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私は精神的にはとても大人なので、本音は口にせず別の言葉を投げた。

そしたらそんな答えが返ってきた。

そんな毒にも薬にもならない雑談をしつつ、朝食を済ませる。

出たゴミはコンビニ店内に設置されているゴミ箱へと片付ける。

そして横断歩道を渡って、私たちは緑の多いその場所へ足を踏み入れたのだった。

そう、勇者の第二夫人の墓がある場所は聖地化されている。

というのも、他の仲間である王女、そして第三夫人もそうなのだが、この三人は【三大聖女】と呼ばれている存在だ。

最初からそうだったのか、それとも後付けされたのかはわからない。

でも、勇者に付き従った者たちは特別な生い立ちや経歴でなければならない、と考えられた可能性はある。

そのため三人とも【聖女】扱いとなっているように思う。 

さて、そもそも聖女とは何ぞや?

そんな疑問が浮かんでくる。

元の世界での【聖女】とは、『慈愛に満ちた女性』のことだったり、各宗教的に敬虔であり、神様の力を借りるだかして奇跡を起こしたり成し遂げた女性のことだったりするらしい。

あとは、社会や弱者に対して大きく貢献した、高潔な女性を指す言葉らしい。

では、この世界での【聖女】とはどんな意味を持つのだろうか。

「特に癒しの奇跡、まぁ回復や治癒魔法とか反魂魔法とか、神様に仕える巫女の中でも特に愛されている特別な存在って意味でつかわれますねぇ」

墓までの整備された小道を歩きながらルキウスさんが説明してくれた。

「回復とかならお医者さんでも使えるでしょ」

「ま、レベル、練度がとか性能が桁違いって意味です。

あくまで当時にしてみれば、だと思いますけどねぇ」

ふむふむ、なるほど。

「現代だと欠損した手足とかは錬金術の発達で元に戻せるようになりました。

でも、さすがに千年前だとそんなことできるのは、それこそ神様に愛されて常識破りの奇跡の技を持った聖女くらいにしかできなかったんだと思います。

反魂もそうですね。いわゆる死者を生き返らせることのできる奇跡だと伝わっていますよ。

まぁ、現代だとさすがに倫理的にヤベェってことで、それに関する研究とかはご法度らしいですけど」

まぁ、たしかに古来から死者を生き返らせてもろくなことにはならない、と相場は決まっている。

時折、復讐心でむりやり復活を遂げるガッツのある人もいるが、それはまぁ例外というやつだ。

木漏れ日の中を進む。

場所が場所で、平日の昼間だからかお年寄りが多い印象だ。

パワースポットだからか、幅広い年齢層の女性客も多い。

目的の場所は、この森の中心にあった。

石畳が敷かれた広場、その中央には大きな石の柱が立っている。

その柱の周囲には、侵入されないように柵が設けられていた。

柵の手前にはこの柱の説明が書かれている立て札が置かれていた。

ついでに、このパワースポットもとい観光地兼公園の略地図も描かれていた。

どうやら記念館があるらしい。

あとで寄るか。

私は、その立て札の画像を携帯で撮る。

どうやら聖女の一人であり、ルキウスさん曰く『第二夫人』の墓で間違いないようだ。

つまり、この石の柱が墓標なのだろう。

ハーフエルフなら現代に生きていても不思議ではないが、まぁ、いつ死ぬかなんて誰にもわからない。 

いや、千年前だしハイエルフならともかくハーフエルフなら死んでてもおかしくはない、のかな?

今度常連のハーフエルフのおばあさんに訊いてみよう。

私は携帯端末を片手に、墓標を柵にそってぐるりと一周してみた。

すると、真後ろに日本語が刻まれているのを発見する。

この墓標が風化していないこと、それだけを見るならおそらく町おこしのための偽物だと判断したことだろう。

でも、偽物にわざわざこんな謎々を刻むだろうか?

