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それでも感心されるのは悪くない気分だ。

しかし、そろそろ種明かしでもしておこうか。

たしかに予備知識はあった。

でもそれが正確なものかどうかは判断できかねた。

自信はあった。

でも、心のどかで覚え違いをしていたら嫌だなぁとも考えていた。

「実は、確認作業でちょっとズルしたんです」

私は悪戯の種明かしをするようにそう切り出した。

その言葉に、ルキウスさんが反応する。

「先輩、もしかしてそれって噂に聞く転移者の特殊能力ってやつですか、先輩?」

本当はそんなことより答えを知りたいだろうに、ルキウスさんが言ってきた。

「そういうこと」

転移者特典と呼称されている能力の一つだ。

創作物なんかだと、ギフトとかユニークスキルとか言われているアレだ。

「【インスペクト】。私がこの暗号を解くのに使った特殊能力です」

ちなみに、正確には【検索・閲覧】と書いて【インスペクト】と読む。

ルビでそう振られているのだ。

能力などの確認は親の顔より見たことのあるステータス画面で確認できる。

ステータス画面というのは、ステータスって言うと出てくる薄い立体画面のことだ。

SF映画とかでよく見るやつだ。

あと個人的には、ギフトやらスキルやら特殊能力呼びではなく、【異能力】呼びが好きだ。

この能力は、元の世界のインターネットを使用できる能力だ。

日本サーバーのみだが、今のところ不都合はない。

動画サイトも見れるので、なかなか快適というか便利な能力だったりする。

通信料が発生していないというのがまたいい。

今のところ請求とか来てないし。

「で、暗号の答えですけど」

能力についての説明は正直あまりしたくないので、そろそろ答えを言ってしまおう。

なんで役立たず扱いされたかまで話してしまいそうだし。

ルキウスさんが少し緊張したように私を見た。

常連さんも、わくわくと目を輝かせている。

私は、暗号を解き、浮かび上がった言葉を伝えた。

「【草葉の陰】でした」

私の答えに、ルキウスさんと常連さんが首を傾げる。

あ、そっか、最初から意味のほうを言えばよかった。

私が説明のために口を開こうとしたら、意外なところから説明が飛んできた。

「墓の下、なんて物騒な答えだねぇ。

でもおしゃべりもほどほどにして、仕事してね」

この店の店長であるリオさんだった。

「へ?」

私は自分でも間抜けだなと思う声を出した。

訊ねてみる。

「よく知ってますね、草葉の陰の意味。

普段使いする言葉でもないですよね?」

私の問いに、リオさんが懐かしそうに眼を細めて教えてくれた。

「んー、マスター、あ、先代の店長がね教えてくれたんだ。

マスターはヒカリちゃんと同じ異世界から来た人で、そういうの詳しかったんだよ」

へぇ、そんな人がいるのか。

でもそうだよな、考えてみれば転移者が普通に暮らしている世界なんだし、そういうこともあるか。

そしてリオさんは珍しくこういう雑学を覚えている人だったようだ。

常連さんは、リオさんの登場に少しばつが悪い表情になる。

リオさんはリオさんで、その常連さんへニコニコと笑顔を浮かべながら声を掛けた。

「コーヒー一杯じゃ、お腹すきませんか?

