6月7日
こんな実験を知っているだろうか
目隠しをされた男にある人物はこう言った
「お前は今から拷問をされる、火で炙られる」と…
火がメラメラと燃える音その熱を感じた男はこう言った
「お願いだ、やめてくれ」
それで止まるはずもなく
「熱い熱い!熱い!!」
この男はやけど傷を負って腕が腫れ上がってしまった
当然だろ!そう思うかい?
でもこの男は実際に火など当てられていない、男が当てられたのはただの冷たい氷である
男は当てられた氷を火だと思い込んだそして自分が今焼かれているとそう感じたのである
トラウマは知っているかい?
痛ましい経験を人間は心の傷として記憶する
思い出すだけで気分が悪くなり、できるなら一生同じ経験をしたくないと思う
しかし、人間は便利な生き物である
思い出したくない事は思い出せないように
つまり忘れるという行動を取る事ができる
忘れてしまえばトラウマはもはやトラウマでも何でもない
あぁでも忘れてしまうと同じ事を繰り返してしまうかもしれませんがね
ではこんな話をしよう
幽霊はいると思うかい?
そしてそれは怖いものだと思うかい?
幽霊…多くの人がその存在を否定はできないもの
科学的にはいないと言う人まで、もしかしたらいるんじゃないかそう思わせてしまうような存在
僕は確信している。幽霊がいるとでもそれはそんなに怖いものなんかじゃないと思う…何故なら…
***
『おはよーはる君。ちゃんと歯磨いたー?
速くしないと学校遅刻しちゃうよ?』
“シャカシャカシャカシャカ”
僕は歯を磨きながら思う
なんだよ朝からうるさいなーあかりのやつ
「ハルー?学校遅刻するわよー!」
母さんが車の前で待っている
「分かってるよ母さん!今行く」
あかりと母さん2人も母親がいるようだ
僕は幽霊に取り憑かれているらしいんだ
街を歩いていたら怪しい婆さんにいきなり言われたんだ
「あんた、憑いてるよ」って
そこからだ今まで意識すらしていなかったあかりが見えるようになったのは
僕はあかりについて何も知らない
何故僕に憑いているのか
いつから憑いていたのか…
分かるのはコイツが俺に危害を加える気がないって事
それと名前があかりだってこと
むしろ世話焼きなほどである
10歳ほどの少女に見えるこの幽霊は大体僕の側にいてニコニコと笑っているように見える
というのも元々霊感なんてない僕はなんとなくでしかあかりを認識する事ができない
見える人には見えるというが俺はあかり以外に霊なんて見た事はないし
あかりを見えると言ってくる人もあの謎の婆さん以外に知らない
それにしても何者だったんだあの婆さん
もう1度会えたら聞きたい事が沢山あるのに
僕はさっさと身支度を済ませ車へと乗り込んだ
***
僕は今17歳だ
自慢じゃないが地元でもトップレベルに頭の良い学校にかよっている
側から見れば頭の良い優しい高校生のお兄さんってところか
友達はいないし
幽霊に憑かれてるけど…
僕は人付き合いが得意とはいえない
会話に自分から入っていく事はできないし、笑顔だってぎこちない
最初こそ友達を作ろうという気はあったけれど、それだけだ
喋りかけることもできないでいるまま時は鬼のように過ぎ去っていった
学校が終わると勿論放課後になる
ちゃんと部活動に入っていない僕はかわりと言っちゃなんだが帰りだけは家まで歩いて帰っていた
「今日も熱いなー、アイスクリームでも買おうかな」
ダラダラと滴り落ちる汗は止まり方を忘れてしまったらしい
拭いても拭いても5分後には元通りになっている
だから夏は嫌いなんだ外に出る事すら億劫になってしまう
さっさと家に帰ってクーラーの効いた部屋に引き篭もりたい
…まぁ1年中ほぼ家にいるんだけど…
まだ6月である。と言っても最近の6月は最早初夏であるなんて信じられないくらい熱いのだ、30度なんてのは最早平常運転だ、もうそろそろ猛暑日だなんだと大層な名前を付けるのはやめた方がいい
やだなぁこのまま7,8月になったらどうなっちまうんだ
僕もアイスクリームのように溶けちゃうんじゃないか
『良いねアイスクリーム!ハル君はいつも通りチョコミントのアイス食べるの?昔っからそれしか食べないよね、私もアイス食べれたらな〜』
僕の周りでふらふら飛んでいるあかりは物欲しそうな声をしていた