そう、墓標に刻まれていたのはおそらくあの暗号を解いた者へ向けたメッセージと思われるものだった。

「あれ? なんか彫ってある」

私がじぃっと凝視していた場所をルキウスさんも見て、そのことに気づいた。

「先輩、まさかアレも?」

ルキウスさんの声が弾んだ。

聖剣の場所か、次の手がかりだとおもったのだろう。

私もそう思う。

墓標にはこう刻まれていた。


【川から流れし英雄。

流れ流れてここには居らず。

去り行くが運命。

二度と帰らじ。 


この英雄の名を口にせよ。さすれば剣は次の主を見つけるだろう】


なんと漢字と平仮名の組み合わせの文章だ。

なにも知らなければこういうデザインの彫り模様だと思われるかもしれない。

さて、意味深なメッセージの最後にはどうやら、ヒントらしき文字も刻まれていた。


【N E W S】


今度は英語である。

普通に読むなら【ニュース】だろう。

ふふふ、なかなかどうしてマニアックな所をついてくる。

でも私には易しい問題だ。

最初の暗号で何度か解読表を作ったからか、余計にそう感じるのかもしれない。

「あ、先輩その顔、もしかしてもうわかっちゃったとか言います?」

いちいち人の表情見てるのか、気持ち悪いなこの後輩。

「聖剣の在処ではないけどね」

おそらく、答えをここで墓標に向かって口にすれば次のヒントか、それこそ聖剣が出てくるのかもしれない。

後者の場合、どうやって出てくるのかとても気になる。

それを説明しようとしたところで、ガヤガヤとさっきまで静かだったのに急に騒がしくなり始めた。

団体旅行客かなと思いながら、墓標の向こうを見る。

すると、もう二度と見たくは無かった顔がぞろぞろとやってきた。

そう、私を役立たず扱いして放逐した転移者を管理している組織の人と、私が追い出されることに対してむしろ賛成しまくっていた同級生たちだった。

賑やかに、楽しそうにわいわい話ながらこっちにやってくる。

「うげぇ」

私が思わず漏らした反応に、ルキウスさんが言ってくる。

「どうしたんですか先輩、そんな大ガエルが大型トラックに引き潰された時のような声出して?」

うっさい、炭酸水鼻から注ぎ込むぞ、この野郎。

とは言わず、

「私を追い出した連中がいる」

「え? あの修学旅行生達ですか?」

あーたしかに、なんか制服っぽいの着てるから、傍から見ると修学旅行で来た団体客にしか見えないよな。

「そうそう。うわぁ、嫌だなぁ」

地元のファミレスか焼肉屋で、中学時代の同級生だった陽キャと鉢合わせしたような気分だ。

私が心底嫌がってることが、ルキウスさんにも伝わったのだろう。

「先輩先輩、手、繋ぎましょう?」

いきなり彼はそう言ったかと思うと、私の返事を待つことなくいきなり恋人つなぎをしてきやがった。

そして、グイっと引っ張られる。

そのまま、ルキウスさんは私と手を繋いだままズンズンと、元同級生達のほうへ歩いていく。

うわぁ、やめてくれぇ!

顔合わせたくないんだぁ! 

そうこうしていると、向こうもこちらに気づいたようだ。

ああああああああ!

もういいや! 無視しよう無視!

私は、黙ってルキウスさんに引っ張られるまま歩く。

そして、なぜか鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている元同級生たちの横を通り過ぎる。

通り過ぎながら、ルキウスさんが爆弾を投げた。

いや、これは比喩だ。

本当に爆弾を投げたわけではない。

「でも、先輩って頭いいんですねぇ。

あの聖剣の暗号、誰よりも早く解いちゃったし。

このまま一気に手に入れましょうね!」

その発言に、元同級生と転移者を管理している、そして引率でもあるらしい大人がざわめいた。

何言っちゃってんの、この人!!??

私が動揺していると、元同級生達の中でもリーダー格である女が声を掛けてきた。

「あ、やっぱりヒカリさんなんだ。

奇遇ね、こんなところで再会するなんて」

「ええ、お久しぶりです山岡さん」

下の名前は憶えていない。

だが、一つだけ覚えていることがある。

この女だけは、私を追い出すことにとても乗り気だったのだ。

そりゃそうだろう、元の世界で私は彼女に恥をかかせたのだ。

プライドの高い彼女はそれが許せなかった。

私の指摘が正解だっただけに余計に目の敵にされてしまった。

そして、その一件がきっかけで私はクラスで爪弾きされてしまう。

この世界にきて能力が使えないものと知るや、それはそれは楽しそうに私のことを、あることないことを転移者を管理している組織の大人たちに吹聴したのだ。

子供の言うことをホイホイ信じる大人もどうかと思うが。

山岡が、あの人を見下した笑みで私にさらに何か言ってこようとするが、ルキウスさんがそれを遮った。

「あー、あなた方が噂の聖剣探索隊の人たちですか!

企業から直々に雇われたっていう」

ルキウスさんを見て、山岡含め元同級生達、それも女子たちが彼の顔に見とれる。

集団転移、クラス転移だったからなぁ。

二十人近くいるうちの半数の女子が見とれている。

ルキウスさんのイケメン効果は抜群のようだ。

「……失礼ですが、貴方は?」

山岡が正気に戻って、そう聞いてくる。

「聖剣探しに挑戦している一般人ですよ」

綺麗な笑顔でルキウスさんが返した。

「この人と一緒にね」

そして、恋人繋をした手を見せながら、そう続けた。

「いやぁ、ほんとありがとうございました。

先輩のような優秀な人を手放してくれて感謝しかないです。

その感謝の印として教えると、あの墓標の裏側に別の暗号がありましたよ」

ルキウスさんには暗号とは言ってないんだけどな。

まぁいいや。

ルキウスさんの言葉に、山岡以外の人間が全員墓標の裏側へ我先にと走り出した。

山岡は苦々しい表情で私を睨んだかと思うと、何も言わずに彼女も墓標の裏側へ行ってしまった。

「それじゃ先輩、記念館にでも行きましょうか」


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