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 「第二夫人が怪しい」

 「そうなんですか?」

 ルキウスさんが、訊いてきた。

 私は、自信満々に答えた。

 「だって、旅の最初から支えてくれた人って男の人好きでしょ?」

 旅の最初から苦楽を共にし、信頼を得ていた人物。

 比較するのが創作物になってしまうが、そういう長い時間を共に過ごし支えてきた人間が本命になりやすいし、主人公には愛されやすかったりする。

 ルキウスさんが微妙な顔をした。

 本当はもっと個人的な見解を言いたかったけれど、やめておいた。

 たとえば、カマトトぶってる人とか。

 とにかく、自分をヨイショしてくれる人とか。

 なんだかんだ面倒を見てくれて、男にとって都合よく心が広い女性とか。

 つらつらと並べ立てようかとも思ったが、やめておいた。

 それくらいの常識は私にもあるのだ。

 代わりに、

 「ほら、こういう英雄譚だと、最初に出会うヒロインがお母さんみたいな包容力があって面倒見のいい人ってこと多いでしょ。

 そうなると好かれやすいし」

 と言い直しておいた。

 しかし、である。

 これが全くの見当違いかもしれないということを念頭に置いておかなければならない。

 もしかしたら体裁を気にして正妻の王女様に聖剣を形見として渡した可能性だってあるのだから。

 というか、その王女様なりほかの二人の嫁さんなり誰でもいいから手記か日記でも残っていたらヒントになったかもしれないのに。

 まぁ、今のところそれが見つかったという話は出ていないようだから、焼失している可能性が高いだろう。

 「あぁ、たしかに。

 俺母親いないからわかりませんけど、一般的な母親のイメージってそういうもんですよね」

 ルキウスさんが、さらっとそんなことを返してきた。

 やっば、そういえばこの人両親亡くしてるんだった。

 しかし、本人は雑談の延長で言ったっぽいので、あまり気にしていないようだった。

 私も深くは聞かないことにした。

 あまり触れていい内容ではないし。

 「それじゃあ、第二夫人のお墓について調べてみましょうか」

 正確には、『墓と考えられていて、村おこし町おこしのために観光地化されて消費され続けている場所』になるが、まぁ細かいことだ。

 「今から行くと日が暮れちゃいますね」

 ルキウスさんが、第二夫人の墓の場所を調べてくれた。

 どうやら、電車でも行けるようだ。

所要時間は三時間ほど。

 ちょっとした旅行になってしまう。

 朝早く出れば日帰りで行けるようだ。

 しかし、明日も私はフルタイムでバイトに入っているので、さすがに今日行って明日バイトに出るというのはごめんこうむりたい。

 「んじゃ、来週のお店の定休日か私が休みの日に行ってくるかぁ」

 言いつつ、私は手帳をカバンから引っ張り出して予定を確認した。

 おや、これは運がいい。

 なんと、確認したところ私は定休日とその翌日の二日間が休みになっていたのだ。

 二連休である。

 バイトのおかげで少しお金も貯まってるし、一泊してくるのもありかもしれない。

 ホテルが取れればいいなぁ。

 ウェブ予約できるかな?

 予定を確認して、そこまで一気に脳内で予定を組み立てる。

 「一人旅って初めてだけど楽しみだ」

 なかなか楽しそうだ。

 そんな私の呟きに、ルキウスさんが疑問符を浮かべる。

 「え、先輩一人で行く気ですか?」

 「うん、そのつもりだけど。

 ついでに、ホテル予約して泊ってくるよ。

 ほら、せっかくの二連休だし。お金もあるし」

 ルキウスさんが、微妙な表情をした。

 そして、続ける。

 「いやぁ、それ無理だと思いますよ」

 「なにが?」

 「先輩ってたしか十五歳でしたよね?」

 「うん」

 「未成年じゃないですか」

 「あ」

 言われて気づいた。

 そういやそうだった。

 一応もろもろの配慮で、リオさんが後見人というか書類上の保護者になってるんだった。

 ちなみに今いる国も含めて未成年のそういった外泊とかは十八歳以上の者の同行者がいないと認められていない。

 まぁ、友人宅に泊まるとかそういった例外はあるけれど、未成年が一人でホテルに泊まるというのは原則禁止されている。

 見つかれば、通報されて補導される。

 ちなみにこの国では、二十歳から成人となる。

 ホテルなどの利用は十八歳から可能だ。

 ムムム、どうするべきか。

 リオさんに一緒に行ってくれないかお願いしてみようかな。

 でもなぁ、普段から迷惑かけっぱなしだし。

 ちょっと気が引ける。

 それに、もしリオさんに予定が入っていたら、それはそれで気まずい。

 「仕方ない、泊りは無しで日帰りで行ってくるよ」

 「いや、俺は?」

 「ルキウスさんは大学があるじゃん。

 大学って、単位だかコマだかを落とすと大変って聞いたことありますよ」

 というのは建前だ。

 誰かと出かけるというのは気を遣うものだ。

 ましてや異性であるルキウスさんと回るのは気疲れしそうで嫌だ。

 「え~、でも一人で観光地行くの寂しくないですか?」

 よし、お前は今全世界の一人旅が好きな人たちを敵に回したぞ。

 などとは口が裂けても言えないので、

 「私はあんまりその辺気にしないから、平気」

 「いや、でも昼間の日帰り旅行とは言っても女の子一人歩きは危ないですよ。

 先輩って他の転移者みたいに戦闘系の能力ないんでしょ?

