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第9話 試験開始、実技試験はテンプレの出番でしょう。

ほんの少し長めです。

 入った部屋は、いくつかの長机に椅子が並んでいた。

 まるで小さめの個人塾のような感じだ。


「よし、それでは始めるか。どこでもいいから座れ。」


 と、ギルマスは促したが、ここは一番後ろの端に座りたくなる日本人的な衝動を抑え、印象の良さそうな一番前の真ん中に座る。


「まずは算術だ。獲物を売るとき、買い物をする時、その他でも算術を知っているかどうかで大分変わってくるぞ。釣りを誤魔化されたりするからな。」


 算術・・・つまり数学か。

 こういう試験で出てくるような数学は、小学生レベルの簡単な問題が大量にあり、時間内にどれだけできるかを見るものか、少数の難解な問題があるかのどっちかだと思う。


「毎回この算術がクリアできずに、冒険者を諦める輩がいるからな。しっかりやれよ。制限時間は一刻だ。」


 一刻・・・30分か。ていうかこれ、めんどくさいな。


「30分で半分以上出来れば上出来だ。よし、始めろ。」


 あれ?一刻って言ってたのに30分になったぞ?もしかして、言語翻訳が時間の単位も翻訳し直してくれるようになったのか?確かに一刻、一時でも翻訳されてるんだろうけど、パッと意味が浮かばないもんね。

 いかんいかん。今は試験だ。余計なことを考えてしまった。

 慌てて俺は問題用紙をめくる。この辺は日本の学校式かよ・・・。


「!?」


 こ、これは!!


『1個大銅貨1枚のアプールの実を7個買うとき、銀貨1枚を支払いました。お釣りはいくらになりますか。』


 いやいやいや、だから金の単位がわかんねーんだって。あれ?

 おいおいおい、問題用紙の隅に、貨幣の表が載ってるじゃねーか!

 表を見る限り、鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨とあり、それぞれ10枚で上の貨幣1枚になるようだ。

 アプールの実というのが何か分からないが、名前からしてリンゴのようなものと思っておこう。それが大銅貨1枚、100円くらいか?じゃあ、金貨って・・・10万円!?大金貨なんか・・・100万円硬貨って怖いなぁ・・・。

 これで金の数え方がわかった。なんて親切な試験なんだ。


 次の問題


『4人のパーティで金貨2枚の依頼を達成しました。1人あたりの報酬はいくらになりますか。』


 次の問題


『4本生えた牙がそれぞれ銀貨2枚、毛皮が銀貨5枚の魔物を買い取りに出しました。買取の総額はいくらになりますか。』


 次の・・・・問題が無い!!


 なんてことだ。

 まさかの簡単な問題が少数パターン!え?これ、1問10分??クリアできないやつが毎回いんの!?

 とりあえず俺は、試験の内容が大したこと無いのに安心し、ささっと答えを書いて手を挙げた。


「ギルドマスター、終わりました。」


 ボーっと窓の外を見ていたギルマスは、俺に声を掛けられビクッとした。


「なんだと?まだ始まったばかりだぞ。それなのに終わっただと?見せてみろ。」


 驚いたようなギルマスに、俺は答案用紙を渡す。


「・・・・これは。全問正解だ。やるな。」


 こんな問題に30分もかかるのが普通なのかと思ったが、ギルマスは普通に答えを出していた。

 人々の学力の差が激しいのかな。

 しかし、こんな問題が試験だなんて、こりゃ楽勝で合格だな!・・・・って思っていた時期が俺にもありました。


「よし次は歴史の試験だ。」

「歴史!?」


 そして、地理やモンスターに関する試験などが続き、俺は見事に燃え尽きたのだった。


「うーん・・・算術の時は、これは期待できるやつが来たと思ったんだが。他の試験が軒並み0点というのはなんなんだ?」


 だってそんなの知らねーもん!!


「ま、まぁ、取り敢えず次は実技試験だ。」


 良かった。筆記の成績で次に進めないなんて事はないようだ。

 とにかくギルド登録試験で、ギルマスと実技!なんというテンプレ展開だろうか。

 俺はギルマスに連れられて、ギルドの裏にある広場に入った。

 うむうむ、ギルドの鍛練場といったところかな?