なんだあかりのやつ、僕がチョコミント好きな事まで知ってるのかほんといつから憑いてたんだコイツ
家から歩いて5分ほど閑静な住宅が立ち並ぶそこに昔ながらの商店があった
“チリンチリ〜ン”
水色の風鈴と氷と大きく書かれた旗がゆらゆらと揺れている
“ガラガラガラ”
僕は商店の扉を開けた
「おぉ久しぶりやなぁ〜ハル君
かき氷食べるか?それともいつも通りチョコミントか?」
商店の奥の方からおばちゃんが出てきた
「じゃあ折角だしかき氷食べようかな」
本当はチョコミントを食べようと思っていたけど
やっぱりかき氷が食べたくなった
風鈴効果抜群だな
「はいよ、ブルーハワイ?」
「いや、苺にしようかな」
『苺はあかりの!』
あかりが嬉しそうにしている
なんだコイツは苺が好きなのか
でも霊ってどっちにしろ食えないだろ
「苺?珍しいねそれをいつも食べてたのはハル君じゃなかったのに、まぁ苺も美味しいからなぁ」
おばちゃんはそう言うと
かき氷を作り始めた
“ガリガリガリガリ”
透き通った大きな氷が削られ
プラスチックのカップにふわふわの氷が積み上げられていく
ここのかき氷は氷からこだわっていてすごく美味しい
「はいよ、200円ね」
「美味しそう!」
僕は差し出された手に200円を乗せると
すぐにかき氷にがっつき始めた
急ぐ必要もないのに急ぎすぎたせいで頭がキーンとした
これも夏の醍醐味か…
「ハル君上手いかい?」
おばちゃんがカウンターで両肘をついて微笑みながら僕がかき氷を食べるのを見つめていた
「うますぎて頭がキーンとしてます」
僕はスプーンを持った手で頭をおさえた
「それは良かったよ
実は今年の夏で店を閉めようと思っててね
私ももう歳だし客足も遠のくばかりでね
ハル君が喜んでいるのを見る事ができて良かったよ」
返す言葉が見つからなかった
こういう時に何か気の利いた事が言えたらいいのに
僕はぎこちない笑顔で
「それは寂しくなっちゃいますね」
という事しかできなかった
昔から知っていて馴染みのある商店が無くなってしまうのは本当に悲しい子供の頃から今に至るまで沢山の思い出をここで作ってきた
初めて時の流れ時代の移り変わりというものを経験した気がした
「はぁー我が家最高〜」
家に帰るまでの少ない時間でまた汗をかいてしまった
玄関を開け部屋の戸を開けると涼しい風が体を駆け抜け…はしない、クーラーのタイマーをセットするのを忘れていた
タイマーをセットし忘れた自分が憎い
この暑さだと汗をかいた体でソファーの上で気絶しまいそうだ
仕方ない
僕は部屋が冷えるまでの間にシャワーを浴びる事にした
“ジャー”
ベトベトとした体の汗を水が洗い流す
こういう時にあかりを見た事がない
結構気が効くやつなんだよなアイツ
スッキリした
シャツとパンツだけ履いて何も考えずにテレビを付けてソファーに身を投げ捨てる
部屋はちょうどいいくらいに冷えている
熱いところから涼しい空間に移動する
この瞬間が1番生を実感する
《…通り魔による残虐な事件から今日で7年がたとうとしています。当時10歳だった月島あかりちゃんを殺害した通り魔は未だ捕まっておらず…》
テレビから流れるニュース…良いニュースではないな
それにしてもやけにこのニュースが気になる
“ドクン”ドクン”
心臓の鼓動が聞こえてくる
何だ何か忘れているような…
「ハル坊、父さんな倉庫整理してたら懐かしい写真見つけてな
これ、お前が撮ったんか?
あかりちゃんもいるし7年くらい前か?」
父さんが倉庫の方から出てきた手には古い写真を持っている
父さん今あかりちゃんって言ったのか?
僕の記憶には写真を撮った記憶なんてない
父さんが何のことを言っているのか分からないがその写真は僕に関係のある写真なのだろう
“ドク”ドク”ドク”
7年前…
心臓の鼓動が速くなる
何か何かが僕の胸を締め付ける
僕は写真を手に取った
古い写真には笑顔の僕そして友達、もちろん”あかりも”写っていた
僕達がいつも遊んでいた公園…
凄く良い写真だな…でもなんだろう凄く悲しい気持ちになる
喉元まできている何かを僕は思い出せないでいた
そういやアイツ言ってた気がするな
「このチェキは撮った人の願いを叶える…」
それで…それで何だっけ?
