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明日も笑って  作者: 皐月
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前進


瞼が重い…目が糸で縫い付けられてしまったようだ

瞼越でも感じる眩い光…勇気を振り絞り目を開く

今なら吸血鬼が日光を避けるのもわかる気がする

何だか周りが騒がしい気がする

光に慣れた僕の目は数年ぶりに情報を取り込んだ

起きて…あれ?思ったように体が動かない

感覚はある。けれど鉛のように重いのだ

よくみたらここは僕の知らない場所かもしれない

白い照明が僕の頭を照らしている

薄緑で仕切られた狭い空間、1つのベッドそれが僕が数年を過ごした場所だった

僕の手には点滴が繋がれていた


“ジャラララ”

薄緑の壁が揺れ小さかった僕の世界が広がる


「自分の名前は分かるかい?」

落ち着いた低い声がする


「な、まえ?生時…はる(いきときはる)」

ぎこちない低い声になってしまった

自分の声であるはずなのに自分の声じゃないみたいだ


「良かった記憶はあるんだね」

白衣を纏った知らない男性は腕を後ろに組みながらそう答えた


「体は動かせるかい?」


全身に力を入れて立とうとするも力が入らない

何とか上半身を起こすもそれだけでどっと疲れを感じる

僕は首を横にふった


「そうか…大丈夫!1週間くらいリハビリすればすぐに動くようになるよ」


リハビリ…何を言っているんだ?

どうして僕は体を思ったように動かせないんだ?

どうして僕は病室にいるんだ?

僕にいったい何があったんだ!?


