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俺の妹が幼女でかわいすぎて神。マジ神。幼女神。妹幼女神。  作者: 坂東太郎
『第一章 妹は毎日かわいすぎて神』
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第三話 さみしさをこらえる妹もかわいい


「おはようございまーす」


「おはよーございますっ!」


「はい、おはようございます」


 ちょっと寄り道したものの、保育園には予定時間通りに到着した。

 保育園の敷地では、見慣れない先生が迎えてくれた。


「これ、ヒメ……年長さんの高原姫子の荷物です」


「はい、たしかに受け取りました。ヒメちゃんのお兄さんのミコトさんですね」


「あれぇ? みほせんせーは?」


「みほ先生は産休で、今日から私が担当することになったの。よろしくね、ヒメちゃん」


「はーい! よろしくおねがいしますっ! えっと」


「ヒメちゃんはお利口さんだなー。私は『ののか』よ。言えるかな?」


「ののの? せんせー!」


「どうしよう『の』が一個多くなっちゃう妹がかわいすぎる」


「の、の、か、だよ」


「ののかせんせー! ヒメはひめこです!」


「はい、よく言えたね、すごいぞひめこちゃん」


「えへへー。ヒメはね、ヒメちゃんってよんでいいよ!」


「うう……人見知りしないですごいぞヒメ……お兄ちゃんはうれしくてうれしくて……」


 まだ若い先生だけど、ヒメはすぐ懐いた。

 頭を撫でられて得意げに笑う妹がかわいい。世界がちょっとにじんできた。


「よろしくお願いします、ののか先生。あ、これ、連絡ノートです」


「こちらこそお願いしますミコトさん。……え? 連絡ノート? この、分厚いのが……?」


 ののか先生が、ぱんぱんに膨らんだノートを手に戸惑ってる。

 なんでだろ、妹の連絡事項なんて書くこといっぱいあるのに。連絡ノートはもっと書くところを増やした方がいいと思う。追加で紙を貼るにしても限界があって困る。


「ふふ、高原さんのノートはそれでいいんですよ」


「あ、園長先生」


「えんちょーせんせー! おはよーございますっ!」


「おひさしぶりです、園長先生」


「なかなかご挨拶できなくてごめんなさいね、ミコトさん。ヒメちゃんの成長日記は詳しく書いてあって、いつも楽しみにしているんですよ」


「はあ、恥ずかしながら時間が足りなくて、けっこう省略してるんですけど……」


「これで!? お兄さんの愛がすごいね、ヒメちゃん……」


「えへへー」


 初日のののか先生のことを考えてか、めずらしく園長先生が迎え入れに出てきた。

 ヒメが()()()5()()だった頃からお世話になってて、もう50代ぐらいだと思うんだけどいつもにこやかで年齢不詳だ。

 疲れてる顔とか、怒った顔を見たことがない。

 ときどき、困り顔で微笑むって器用な表情を見たことあるけど。


「じゃあ、俺はそろそろ行きますね。ウチの姫をよろしくお願いします」


「はい、いってらっしゃい、ミコトさん」


「あれ? いま『ヒメ』ちゃんの発音がおかしかったような……気のせいかな……」


「ほらヒメちゃん、ミコトさんにご挨拶しましょう」


「うん……」


 手を繋いだ園長先生に促されても、ヒメはうつむいている。

 小さな手にきゅっと力を入れて、体を揺らして何度も足を踏み替えて。

 ちょっと口をとがらせて、俺を見上げてくる。


「いってらっしゃい、お兄ちゃん」


 目がうるんでる。

 涙をこらえて、ワガママ言わずに、俺を見送ろうとしてる。


 くっ、高校なんて行きたくない!


「くっ、高校なんて行きたくない!」


「ほらほらミコトさん、そんなことじゃヒメちゃんに尊敬されませんよ」


「あの、いまなんかおかしくありませんでしたか? 二回聞こえたような……それぐらい気持ちが入ってたのかな……」


「お兄ちゃん? ヒメ、だいじょうぶだよ? だからちゃんとおむかえきてね?」


「くうっ! 妹が健気かわいい!」


 がばっと抱きしめる。

 しゃがんで制服のズボンが汚れても気にしない。

 この腕の温もりを二度と忘れないようにぎゅーっとする。

 ヒメが、ふわふわで茶色っぽい髪をこしこし押し付けてくる。


「じゃあ、行ってくるな、ヒメ。またあとで」


「うん……いってらっしゃい」


 天上の鈴の音のような声で、ヒメが耳元でささやいてくれた。

 少し体が離れて。


 頬に、湿った感触が、当たる。


「まあ、ヒメちゃんはおませさんなんだね」


「あのね、ヒメね、お兄ちゃんがだいすきなの!」


「これは……ミコトさんは動けないでしょうね。私たちが園に戻りましょうか」


「はい。さっ、行こう、ヒメちゃん。ほらお兄さんに手を振ってあげて」


「お兄ちゃん、ばいばい! またね!」


「ヒメちゃんは偉いわねえ」


 なんだか話しながら、遠ざかっていくヒメを見送る。

 ときどきこっちを向いてちょっとよろけそうになっても、俺に手を振ってくれた。

 反射的に俺も手を振る。


 ずっと見てると、保育園の中に入ってヒメは見えなくなった。


 しばらくぼーっとして、送りに来たほかのお母さんたちに挨拶されて、ようやく我に返る。

 のそのそ立ち上がって保育園を見る。


 ヒメの姿はない。


 俺はため息をはいて、保育園に背を向けた。

 重い足を踏み出す。

 肩が落ちてるのか、ヒメとお揃いでサイズ違いのリュックの肩紐がずるずる下がる。


「はあ……」


 毎朝のことだけど、毎朝ヒメとお別れするのがつらすぎる。

 やわらかさもあったかさもなくて、独りはなんだかすーすーする。


「はあ……けど、がんばらないとなあ。ヒメだって一人で戦ってるんだし。俺はお兄ちゃんなんだし」


 気合いを入れて、姿勢を正して、歩き出す。


 妹の、「自慢のお兄ちゃん」になるために。

 勉強もできてなんでも知ってて尊敬されるお兄ちゃんになるために。



 …………くっ、高校なんて行きたくない!



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