サンドイッチがおすすめですよ?」

ついでに圧もかけている。

ニコニコ、ニコニコ、にっこりとまるで女神と見間違うほどの美しい笑みをリオさんは貼り付けた。

圧が掛かっていなければ、同性である私ですら恋をしてしまいそうなほど綺麗な笑みだ。

圧を掛けられているの、私じゃないけど。

常連さんが慌ててコーヒーのお代わりと、この店で一番安いがそこそこ腹にたまるフライドポテトを注文した。

リオさんは注文を受けた上で、こう提案した。

「サンドイッチもおすすめですが。いかがでしょうか??」

ただでさえ長居してんだ、売り上げに貢献しやがれと副音声が聞こえた気がした。

そこからは、少しずつ来客が増えていき暗号どころではなくなった。

なので、私と後輩のルキウスさんがそのことを改めて話したのは、閉店後。

いつも通り出された、店長であるリオさんが作ってくれたリオさんの賄いに舌鼓を打っていた時だった。

 「暗号の答えが【草葉の陰】で、それが【墓の下】という意味はわかりました。

 じゃあ、その墓ってどこなんです?」

 ルキウスさんの問いに、私は答えた。

 もちろん、口の中の食べ物は飲み込んでから、答えた。

 「さぁ?」

 「『さぁ?』ってそりゃないでしょ先輩」

 私達の会話を、リオさんは手酌でワインを飲みながら楽しそうに見ている。

 「だってそれ以上のメッセージは無かったし。

 墓の下ってメッセージが出てきたのなら、それこそ勇者のお墓でも暴けばお宝、聖剣が出てくるってことなんじゃないの?」

 掘ったら出てくる、言葉にすると芋掘りみたいだ。

 「そうは言っても、勇者の墓なんてどこにあるかわからないですよ」

 「ま、たしかに勇者含めた伝説の偉人たちのお墓なんてあちこちあるしねぇ」

 元の世界でもそうだったように、偉人でもある勇者のお墓は複数存在しているのだ。

 源義経の墓はたしか二つだったし、真田幸村の墓も複数あったはずだ。

 海外なら、アーサー王の墓も複数だった気がする。

 イエス・キリストなんて青森にその墓とされる場所があるくらいあちこちに墓がある。

 それと同じで、聖剣の持ち主だった勇者の墓も真偽はともかく、本当にあちこちに墓があるのだ。

 あと、勇者も中世時代にはそれこそほんっとーにたくさんいたらしい。

 それだけ転移者が多かったということなのだろう。

 その中でも一、二位を争うほど有名なのが今回暗号を残したであろう勇者だ。

 どれくらい有名なのかというと、元の世界で海外の人が織田信長を知ってるくらいの知名度だ。

 ほかの大陸でも知らない人はいないというほど、有名である。

 某有名RPGの勇者並みに海を渡り、あちこち足を運んだらしいと伝えられている。

 まぁ、ほかの勇者、もとい転移者もこれに続いたらしいが。

 彼らの旅の目的はたった一つだった。

 魔王と魔族の討伐である。

 というか、これ暇つぶしに資料とか記録とか、当時のこっちの世界の人が遺したそれらを読んだけど、民族浄化に近かった。

 魔族側の資料もほとんど焼かれるかしたみたいで残ってないから確かなことは言えないけど、なんていうか全部人間や亜人種側からみたものしかなかった。

 読んだ感想としては、これいろいろ都合よく改竄や改変されてるんだろうなぁ、だった。

 なぜそう思うかと言われれば、それは私がヲタクだからとしかいえない。

 勝者にとって都合よく歴史が作られるというのは、いろんな作品に触れてきたヲタクからすれば常識だからだ。

 あと私の場合、自覚はなかったけれど、それも一般人からしたらわりとディープなヲタクになるようだ。

 なにをもってしてディープとするかは意見がわかれるだろうし、私自信は広く浅く興味を持ったことに対して調べるのが好きなだけだ。

 まぁ、だからこそ元の世界のインターネット情報を検索閲覧できる能力が備わったのだと思う。

 私と一緒に転移した人たちには、ほかのチートな特殊能力が備わってたみたいだけど。

 あ、考えだしたらムカつくことまで思い出してきた。

 私は賄いの、カツとじ丼特盛をガツガツとかきこんだ。

 ムカついた時はこうして美味しいものを味わうに限る。

 私がストレス解消のためにカツとじ丼を貪っている横で、シリウスさんが携帯端末をいじくって、件の勇者の墓を検索していた。

 検索結果としては、すべて観光地になっているとわかっただけだった。

 なんか突き刺さっている剣を引っこ抜くっていうイベントというか、アトラクションもあるらしい。

 こういうのは世界を問わず好まれているようだ。

 あと、どこでも村おこしや町おこしに必死だということもわかった。

 まぁ、うんお金は欲しいよね、すんげぇわかる。

 さて、検索結果を見てルキウスさんがとった行動は、

 「店長、店長はどこのお墓に聖剣が埋まってると思います?」

 大人に頼る、だった。

 頼られたリオさんはといえば、ルキウスさんから携帯端末を受け取って、しばらく吟味した後、こうのたまった。

 「うーん、聖剣とかはよくわからないけど、この前テレビでやってた旅番組で、ここの売店で売られてるみたらし団子が絶品って紹介されてたから、ここに行ってみれば?」

 うん、観光地で美味しいものを食べるのも大事ですよね!

 そんな暗号解読をした翌日のことだ。

 何気なくこちらの世界のSNSを、貯めたバイト代で購入した携帯端末で読んでいた時だ。

 そのニュースは偶然にも私の目に飛び込んできた。

 暗号が解読されたらしいという噂が流れていた。


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