三人そろえば怒られても平気
青海夜海です。
よろしくです。
「えーい!キミたちはどこまでボクを困らせるんだーい!有り余るほどの遅刻に無断欠席の横断歩道。唯我独尊はじゃじゃ猫だし、協調性もない!キミたちはここに呼ばれた理由がわかっているのかい!」
「「「……」」」
「黙るんじゃなぁぁーい‼」
そんな童子な少女の甲高い怒声が職員室に轟いた。
我らが担任にして教師陣の中で一番小さい先生こと花歌詩先生は額に手を当てて問題児三人を前にやれやれと嘆息した。短足な詩ちゃん先生は端側に歎息を探測する。
「クロ君。何を考えているのかね?うん?」
童顔童心童体なのに頭の中と観察眼や洞察力は天才的なポテンシャルを持っている幼女……少女先生の威圧に僕は委縮しそうになる。
「クロじゃありません」
「じゃあシロ君だ」
「そんな犬につける名前にしないでください」
「ならキミは今日からキラー・ホエールだぁ!」
「いや、殺し屋クジラって、てか、白黒からなぜにシャチに」
「キミは黒いほうが多そうだからね」
……これは教師が生徒に言っていい言葉だろうか。てか、もろに侮辱されている気がするのは僕だけなのか。
確かに髪は黒いし目も黒いしポケットにあるのど飴も黒いけど、全体的に見れば白いと思う。ほら、このきめ細やか白い肌!美顔さ!
僕の主張は虚しいかな。詩ちゃん先生のこれ以上喋るなという冷え冷えの笑顔に口にできない。隣の徹が「確かに」って具合で頷いていることも納得できない。
「先生。説教は終わりよね?帰っていい?」
と、もう一人の呼び出しを受けて参った生徒は傲岸不遜に我関せずと声音一つ変えず見下げる。
「ちょいまてやーい!勝ってに終わらせて帰ろうとするな~!てか、これから授業じゃい!」
「ちっ。……そうでしたね。忘れてました」
「今舌打ちした⁉」
舌打ちをした夜咲麗花はめんどくさそうにため息を吐いて長い黒髪を払った。
「ため息を吐きたいのはボクだし……」
詩ちゃん先生は説教開始数分でぐったりだ。キャスターつきの回る椅子の背凭れに深く体を預け、僕たち三人を再度見上げる。そして苦笑。
「中学生の時から遊び回っている不良少年に感情表現が乏しいサボり魔ホエール君。さらに成績優秀、文武両道、容姿端麗、才色兼備に厚顔無恥と傲岸不遜をこれでもかと二律させた孤高少女。キミたちはどーして!こう何度も揃いに揃ってボクの前に来るんだぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」
「あんたが呼び出したからだろ」
「ちがぁーうぅ~~っ⁉」
ぐだーとデスクに額をぶつけて倒れこんだ詩ちゃん先生はピクリとも動かない。
「死んだのか」
「そうかもしれないわね」
「てか、三人一緒ってそれはこっちが聞きてぇーよ」
「ええそうね。どうして私が毎度呼び出されているのか意味がわからないわ」
「俺は毎度オマエがいることに意味がわからねぇーよ」
そう、僕ことクロでもなくシロでもない夜野唯月と神崎徹に夜咲麗花はセットで最悪呼び出されの常習犯だった。
「そういえば、僕たちの名前って似てるよな」
「はあ?どこがだよ?」
「ほら、僕が夜と月で徹の名前は徹夜とかの徹だろ。夜咲は言うまでもないけど」
「そういえばそうね。状況からみても因果かしら」
「んなわけないでしょうがぁぁぁぁ!」
益体のないバカな話にがおーと詩ちゃん先生が跳ね起きる。
「今、キミたち三人の共通点とか遅刻常習犯、サボり魔、自己中心的とか以外にいらないから!これ以上増やさなくていいから!てか、今その話関係ないだろうがい!」
「なら帰っていいですか」
「だから授業あるつってんでしょうがぁ!すぐに帰ろうとするなぁぁぁー!もーヤダ。キミたちはね。入学式だけじゃなく始業式も無断で遅刻してきたんだい。高校二年生の門出にどうしてボクはキミたちを呼び出さないといけないんだい!」
「なら呼び出さなきゃいいだろ……」
徹がそうどうでもよさそうにめんどくさそうに告げると。
「こちとら仕事じゃーい!」
とキレられた。しくしく泣く詩ちゃん先生に徹は多少バツが悪そうに、夜咲に関してはあくびを一つ。
僕は何となく職員室を見渡す。すると夜咲から厚顔無恥と傲岸不遜を取り除き優しい包容力と活発を加え人として完成させ、そして夜咲には足りないとある一点に栄養を与えた麗しい学級委員長と視線があった。手を振られたなので僕も手を振り返す。
「クロシロシャチ太郎!ボクの前で公然とイチャイチャするなぁー!」
それからは上級生の自覚がなんちゃらかんちゃらうほほほー!、と長い説教を受けて最後には諦観の念で開放された。
「失礼しました」
「したー」
「……」
この中で恐らく僕が一番礼儀正しいのは明白だろう。
「んじゃ。俺先に行くな」
そう一方的に徹はさっさと教室に向かう。
そう言えば説教中に思ったけど、隣に立つ美少女様は何を考えていたのだろうか。それより、一風真面目そうな夜咲はどうして不真面目なんだろうか。
「夜咲は不良?」
「それは貴方のお友達でしょ」
「アレは友達じゃない」
「……人間社会は闇が深いわね」
「そうだね。社会は深い。深すぎるよ。もはや僕たちは深海生物とカテゴリーしても過言はない」
「は?何言っての?過言だらけの過失でしょ」
冗談の筈が深いジョブを入れられた。普通に痛い。
夜咲は僕から目線を前にして優雅な足取りで歩き出す。黒い髪がふわりと靡きシトラスの香りが鼻腔を抱いた。
「私は貴方たちとは違う。悠々諾々と適当に過ごしているわけじゃないわ。理由があり意味があり、それに伴う価値がある。だから、不要な行動は切り捨てるのよ」
それはまさしく学校生活そのものが不要と断言しているもの。
彼女が何に対して理由が存在しているのか知らないが、彼女の行動原理は彼女の一存によって決まるらしい。
社会を模倣した擬似ルールの片鱗より、己で構築した意義こそが大切と夜咲麗花は言った。
「私は私。それ以外でもそれ以下でもないわ。社会性だとか一般的だとか、そんな曖昧な法則は要らないわ」
「それはどうして?」
彼女は笑う。冷笑に憎たらしく美しく。
「やるべきことがあるからよ」
そのやるべきことは学業よりも青春よりも大切だと、夜咲は僕を置いてどこかへ歩いて行った。
夜にもう一話更新します。