ちょっと待て、アイツって誰だ?
『この写真には私の願いが、想いがこもってる
…そっかもう7年も経つんだねはる君…』
そうか!!これはあの日の…
「あかり!!」
思い出した、全部、全部思い出した
喉元に引っかかっていたものが取れ、溢れ出したのは大きな悲しみ、思い出したくはない事実
「おいあかりどこにいるんだ!
お前だったんだな、ずっと、ずっと側にいたんだな…
おい!あかり!!」
血眼になって家中を探し回ったそれでもあかりの姿は見つからなかった
僕は君のことを忘れてしまったのに
それでも君は僕の事を忘れていなかったのか…
「ハルどうしたの?大丈夫?」
お母さんが心配そうに僕を見ている
「いや何でもないんだ母さん
僕もう寝るよ」
嘘だ。でも母さん父さんの前で泣くのは嫌だ
僕は駆け足で階段を登った
「ちょっとご飯はどうするのー」
「いらなーい」
その日、僕が全てを思い出してしまった日
あかりは僕の前から姿を消した
部屋に入ると抑えていた涙はもう止められなさそうだ
扉を閉めた途端
崩れ落ちるように膝をついた僕は手で顔を覆って咽び泣いた
月島あかり…僕の同級生だった
ただの同級生…ではなかった
あの写真を撮ったあの日…あかりが家に帰る事は無かった
通り魔による残虐な仕打ちだった
犯人は未だ捕まっていない
笑えない冗談だ
どうして僕はこんな重大な事を忘れていたんだろう
どうしてあの写真を僕が持っていたんだろうか
違う…僕は忘れる事を選んだんだ
事件の悲しみから、痛みから逃げるため僕は月島あかりの死を忘れた…
「なぁあかりお前はこの写真に何を想ったんだ」
僕は仰向けになり写真を明かりにかざしながら呟いた
涙で視界がぼやけて見える
この写真は大事にしないとな
そう思い僕は写真をそっとしまった
悲しい事を思い出したせいだろうか何だか頭がとても疲れた
ベッドにだらしなく横たわった身体はもう言う事を聞いてくれそうにない…
あかり…どこいっちまったんだ…
明かりを消し
闇と静寂の中
僕は深い眠りについた
***
「ちょっとはる君も笑って!
表情固いよどうしたのそんな驚いた顔して
じゃあ撮るよ!
はい、チーズ!!
良い写真撮れた!後6枚しか撮れないや」
そういえばあの日もそんなこと言ってたっけ
まだ蝉がちらほら鳴き始めるくらいの頃
あの日もこんな風に熱い日だった
土、草の香り懐かしい声…
これは…7年前!?あかりも遼もともえも
戻ってきたのか6月7日に!?
夢…か…?いろいろ思い出したし感傷的になっているのかもしれない
だけど…夢にしてはあまりに感覚がはっきりしすぎている
匂いも感じる暑さも五感が現実だと言っている
それに…それにもしこれが夢じゃなかったら
僕は自分の顔を叩いてみた
“パチン”
僕の小さな手は確かに頬を捉えた
痛みは感じられる
“僕はあかりを救う事のできる唯一の人間だ”
そうだこの日は学校が休みで僕達は朝から公園に集まって遊んでいたんだ
ブランコと気持ち程度の滑り台が置いてある小さな公園…
僕達以外に遊んでる子なんて見たことなかったな
写真を撮ると僕達は駆けっこをした
こんな熱い日に駆けっこなんて小学生の僕は気が狂っていたとしか思えない
あれ?でも意外と楽しい?
