表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【閲覧注意】 幼馴染は最期に僕の名を喚ばない

作者: 泰山

※ 10月16日、あとがきにちょっとしたお知らせを追加。


この物語はフィクションです。一部残酷な描写が含まれております。

この物語は犯罪行為を推奨するものではありません。

 渚 七瀬(なぎさ ななせ)は僕――影山 英雄(かげやま ひでお)のお隣の家の一人娘だった少女だ。


 同い年ということもあり、小さな頃から僕たちは何をするにも、どこへ行くにも一緒だった。

 飴の交換をしながらよく遊んだものだ。

 彼女はちょっと酸っぱい、痺れるようなレモン味の飴が大好きだった。


「ななせ、いつか ひでくんのおよめさんになる!」

「うん! しあわせにするー!」


 結婚の約束をしたこともあったかもしれない。

 もっとも、子供の口約束でしかないのだが……。


 小学校の頃、彼女はよく他の男子にいじめられた。

 きっと好きな子ほどいじめたいという小学生男子特有のアレなのだろう。


 そんな彼女を守るのはいつも僕の役目。

 僕はそのヒーロー役に誇りすら感じていた。


 小学校を卒業し、中学校になっても僕たちの友情は続いた。

 そして、僕が野良犬に追い回された七瀬を助け出して数日後……彼女の告白のもと、僕たちはカップルとなった。

 友情は男女の愛情に変わったのだ。


 ケンカをすることもあった、でもすぐに謝って仲直りした。

 争う前よりももっと仲良くなった気がした。


「いつまでもヒデ君と一緒に居られたらいいのにね」


 そんな彼女の言葉が嬉しくて一緒の高校に行けるように僕は頑張った。

 その甲斐あって、二人そろって同じ高校に進学した。

 だけど……。


 それがきっかけで僕たちの関係は破綻することとなった。

 最初のうちこそ、僕たちの関係は続いていたのだが……。


 おしゃれに気を配るようになった七瀬は垢ぬけて、とても素敵な美少女になった。

 高校デビューに成功した彼女の周りには男女問わず常に人があふれるようになった。


 今までのようにいつでも話しかけていい存在とはいかなくなってしまった。


 ケンカをしてもすぐに謝れないこともあった。

 仲直りが遅れれば遅れるほど、僕たち二人の関係にはより大きなヒビが入るようになった。


 やがて、入学から半年もしないうちに――。

 僕と七瀬の恋愛関係は自然消滅し、クラスの女王と底辺奴隷の関係へと置き変わった。

 彼女は僕のほうをいつしか、憎悪に満ちた目で見つめるようになっていた。


「ねえ影山、購買でジュース買ってきてよ!」

「ウザ、なんでいちいち彼氏ヅラしてんの?」

「お願い、もうお願いだからみんなの前で話しかけないでよ」


 彼女がそれを望もうと望むまいと周りの奴等が七瀬の精神性を女王のソレへと変えていった。

 そして、そんな取り巻きどもにとって、昔の七瀬をよく知る僕はただの嫉妬の対象、攻撃対象でしかなかった。


 ヤツらは僕に、七瀬以上のひどい苛めを繰り返した。

 七瀬はいつもそれを見て、ころころと楽しそうに笑っていた。


「あ、またアイツ泣いてる! 行こう?日野(ひの)くん」


 そう、あの日までは。


――――――――――



「あーあ、遅くなったな」


 10月下旬の夕刻、僕はひとり帰路を急いでいた。


 ほんの少し前まで一緒に登下校していた彼女は――今はもう居ない。

 彼女は僕に自分の部室の片づけを命じて、さっさと帰ってしまったからだ。


 うちの親の話によると今週いっぱい七瀬の両親は海外旅行で留守だという。

 なら彼女は取り巻きどもを連れ込んで、ハロウィンパーティーでも楽しんでいるのだろうか。


 この季節にもなれば陽が落ちるのも早くなる。

 人通りの少ない、閑静な住宅街の真っ暗な道。

 決して気持ちいい空間ではない。

 まして、最近この近くで女子中学生がひとり行方不明になったと聞く。

 それならなおさらのことだ。


 そして……家まであとわずかという距離のあたりで。

 僕は突然何者かに肩を掴まれ、すぐ近くのワゴンの中に引きずり込まれてしまう!