「先生!!息子がハルが目を覚ましたんですか!!」

驚いた。駆け込んできたのは母さんだ。

家着で化粧もしていない。相当急いで来たのだろう


「お母さん落ち着いてください、大丈夫ですよ、会話もできます」

先生は赤子を宥めるように優しく答えた


「良かった…本当に良かった…!」

駆け込んできた母さんは僕の顔を見るなり

膝の上に顔を乗せて泣き出してしまった


いよいよ訳が分からない

母さん?目の前にいるのは間違いなく僕の母さんだ

疲れ切って憔悴しているのか顔が老けた気がする

不安だ

僕の体のどこかに悪いところでもあったんだろうか


「母さん…教えてよ何があったの?」


死者3名重症者2名

それは最悪の事故だった

6月8日…3限理科の実験で火を取り扱った僕達は使っていない隣の席のガス管からガスが漏れている事に気付いていなかった

マッチについた火は充満していたガスにも引火…

爆発が起こった…らしい

僕はその日から数日分の記憶がない

亡くなったのは同じグループに居たクラスメート2人ともう1人別の近かったグループの子

そしてあかりは全身に大火傷、僕も多少の火傷はしたものの一命は取り溜めた…しかし


「あんたほとんど7年も起きなかったのよ

目立った外傷もないのに…母さんもう一生…一生目覚まさないんじゃないかって…」


実感なんて全くない

事故にあった記憶も7年という時が流れた感覚も一切ない

それでも僕の知っている世界はかわってしまったのだろう

今目の前で起きている事以上に


「か、母さん泣かないでよ僕は元気だよ」

かろうじて動く手を母さんの頭にのせた

僕が知らない大きな手を


それから母さんは色んな事を教えてくれた

僕がいない間に世の中に何が起こったのか僕の友達がどうなったか…そして何度も泣いていた


ともえちゃんや遼君がもう小学生ではない事に違和感こそ感じたものの、まるで経験した事のあるように世の中で起こった出来事は、僕の記憶に混ざって溶けた


お父さんは転勤でここにいないらしく電話がかかってきた

野太い声で語りかけると暫くの沈黙の後帰ってきたのは

返事ではなくかすれた泣き声だった

泣く姿なんて想像もできない父さんの震える声を聞いて

僕も訳もわからず泣いてしまった


もう夜も更けてきたけどどうやら母さんは今日帰るつもりはないらしい

話し疲れると安心したように眠ってしまった


僕が植物状態となっている間も母さんは毎日僕のお世話をしていてくれたらしい

僕は沢山の心配と迷惑をかけてしまったらしい

でもごめんなんて言ったら母さんと父さんに怒られそうだ


リハビリを続けて1週間弱体に障害が残らなかった僕はただ筋肉の衰えによって体を動かせなかっただけらしい

最初こそ自分の感覚と違う足や手に戸惑いはしたものの

今ではよく馴染んでいる


「お世話になりました」

退院の日僕は先生方に深々とお辞儀をし

病院を後にした…振り返ってある病室の窓を見つめ

「また、来るよ」

消え入りそうに呟いた


あかりはまだ目覚めていなかった

体中に火傷を負ったあかりは数日生と死の淵を彷徨った

今もまだ人工呼吸器に繋がれたあかりは生きている事すら

やっとのことだと先生が言っていた


明日は6月8日

記憶を失った僕が記憶を取り戻せるかもしれない

思い出さない方がいい。周りの人はそう言っていた

だって事故の記憶なんて痛ましいものに決まっているのだから

僕だって分かっている

変わってしまった世界で、明日をどう生きれば良いのかも分からない、漠然としかし使命のように僕は感じていた

会わなければいけない人がいる


“ジリリリ”

昨日買ったスマホの目覚ましで目を覚ます

朝5時じきに夜が明けるだろう世界はまだ月明かりに支配されている

目的地は車で片道4時間…下手したらそれ以上かかるかもしれない

今日は父さんが家に帰ってくるそれまでには帰らなければいけなかった


まだ眠っている母さんの寝顔を確認して僕は扉を開け知らないはずの世界へと足を踏み出した

呼んでいたタクシーに乗り込み目的地へと向かう

こんな時間にタクシーを呼ぶ子供に、不信感は抱いているだろう。それでも窓を見つめる僕に気を遣って運転手は何も聞かなかった

外の風景を見つめ自分だけの世界へと入り込んでいく

思ったより世の中というのは変わっていないようだ


道を走り続け世界はだんだんと寂しくなっていく

対向車も来ないような山道を抜け少し進んだ場所

開けた大地を自然が囲むそこに目的地はひっそりと佇んでいた


お礼を言ってタクシーを降りる

今日は高いところは30度くらいになると聞いていたがそこでは冷んやりとした美味しい空気が溢れていた

タクシーの音が過ぎ去り、鳥や虫の歌に耳を傾けながら僕は建物の中へと入っていった


「名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「生時はるです」


受付の女性は名簿表のようなものをぺらぺらとめくり確認をしているようだった


「分かりました。それでは部屋に案内するので私についてきてください」


静かな建物内にはガラス窓が多く設置されていた

そのどれもから外の自然が見えるようになっており、高く伸びた天井から差し込む陽射しは優しい雰囲気を放っていた


“カツンカツン”コツコツ”

黙って歩き出した女性の後をおった

響き渡る2つのリズムはやがて1つの扉の前で刻みを止めた


「ここのお部屋の中でお待ちください」


“ガチャ”

