお前さんだ」
双葉先生は無言で頷いた
「観念せい、お前さんには申し訳ないと思うが
これからお前さんを無理矢理成仏させる
少し苦しいかもしらんが許せ」
「い、嫌だ!!私はまだ…
やりたい事だって沢山あるんだ
お願いだ許して欲しい…私は自由になりたかっただけなんだ
私も生まれてきて良かったって思いたかったんだ…」
「それじゃあ始める…」
「そこにいるまだ眠っている私に伝えてくれないか
幸せになれって…」
「待って!!!」
皆んなが双葉先生の方を見た
「私じゃない、ソイツを消すか決めるのは未来から来た私であってはならない…と私は思うんだ
だからそれは今を生きる私に託す
私は帰る時間がきたようだ」
そういうと先生は1枚の写真を取り出した
僕が先生に渡した写真だった
その写真が暖かな光を放った
「君達に会えて良かった」
そう言うと先生は糸が切れたようにだらしなく下を向くとやがてゆっくりと体を起こした
「長い夢を見ているようでした…
体の主導権を無理矢理奪われ、私は意識の深層から外をぼんやりと眺めているようでした
私を呼ぶ声も全部聞こえていました
ハル君の言葉で私は自分というものを始めて正しく自覚し、理解しました
そして思い出したのです、この子は私が命を吹き込んだ」
***
私は小中と父から虐待を受けていた
酒とギャンブルに溺れていた父は何か気に入らない事があると
私を紐で縛り気の済むまで暴行を加えてきた
母だけが私の心の拠り所だった
身体中にあざのある私に喋りかけてくれる人なんていなかった
だから私は学校でいつも1人だった
私の周りの空気は凄く淀んで暗かった
誰も…誰も助けてなどくれなかった
母も暴行されるのを恐れた、それを恨みはしなかった
私は耐え続けた…いつか孤独を乗り越えられると、私を助けてくれる人が何処かにいると…そう信じた
だけどある日母は父に愛想をつかしたのだろうか朝起きると母はいなくなっていた
私は残された…父はそれを私のせいだと言った
母が去り悪癖がさらに酷くなった父は毎日私に暴行を…
私は願った母が帰ってきて私を連れ出してくれる事を…
本当は黙って出掛けていただけだったのだと
だけどどれだけ、どれだけ耐えても母は帰っては来なかった
狭かった家を広いと感じたその日私は始めて涙を流した
自分の現実を…助けなどない…私は1人だということに絶望した
そしていつものように父が私の両手を縄へと繋いだ…
私は拒絶し、そして願った
この現実を…誰かが助けてくれる事を…
そして私の願いは現実になった
その日から私が縄に繋がれたまま朝を迎える事はなくなった
夜な夜な縄に繋がれても起きると私は布団で寝ていた
私は悪い夢を見ていたのだ虐待などされていなかった
その夜も私は縄へと繋がれた、それでもやっぱり朝起きてみると私は布団で寝ていた…欠伸をし、体を伸ばしながらリビングに向かう…父は死んだように眠っていた…お酒を飲みすぎたのだろうか
眠った父が目を覚ます事はなかった…
唯一の家族を失い私は本当に1人になった…だけど悲しくは無かった…そんな自分の事を酷いやつだと思った
だけど周りの皆んなは私を可哀想な子だと言った
早くして両親を失い虐待を受けていた可哀想な娘だと
警察が来た時私の青あざは虐待によるものかと聞いてきた
私は違うと答えた。父が私の事を虐待なんてする訳がないだろうと…私は忘れたのだ私という現実を
***
先生は大粒の涙を流していた
「私がこの子を生み出した虐待から逃れる為に、1人じゃないって思えるように
私が布団で寝ていたのはこの子が父の虐待に耐え、縄を抜け出してくれたからなのに
私が生きてこられたのはこの子がずっと私に優しく語りかけてくれていたからなのに
私は全てを押し付けた、嫌な事を全てこの子に
なのに全てが過去になったあの日私は過去と一緒にこの子を忘れたんだ…
この子はそれでも私に語りかけていたのに、私は気付かないふりをしてやがて本当に全て忘れてしまったんだ…
悪いのは私なんだ
未来の私がやってきた時…私も未来の私の記憶を…この子の心を知ってしまった
未来の私が私を完全に消し切れなかったのはこの子がそれを望んだから、私のせいで生まれ望まない人生を歩まされたこの子は自由にはなれなかった
自分の行いを後悔し、心の底から笑う事はできなかった、それでも本当の幸せを掴みたくて最期に私に幸せを託した…
この子も私も許されない事をしました
今更許しを乞うなんて都合のいい話だと思うかもしれない
だけどもう1度だけチャンスが欲しいです…
私だけがこの子に生まれてきた意味を…幸せというものを教えてあげられるんです」
駄目だなんて言えなかった
それ以前に僕は先生を断罪する気もそんな事をする権利も持ち合わせていなかった
「それがお主の決断ならわしもいう事はないわい」
「今までごめん…でも貴方の帰る場所はわたしの中にちゃんとあるから、だからもう1度私と向き合って欲しい」
双葉先生が霊魂を赤子を抱えるようにそっと抱き締めると
それは霧のように広がって先生の中に入っていった
「これは驚いた先生の軸がちゃんと1つに見えるわい」
霊媒師さんがそう言ったのを聞いて心の底から安心した僕は
自分にも帰る時間が迫っている事を感じた
胸ポケットに入れた5枚の写真それが優しく光出す
未来に戻ったら僕はどうなるんだろう、皆んなはどうなっているんだろう
僕は笑って別れたかったのに皆んな泣き出してしまった
つられて僕も泣いてしまう
「じゃあお前達、また7年後に今度も笑って会おうな!」
僕は暖かい光に包まれた
ここちょっと自分の中で納得しきれていないので
もしかしたらガラッと話を変えるかもしれないです