「動くな騒ぐな! 動いたら打つ」


 首に当てられたのは得体のしれない薬品の入った注射器。

 そして僕の左右を固めているのはピエロやドクロといった不気味なマスクをつけた男たち。


「おい、コイツ男じゃん、使えねぇ」

「そうだそうだ、さっさとバラしちまえよ!」


 そう言いながら、ドクロの男が注射器の針を僕の首筋に刺しこむ。


 え――!

 なんでこんなところで理不尽に死ななきゃならないんだよ!

 思わず首をブンブン振って抵抗したくなるがこの状態ではそれも適わない。


「いやいや落ち着け――おい坊主。お前に助かるチャンスをやる」


 そんな風に僕に助け舟を出してくれたのは彼らの中でもリーダー格と思しき鳥を模した面――ペストマスクの男。


「聞いての通り、俺たちはかわいい女の子を探してる」

「え、女の子?」

「十代の女だ、坊主の妹でも、彼女でもお友達でもいい。捕まえるのに協力してほしいんだ」


 逆らったらどうなる?とは聞けなかった。

 あいかわらず首筋には注射針、おそらくこの中身は毒物だろう。

 きっと僕が誰か女の子を紹介しなければ、ロクでもない結末になるのは見えている。


「捕まえて――どうするの?」

「ああ、俺たちのビデオの女優さんになってもらう」

「え、ビデオって……アダルトビデオ?」

「んー、ちょっと違うな」


 マスクをしたまま互いに頷きあう男たち。


「おい坊主、スナッフムービーって知ってるか?」

「スナッフ……ムービー?」


 聞いた事はある。

 若い女性を拷問したり、殺害する映像を収めた動画のこと。

 つまり僕が今死ぬか、その女性を殺す手伝いをするか、片方を選べと言うことで――。


 なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 部室の後片付けさえ引き受けなければ!


 ――あ!


「そうか、それならとっておきがある」


 僕は七瀬の家の住所を告げた。


「この家に高校生の女の子がいる。家族はみんな旅行中だ……今週は戻ってこない」


 すぐに携帯を取り出し、何度か電話をかけるペストマスクの男。

 やがて、僕が言っていることがデタラメではないと確認したのだろう。


「そうか、ありがとよ坊主」


 僕は捕まった場所から少し遠い……公園の片隅で解放された。


「今週の日曜日、もう一度この辺りの茂みを探してみろよ」


 そして次の日、七瀬は高校に来なかった。


 その次の日も、さらに次の日も――。



――――――――――


 僕が彼女と次に再会したのは公園の茂みに置いてあったバッグ。

 その中に入っていたDVDの、画面の中だった


 最初、画面に写っていたのは大きな木の椅子。

 そこに……。


「来るんだ!」

「やだ! やめてよ!」


 制服姿の少女を引っ張りこむ黒づくめの男。

 間違いない、違う学校の制服を着せられてはいるものの七瀬だ。


 突き飛ばすように彼女を椅子に座らせると手足についたカセで手際よく彼女を拘束してゆく。

 時折、暴れる彼女の腹にパンチを叩き込み、おとなしくさせながら……。


 やがて抵抗する気力を失い、されるがままになった七瀬。

 その拘束された四肢、それに胴体から複数の電気コードが延びている。


「なに、なにをするの……? お家に返してよ!」

「ごめんね、キミはもうお家には帰れないんだよ」


 まるで外国の死刑に使う電気椅子のようだと感じた。

 だが、頭に電極がついていないコレではとても長い間、苦しむことだろう。


 そのことに七瀬も気がついたのか。

 あるいは単に周りの機材から発せられた羽音のような重低音に本能的な恐怖を感じたのか。

 全身を揺らし、どうにか拘束から逃れようとしてはいるものの、ついに間に合わず体内を灼きはじめた電流の猛威に……。


「――ッ!?」


 苦悶と共に彼女の両手がぎゅっとアームレストを掴む!