重い扉を開けて中に入る

白塗りの壁に真ん中をガラス板で仕切られた小さな部屋

危険人物を隔離する為の作りだろうか

ドラマや映画で見るようなその部屋は面会室になっていた


椅子に座って待っていると反対側の扉が開き

俯いたまま、ゆっくりと入ってきた人物は僕の前に座り

こちらを見ようとはしなかった

ボサボサの髪、憔悴した顔、生気のない目、そのどれもが僕の知っている人物とはかけ離れていた


「先生…」

感情を失ったその人に僕が小さく呟くとゆっくりと顔をあげた


「双葉先生…なんですよね?」

躊躇いながらハッキリと


僕に気付いた先生は驚いたように数秒こっちを見つめたまま固まっていた

その両目は光を取り戻し、光は涙となって零れ落ちた

静かにだけど酷く苦しそうに泣いていた


双葉先生は不注意で愛する生徒の命、将来を奪ったという自責の念に耐えきれず精神疾患を患ってしまった

事故の後学校にいられなくなった彼女は仕事を失った

でもそれ以上に彼女は自分が許せなかったのだろう

自らに人殺しのレッテルを貼った彼女はに自分に罪が与えられることを望んでいた

別の人格を作り出し自分の殻に幽閉されることを選んだ

それも上手くはいかなかった…2つの人格を抱えたまま荒んだ生活を送る彼女はもはや自分が何者なのかを見失い、施設に入ることになった


「良かった…目が覚めたんだね」

絞り出した声はかろうじて言葉となって聞こえた


「私が3人を殺し君達の将来を奪ってしまったの…」


「それは違いますよ先生

僕が今日ここにきたのは先生に言わなきゃいけない事があると思ったからです

僕達は…少なくとも僕は先生のせいで時間を失ったなんて思ってないです…

だから先生!気負わないで、僕達は皆んな先生が大好きだった

生徒思いで優しい先生が

前を向かないと…僕だって目が覚めたら何もかもが変わっててそれでも前に歩き出そうとしてるんです」


僕の気持ちは伝わったのだろうか…僕は先生に自分のせいだなんて思ってほしくないだけなんだ

これ以上事故のことで誰かの時間がこれからの未来が奪われるのは嫌なんだ

日常が日常ではないなんて僕は誰よりも知ってるから

明日も笑える日が来る事が約束されていないことを知っているから

本当に伝えたい気持ちというのは言葉にするのが難しい

それでも僕は先生の両目を真っ直ぐに見つめ言葉を紡いだ


「違う!違うの!!」

髪の毛を持ち上げるように頭を抱えた先生は錯乱したように叫んだ


「違わないよ先生!!

失われた時間は戻ってこない…だけどこれからも先生にも僕にも等しく時間は流れるんだから…

先生も自分の人生を歩んでいいんだよ!」

願いと怒りが混じった僕の想いは部屋中に響いた


「…私にはその資格はない…

私がやったんだ!私が!!」


先生は語り出した

思いもよらない重い言葉を、隠された真実を


「あの日私は焦っていた…

私の企みが失敗してしまったから

君に私の存在を気付かれてしまいそうだったから

だから考えたんだ君を殺す方法を

私はガス栓を開きその時が来るのを待っていた

君達が火をつけるその時を

事故を装い君を殺す為に…

結果は知っているでしょう…私の企みは成功し

君は目覚めない…筈だった…爆発の瞬間君を守るように君に抱きついたあかりは君の命を救った

君が昏睡状態に陥ったと聞いた時私は心底喜んだよ

君には私を裁く権利がある!君にしか…君にしかできないんだ

私を…私を救えるのは君だけなんだ!!」


ガラスに両手を貼り付け

狂ったように私を殺せと…罪を償わせろと泣き叫ぶ先生は職員の人に連れ去られ、異様な空気が漂う空間に僕は1人取り残された


この感情が何なのか自分でも分からない

先生が嘘をついていたのか本当の事を言っていたのか…

僕には先生が嘘をついてるようには見えなかった

僕が気付きそうになっていた?

何を言っているんだ…記憶を失った数日間僕は何をしていたんだ

怒り?…戸惑い?…悲しみ?

震える僕の拳はガラス板に叩きつけられ鈍い痛みが腕を突き抜ける

何が僕達を狂わせたんだ…失った記憶は何かを知っているはずなんだ

それでも僕は心の底から先生を憎む事ができなかった


施設を出た僕は再びタクシーに乗り込む

足取りは重く、鳥の囀りも虫の合唱も僕の意識には入ってこない…陽射しだけが…いて刺すようなその熱さだけが僕にも等しく降り注ぐ


***


病院でタクシーを降りた僕は聞いて欲しい事があった

ただ自分に言い聞かせる為に、目の覚めない君に…

目が覚めたら君は僕の馬鹿な行いを笑うのだろうか

いや、笑わないだろうな


“ピッ…ピッ”

止まった時の中、君の心音が、機械が刻む無機質な音だけが残酷に時を推し進めている


「あかり…僕は今日先生に会ってきたんだ

僕は言ったんだよ先生のせいじゃないって

君もそう思うだろ?