7年前に戻ったことで価値観までも戻ったのだろうか
熱い日に運動をして汗をかきにいく、こんな経験はいつぶりだろうか
「にしても熱いなー
なぁ皆んなアイス食わね?」
遼君が熱い熱いと手をパタパタしながら言った
短く刈りそろえた髪、運動神経の良かった遼君はいろんなクラブ活動から引っ張りだこだった
明るい性格で冬でも半袖短パンで体育の授業に出るタイプ
遼君は僕の親友だった
「それいいやん!食べよ食べよ」
ともえちゃん活発な女の子だった
肩くらいまで長く伸びた少し茶色がかった髪が特徴的だった
少し関西弁が入ったような喋り方に僕は何度も口調がつられちゃったな
意見が纏まったので僕達は7年後の今日も行った商店へと向かった
“チリンチリン”
見た光景だ黄色の風鈴と大きく氷と書かれた旗が揺れている
少し違うのは風鈴の色くらいだろうか
“ガラガラガラ”
商店の戸を開けると当然商店のおばちゃんが出てきた
「あらいらっしゃい皆んな
かき氷始めたのよ、食べるかい?」
おばちゃんは僕達に微笑みながら言った
優しい笑顔だ僕にもこんな顔ができたらたぶん友達の1人や2人くらいできるのに
「あかり苺のかき氷食べたい!」
元気な声であかりは答えた
そういえばあかりは苺が好きだった気がする
「じゃあ僕はチョコミント食べよっと」
この頃だ、僕がチョコミントにハマったのは
僕だけがアイスを頼み他の皆んなはかき氷を頼んだ
“ガリガリガリガリ”
白いフワフワが積み重ねられていくのを見て僕もかき氷にしておけば良かったと少し後悔した
それでもやっぱりチョコミントは最高だった
「はる君チョコミントなんて食べるの?」
変なものを見るような目であかりが僕を見ていた
そんな驚かなくてもいいじゃないか
「お子ちゃまのあかりには分からないんだ、この良さが
かき氷1口ちょうだい」
「いいよ、はい!」
遼君とともえちゃんが僕がかき氷を食べるのをじっと見てる
「うん、やっぱり苺も美味しいな」
「「あっ」」
僕の方を指差した遼君とともえちゃんが顔を合わせる
「「関節キッスだぁ!!」」
“ゴホッ”
考えてもいない事を言われてかき氷が変な所に入ってしまった
「ガキかよ!そんな事気にしてないわ
な!あかり?…..あかり?」
何か言ってくれー!!
あかりは耳まで真っ赤にしてこっちを見ようとしない
「僕のアイスも1口食べる?」
「い、いいょ…」
あかりは凄く恥ずかしそうに呟いた
「お前らは仲良いなほんとに!」
遼君が言った
「そうかな〜」
もじもじするあかり
「いーや仲良くないね!」
僕はちょっと嬉しかったが
照れ隠ししながら答えた
「ハル照れるなって!」
遼君にはバレバレだったみたいだ
「照れてねぇよ遼!!お前今度覚えてろよ!」
「ごめんてー覚えておくよ、”今度”ね?」
***
「皆んなじゃあねー!はる君も!また明日ね!」
1休憩した僕達は早めに帰る事にした
天気が悪くなってきそうだったし、今日は朝から遊んでいる遊び盛りの小学生とはいえ流石に疲れた
手をふって別れた後僕とあかりはだけが残ってしまった
僕とあかりは家が近いので必然的にどこで遊んでも一緒に帰る事になる
「あかり…」
何か喋らないといけないと思い僕は取り敢えず名前を呼んだ
「どうしたのハル君?」
元気な声でニコッと笑う
あぁやっぱりあかりだ
どんな時もにこにこしていたあかりは一緒にいる人を自然に笑顔にしてしまうようなそんな不思議な人だった
よくないな…これ以上は涙が出そうになってしまう
「ねぇ本当にどうしたのはる君?何で泣いてるの?
今日なんか変だよ」
あかりは心配そうにこっちを覗き込んでいる
「いやちょっと目に虫が入ってさ」
僕は目を擦りながら言った
自分でも気付かないうちに涙が出てしまっていたようだ
それも仕方ない僕は君に2度と会えないと思っていたんだ
「はる君の弱虫!」
あかりはからかうようにへへへと笑った
「このまま帰るのもあれだしちょっとどっか寄って行かない?」
時間をずらせばあかりが狙われる事もないだろう
それに…あかりと2人の時間を過ごしたかった
「はる君がそうしたいなら良いよ!
どこ行く?」
何処に行こうか…近所の小川でのんびりと時間を過ごすのも良いかもしれない
「川に行こう」
「はる君!この写真あげるよ!」
川に向かっている途中であかりがこんな事を言い出した
「いや、良いよ、上手く撮れたって喜んでたじゃん」
僕はいいよいいよと両手を横に振った
「だからだよ!上手に撮れたから!はい、あげる!