 腹を前に突き出し、必死で首を振って痛みに耐える七瀬。


 だがそれでも耐えがたい苦痛にやがて。


『ぎゃ……あ、アアアアアあああああああああ――ッ!』


 七瀬が拘束された時、最初に感じていたのは「ざまぁみろ」という感情だった。

 そして、彼女が苦しみ始めた時、ソレは恐怖と嫌悪感にかわった――。

 何故こんなモノを撮影する奴等が居るのだろう、いくらなんでも酷すぎると。


 しかし、幾度もの休憩をはさみつつ……じわじわと彼女の生命が削られていくうちに。

 僕はどちらとも違う感情を抱くようになってしまった。


 モニターの中の彼女の瞳、最初の内はいつも僕を睨むときのような憎悪に満ちた眼だった。


 でも、何度も、何度も通電を繰り返されるうちに弱々しいものへ。

 僕の後ろに隠れていた、他の男子や野良犬に怯える小さな女の子のものへと戻っていったからだ。


 ああ、黒づくめの男たちは七瀬の時間を引き戻し、止めようとしてくれているのだ。

 僕が彼女のヒーローだった頃に、幸せだったあの頃に――。


 そう考えるとこの映像がとても尊いもののように思えてきた。

 僕への最高のプレゼントとすら思えてきた。


「うぐ……! あ、あが……ッ! いたい」


 モニターの向こう側で激しく喘いでいる彼女。

 そのヨダレが垂れた口元を映している部分にキスをする。

 激しく踊っている胸にも、スカートの奥の空間にも。

 画面越しに……何度も、何度も。


 モニターの向こうの七瀬は、すごくかわいかった。

 いつの間にか彼女の足元の床に拡がった、水たまりさえ愛おしくなるほどに。


 身元が割れないように、他所の学校の……。

 そして、中学時代を彷彿とさせるセーラーを着せられているのもいいのかもしれない。

 ブレザーを着ていた頃の彼女には悪い思い出しかない。


 長時間の通電に、彼女の顔に隠しきれない死相が浮かび始めた頃――。

 彼女に最後の休憩が与えられた。


 ぜぇはぁと肩で弱々しい息を繰り返す彼女に問いかける黒づくめ。


『これで最後になる、家族に、友達に言い遺すことはないか?』

『や……だ、やだぁ……おうち……かえる……おうち……かえう!』


 残念ながら、それは聞き届けられない願いだ。


『たすけて……! ぱぱ、まま……』


 そう、そしてきっと次に助けを呼ぶのは僕の名前。


 ああ、分かってる。

 たすけて影山くん!と言ってくれ。


 僕が一緒に逝ってあげるから。

 映像の中でキミが天国に行った瞬間――。

 僕もこの、机の上のカッターナイフを自分自身に使おう。

 そうすればまた次の世界でも一緒に幼馴染として生を得られるかもしれない。


 次の世界でも僕は君をどんな相手からでも守ってあげ――。


『ひの、くん……! たすけてよ、こんなところで……やだよ!』


 ――!?


 彼女の声にハッとしたのは――。


「日野、だと!?」


 それが誰を指しているのか、すぐにわかったから。

 彼女がいつも楽しそうに話してるクラスメイトのバスケ部のクソ野郎!


 ――そう、七瀬は最期に俺ではなく、ヤツの名を呼んだのだ。


「ウワアアアアアアアアアア!!!!!」


 ノドの奥から、いや、胸の奥から込み上げてくる気持ち悪い何か。

 叫び声に変えて、吐き散らす。


 彼女が絶頂に達した瞬間、首を掻き切るために用意したカッターを僕は部屋の隅に投げつける!

 からんからんと音を立ててソレは転がった。


 なにもかもがバカらしくなった。

 彼女にも、最後に一抹の期待を勝手に抱いて裏切られた自分自身にも。

 せっかく一緒に死んでやろうと思ってたのに……このクソアマにはそんな価値もない!


 ――程なくして始まった最期の通電。


「い、いきをさせッ、おねが……いき、させて……!!」


 それでも、命乞いを無視して一気に上げられたアンペアによる蹂躙――。

 クソアマは今までにないほど激しく絶叫し、背もたれに何度も何度もガンガンと体を打ち付けた!

 もう助からないと一目で分かる状態なのに、それでも激しく舌を突き出し、酸素を求めていた。


 そこにはもう、先ほどまでの可憐な美しさは感じられなかった。

 まるでイヌかネコ、ゴリラが盛っているようにしか見えない。

 吐き気すら感じる。



 そして、更に十数分苦しみぬいた末に……渚 七瀬は絶息した。


 画面のなかでは彼女の死を確認する手順が続けられていたがもう十分だ。

 僕は動画を止めて、パソコンの中の円盤を取り出し……握る指に力を込めて割り砕く。


 破片に血がにじんでもそんなこと知らない!