でも…先生は自分の意思で事故を起こしたって言うんだ

僕には先生が嘘をついてるように思えなかった

先生はおかしくなっちまったんだろうか…それとも僕がおかしくなっちまったのかな

先生…とても苦しそうだったんだよ

僕は先生を憎む事なんてできなかった

そういえば昨日久しぶりに商店のかき氷食べたんだよ苺味の…あかりお前好きだっただろ?今年の夏で店閉めちまうんだって…寂しいよな

最後にまた皆んなで食べたかったよ…

あかり…いつになったら目を開けてくれるんだ

僕はもう目を覚ましたよ

また僕を助けてよ…笑ってくれよ」


孤独な空間に響く僕の独りよがりな願いに答えは返ってこない

心に重くのしかかった呪いが軽くなったような感じがした


「必ず会いに来る

その時は笑って話そうな」

そう言って僕は病室のドアに手をかけた


“ピッピッピッピッ”


今振り返るとあかりが起き上がって微笑んでるような気がした

心臓が脈打つように僕の心も跳ね踊る


疑っていた、このまま君が起き上がらないんじゃないかって

君がいない世界で僕だけが歳を重ねていくんだと


「あかり!!」


“ピッ……..ピッ…………….ピッ………………ピーー”


僕と君の世界の終わりを告げるその音は君の命を僕の心を連れ去ろうとする

やめてくれよ…もう……

2度もあかりを失うなんて僕には耐えられないんだ!!

2度…?何を…

先生を呼ばないと


混濁する意識の中僕はナースコールを押した


その後の喧騒も先生の話も何も覚えてない


***


「先生何言ってるんですか?

月島あかりが死んだって?…そんなくだらない嘘をついて何が面白いんだ!!

だったら僕の目の前にいるのは誰だっていうんだ!!!」

僕は声を荒げた


同じような事があった気がする…7年前に

あの頃の僕はどうかしていた

僕には受け入れられる事ではなかったそれほど月島あかりは僕の特別な人になっていた

極度な人見知りだった僕は君に手を握られて、君が僕を連れてってくれたから集団登校できるようになったんだ

人との話し方なんて知らなかった

だから君を真似たんだ

僕が話したことのある初めての他人だったから、僕は君しか知らなかったから

笑い方さえも僕は君を真似たんだ

君が笑うと皆んなが笑っていたから、僕は君が羨ましいと、君のようになりたかったんだ

僕に無い全てを持つ君だったから僕は君を好きになってしまったんだ

愛という呪いに囚われてしまったんだ

だから君を忘れたその日僕は僕も忘れてしまったんだ

遼君もともえちゃんとも話さなくなってしまったんだ

そして僕はこの広い世界で1人になってしまったんだ

…ごめん違ったよ、僕は1人になろうとしたんだ

そうじゃないと忘れるなんてできなかったから


「生時君…落ち着いて」

先生が僕の肩に手を乗せている


ハッとした…僕はまた、また同じ間違いをしてしまうところだった


「私もやれることはやった…

君の気持ちは分かる…でも亡くなった人は戻ってはこない

月島あかりは君の目の前で息を引き取った」


そうか…何度やり直しても結局僕は何も変えられなかったんだ

また、君を失ってしまったんだね


***

「ちょっとはる君も笑って!

表情固いよどうしたのそんな驚いた顔して

じゃあ撮るよ!

はい、チーズ!!


良い写真撮れた!後”1”枚しか撮れないや」


























































ちょっと気に食わない所が多いので細かな修正を沢山加えていくつもりです

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