あかりがはる君にあげたいの
お守りみたいに大事にしてね!」
差し出された手にはさっきの写真が握られていた
「ありがとう…大事にするよ…」
僕はそう言ってこの写真をそっと胸ポケットにしまった
両側に田んぼが広がる田舎道
そこをちょっと下ったところに川幅1mほどの小さな小川があった
“チョロチョロ”
水の流れる音と風のささやきだけが目を閉じて自然のカーペットに寝転ぶ僕に感じ取れる全てだった
このまま時が止まってしまえばいいとさえ思えるほどのどかな幸せな時間が過ぎていく
ここで沢山遊んだなぁ魚捕まえたり、クローバー見つけたり…
そういえば小川に落ちて泣いた事もあったな
「ねぇはる君は好きな人とかいないの?」
「え!?」
完全な不意打ちだった
自分だけの時間から一気に現実へと戻される
あかりは遠くの方を見つめていた
「好きな人とかいないの?」
「え、うーんどうだろう…
いたとしても僕はビビリだから告白なんてできないだろうな
あかりはどうなの?」
ごめん…それは今の僕の口から言うべきじゃないんだ
せめて送りバントくらいはしておくよ
「あかりは…はる君が好きだよ…
遼君もともえちゃんも皆んな好き
ただ好きなだけじゃないめちゃくちゃ好き」
あかりはそっぽを向いて慌てるように言葉を紡いだ
びっくりした告白されたのかと思った
何だよ皆んな好きなんじゃん
「よし、もうそろそろ帰るか」
僕は勢いよく立ち上がり背伸びをした
「うわっ」
「大丈夫?」
「うんありがとう」
立ちあがろうとしてバランスを崩したあかりの腕を咄嗟に掴み
引き寄せる
お礼を言ったあかりの頬が紅潮している気がした
あかりと帰る道中も油断せずに周りを警戒しながら歩いた
怪しそうな人もいなかった
これで僕はあかりを救うことができたはずだ
例え夢だとしても、例えこの世界が僕が生きるべき世界じゃないとしても、僕はあかりが明日を迎える世界線を作ったんだ
「母さん今日のご飯は何?」
安心と家に帰った安堵で気分が上がる
「母さん!?ハルあんたもとうとう母さんて呼ぶようになったのね!今日は唐揚げよ」
母さんは驚いているようだった
「やった!!」
そうかこの頃の僕はまだママパパ呼びか…
でも母さんの唐揚げは僕が1番好きな料理だ
それは7年後も変わってはいない
サックサクの衣にジューシーな鶏肉…この料理が嫌いな人間がこの世にいるとは思えない
“ザクザク”
僕が唐揚げを頬張っていると電話がかかってきた
“プルルルル”プルルルル”
母さんが電話に出る
「はる君?いるよ、どうしたのあかりちゃんそんなに慌てて」
「ハル、あかりちゃんからよ(頑張って)」
ニヤニヤ笑いながら電話を渡してくる母さんにちょっとムカムカする
「そんなんじゃないってば!!」
僕の精神年齢も下がってしまったのだろうか
照れくさくなってちょっと怒ったようになってしまった
電話を受け取ると何やら啜り泣くような声が聞こえた
「あかり、どうした?」
泣いているのか?
「はる君…遼君が…遼君が…!!」
あかりは酷く慌てているし、やっぱり泣いている
「落ち着いてゆっくり話して、遼君がどうした?」
遼君に何か悪い事が起きたんだそれだけは分かる
「遼君が…遼君が殺されたの!
警察の人が家に来てそれで…」
それ以上のあかりの言葉が耳に入ってこない
聞こえているのに理解が追いつかない
遼君が殺された?
いつのまにか受話器を落としてしまっていた
硬直した僕に母さんが何かを言っているのだけが分かる
この絶望感…味わうのは2度目だろうか
***
「ちょっとはる君も笑って!
表情固いよどうしたのそんな驚いた顔して
じゃあ撮るよ!
はい、チーズ!!
良い写真撮れた!後”5”枚しか撮れないや」
あかりはえらく上機嫌だ
また戻ってきたあの時あの場所に
起きている出来事に理解が追いつかない
蝉がやたらとうるさいような気がする
何だ本当に何が起こっているんだ
夢ならば覚めてくれそう願い腕をつねる
鋭い痛みが腕を走り抜ける
何故僕は夢からさめられないんだ
本当に夢じゃないというのか?
思考が心臓の鼓動が加速する