 だから役立たず扱いされたって自分で言ってたじゃないですか」

 一見平和に見えるこの世界だが、元の世界でも国によっては銃社会の国があったように、こちらでは能力者社会というか、場所にもよるが魔法とかを使用した犯罪やトラブルが多いのだ。

 護身用としてそれこそ一般人が魔法銃を買うことができるくらいだし、それを枕元に忍ばせている人もザラだ。

 私の場合、まず高すぎて魔法銃なんて購入できないし、出来たとしても登録手続きが面倒という側面がある。

 ちなみに魔法銃だが、値段はピンキリではある。

 でも普通の高校生の感覚からすれば、元の世界での換算で最低五万円から、というのは手が出しにくい代物だ。

 バイト代を貯めて買った携帯端末がそれより少し低い三万くらいだった。

 これだって高いと感じたのだ。

 いや、たしかに今回の日帰り旅行用の金を使えば魔法銃は買える。

 でも、逆を言えば買ってしまえば旅行に行けないのだ。

 確かに住み込みだし。

 家賃はリオさんの厚意で、ほとんどただみたいなものだ。

 でも、他の食費とか衣服代とかその他もろもろでお金がかかっているのだ。

 ほんと息をするだけでお金がかかっている気がしてならない。

 というより、生きている限りお金がかかるのだから、もうほんと勘弁してほしい。

 「まぁ、確かにそうなんだけどさ。

 でも、さすがに人の多い観光地でそんな危ない目にあったりしないでしょ」

 「わからないですよ?

 変な人に声かけられてついていったら、性的暴行受けたなんて話も聞きますし。

 それにそもそも、俺が先輩に暗号の解読頼んだんですから、その辺は責任持たないと年上として、立つ瀬がないというか」

 「そういうのは、オーダーミスと、会計ミスがゼロになってから行ってほしいかなぁ。

 この前レジ締めしたら、クレジット払いと電子マネー払いの登録金額が逆になってたから」

 「あ、はい、すみません」

 「その前には、町内会発行の商品券とクレジット会社が発行してるギフトカードの処理が間違ってたし」

 「ほんと、すみません」

 「あとは、あ、そうだ消毒用アルコールのストック場所が別のとこになってたよ。

ちゃんと備品類のとこには名前のシール貼ってあるんだからちょちょらにしないんだよ。

ただやればいい、じゃ駄目なんだからね」 

「はい、はい、すんません」

「オーダーミスも、もう入って二か月経つんだから、そろそろ聞き間違いをなくしていくように自分なりに注意しなきゃ」

休みの日だっていうのに、なんで私は仕事の注意をこんな場所でしなきゃならないんだろうか。

「……先輩って、将来立派なお局になりそうですよね」

一言余計だ、この野郎。

さて、結局のところ次の店の定休日に、私はルキウスさんと二人で日帰りで勇者の嫁さんの一人である第二夫人の墓へ行くことにしたのだった。



そして一週間後。

「いやぁ、結構早く着きましたね」 

私は予定通り、ルキウスさんと目的の場所に降り立った。

電車に乗り、観光地の最寄り駅まで揺られ、そこから直通の定期バスが出ていたのでそれに乗って、やってきたわけだが。

「まぁ、始発で来たからねぇ。

あ、ちょうどいいやあそこにコンビニあるから、ごはん買って食べよう」

喫茶店もあるが、高い。

コンビニでおにぎりでも買えば安く済む。

手作り弁当?

めんどくさいので現地調達だ。

そんな感じで目的の場所である観光地から道路を挟んで目の前にあるコンビニで朝食を買って、その駐車場の片隅に腰を下ろして食べ始める。

田舎ではよく見る光景だ。

そうそう、この世界、コンビニもそうだが、なんとおにぎりが存在しているのだ。

転移者の先輩方が頑張ったおかげだろう。

自販機もある。

盗難防止のために特殊な防犯魔法が掛けられている。

「先輩って、パンよりライス派ですよね」

「まぁ、主食が米だったし。

米どころ出身だし。

でも、パンも好きだよ。

とくにリオさんが焼くあんぱんは好きだなぁ」 

「あぁ、あのただただ甘いだけのパンですか」

コーラ頭からぶっかけるぞこの野郎。

「甘いの苦手なの?」

「どちらかというと、総菜系のパンが好きなんです」


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