 ……。


 少し考えて、小学校の裏山の、いつも一緒に遊んだ場所にソレを埋めた。

 お墓代わりに……簡単に盛り土。

 明日にもなればきっと簡単に崩れ、埋もれる程度のモノだろうが。

 彼女が小さいころ、好きだったレモンキャンデーを横に添えた。


「ざまぁみろだ……クソ」


 警察の捜索が入ったのはそれから数日後のことだ。


「七瀬さんとの関係が悪化していたと情報がありました。一応捜査させてください」

「はい、僕にできることなら何でも協力します」


 ――といっても、誘拐の証拠など見つかるはずがない。

 唯一の物証であるディスクを割ってしまっていたのも幸いしたのだろう。


「失礼しました。あらぬ疑いをかけてしまい申し訳ありませんでした」


 程なくして僕の名前は被疑者のリストから外されたようだ。


 そして、その日から僕のイジメもなくなった。

 団結の証である女王を失ったうえに、互いに犯罪者と疑いあう状況で徒党を組んで誰かをイジメるのは難しい。


 それから10年が経って僕は医者になった。

 20年が経ち……娘が産まれた。

 葉月(はづき)と名付けた彼女が16歳に、七瀬と同じ年齢になる頃になっても、僕に再捜査の手が及ぶことはなかった。


 妻を早くに亡くしたけれど、葉月は素敵な少女に育ってくれた。

 僕たち二人の暮らしはとても幸せなものだった。


 世間的に見れば僕は「うまくやった」のだろう。


 でも、今でもたまに思う。

 あと一年早く、たとえば高校に入る前に七瀬の時間が止まっていれば――。

 きっと彼女は汚れることなく、もっときれいな、最高の思い出のまま天に召されたはずなのに。


 ああ誰か時間を巻き戻してほしい。

 そうすれば次はもっと、完璧な結末を迎えて見せるよ。


 ――葉月がリビングに怒鳴り込んできたのは、そんな遠い過去のことを思い返しながらソファでまどろんでいる時だった。


「パパ、洗濯物、別に洗ってって言ったよね!?」

「え……!? 葉月、お前……!」


 彼女の眼を見て、驚愕した。

 何故って?

 僕の大嫌いなほうの……高校に入った後の七瀬と同じ目をしていたからだ。


 刺すような痛みに耐えきれなくなった僕は思わず外に駆け出した!

 四月の、ほの暗い夕刻の道をどういう風に走ったものか……。


 気がついたら僕の目の前に停まっていたのは――。

 あの日と同じワゴン車。

 そして、ソレに寄りかかっていたのはいつかと同じペストマスクの男。


「おや、オジサン、常連さんかな?今日は売るほう?買うほう?」


 ああ、無論答えは決まってるさ。


「売るほうでお願いします」

「ほぉ?誰か上玉のアテでもあるのかい?」


 僕は娘()()()少女の名を告げた。


「影山 葉月を譲ります」


 今度こそ彼女が最期に、僕の知らない男の名前を叫ぶことがないよう祈りながら――。


ハッピー・ハロウィン!


評価ブクマ感想、よろしくお願いします。

以下、余韻が冷めた後に読んでいただけると幸いです。

一応改行しておきます。











最初に、たくさんの応援ありがとうございました。

自分の書いた物語がここまで沢山の方に読まれる経験はこれがはじめてです。

こんな物語を書いておいて何ですがたいへん感激しております。


さて、この物語に直接の続編や連載化の予定はありません。

ですが投稿から一日経って私自身、息子や娘である英雄や七瀬がもう少し幸せになれる世界があってもいいのにと思いました。

何よりもっと彼らの精神性を追っていきたいなと。

(これには皆様から様々なお声をいただいた影響もあります。)


ですので……。

近日公開予定のほのぼの路線の恋愛モノの世界に二人も招待することにしました!

(あくまでこちらの世界とはパラレルであり、また別の学校ですが)

脇役という形にはなりますがこちらは好評があれば順次シリーズ化を予定している作品です

いつか主人公たちと一緒に成長し、身も心も信頼で結ばれた英雄や七瀬が一緒にごはんを食べる様子なども出せたらいいなと思っています。


私の次回作

「許嫁のことがよくわかりませんが、食べてる顔は大好きです!」


来週前半公開。今度は甘く優しい世界で……引き続きご声援のほどよろしくお願いいたします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 他人に謂れの無い悪意を向けるとこう言うことになるかもよ。と言う教訓話だよね。それが例え実の娘であっても。思春期だからとか反抗期だからって理由でも許せないラインはあるし、子供の頃から自身をコン…
[良い点] 良い意味で凄まじい作品だなと思いました。 まさに可愛さ余って憎さ100倍といったところでしょうか。 主人公の突き抜けた行動も相手に対して強い感情があったからだからこそと思います。 また…
[一言] 誰が売ったかを知らしめ、後悔させていたら極上のざまぁだったのに、勿体無いです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