「武器は自分のを使っていぞ。俺はこれを使う。」


 そう言ってギルマスが手にしたのは木剣だった。

 よく見ると広場の端には木でできた槍や斧なんかも置いてある。

 あ、なんかぞろぞろと広場に入ってきた。

 きっとギルマス相手の実技試験が珍しく、暇な冒険者が見学しに来たんだろう。うん、テンプレテンプレ。


「遠慮せずかかってこい。」


 そう言うギルマスは、自然体で立っている。なんの構えもしていないが、きっと隙なんか無いんだろうな。俺には分からないけど。


「ギルマスの方こそどうぞ。遠慮はいらないですよ?」

「ほう?言うじゃないか。」


 ギルマスが不適に笑い、木剣を構える。

 そして一気に駆け出した。



 ---


 ギルマスが地面に倒れている。


「お、おい。なんだあいつ?」

「嘘だろ?ギルマスがやられたのか?」


 野次馬の冒険者から驚きの声が聞こえる。

 ギルド登録試験でギルマスを圧倒する新人冒険者。完璧なテンプレが出来上がった。


 ・・・という夢を見たんだ。


 ---



 俺が目を覚ますとそこは見覚えの無い部屋だった。その部屋で俺はベッドに寝かされている。


「知らない天井だ・・・。」


 お決まりの台詞をボソッと呟くと、すぐ近くで声がした。


「あ、良かった。気がついたんですね。」


 俺はビクッとして声がした方を見ると、そこにはギルドの受付嬢がいた。

 受付嬢は俺が目を覚ましたのを確認すると、ドアを開けて部屋を出ていった。

 暫くしてギルドマスターが入ってくる。


「おう、目覚めたか。いやぁ、ビックリしたぞ。威勢のいい事を言っていたのに、棒立ちのまま一撃で気を失うんだからな。」


 そう言って豪快に笑うギルドマスター。

 そうだ、思い出した。

 駆け出したギルマスのスピードは、ブラッドウルフなんかより断然速く、ギルマスがいつ攻撃したのかわからないまま意識を失ったんだった。

 くそぅ・・・テンプレに浮かれすぎて自分の平凡な素早さと、絶望的な防御力を失念していた・・・。大失敗だ。

 防御力ゼロでも死ななかったのは、ギルマスが大分手加減してくれたんだろう。

 俺のせいで『ギルマス、登録試験で受験者を撲殺事件』とかにならなくて良かった。いい人そうだもんな、ギルマス。

 しかし、実技試験を棒立ちで終えてしまったと言うことは・・・。


「あのー、それで試験の結果は?」


 恐る恐るギルマスに聞いてみる。


「うむ。不合格だ。商人とかの方が向いているんじゃないか?」


 やっぱりかー!

 そりゃそうだ。算術以外は全て最低だったんだから。

 あ、そうだ。

 俺は思い出した物を懐から出して、ギルマスに見せる。


「こんなのがあるんですけど。」

「ん?」


 ギルマスが俺から受け取った紙に目を通す。


「サリオスのやつが盗賊から助けられた?瀕死のリンディを回復魔法で治した?なんだこれは。本当のことか?」


 ギルマスが疑いの目を向けてくる。


「え?あの、ギルマスは二人を知っているんですか?」

「あの二人は俺が冒険者だった頃の後輩だな。色々戦い方なんか指導してやったりもしたもんだ。しかしこの内容は・・・。」


 領主直属の騎士が後輩で弟子みたいなもんなのか。やっぱりギルドマスターってただ者じゃないんだな。


「あのー・・・。」


 手紙を見つめたまま何か考え出したギルマス。まさかこの手紙を見せても不合格なんて事にならないだろうな?


「よし、付いて来い。もう立てるな?」

「え?はい。」


 何か考え込んでいたギルマスは考えが纏まったようで、俺をどこかへ連れていくようだ。このままだと不合格確定だし、ついていくしかないな。

 ギルマスについて部屋を出ると、ギルマスはすぐに隣の部屋の前で立ち止まった。


「入れ。」


 ギルマスがドアを開け中に入ったので、俺も続いて入った。

 中はさっきまで俺がいた部屋と同じような造りだった。その部屋のベッドに一人の女性がいた。右腕と足に包帯を巻いている。


「ギルマス、どうしたんですか?そちらは?」


 ベッドの女性はこちらに気づき、俺に目線をやると誰何してきた。


「まぁ、あんまり期待させるわけにもいかんから今は気にするな。それよりユートだったな。」

「はい、なんですか?」

「彼女はレイア。実は試験官は出払っていると言ったが、ありゃ嘘だ。いや、嘘という訳ではないんだが、一人は今目の前にいるこのレイアだ。」

「はぁ。」

「レイアは冒険者ランクの昇格試験に同行していたんだが、その途中でそこに現れる筈の無い強力な魔物に出会ってな。何とか撃退は出来たんだが、試験中だった冒険者二人を失った。レイアもこの通り、腕と足をやられて仕事もできない状態だ。」

「すいません・・・。」

「謝るな、想定外の事態だった。それでユート、治せるか?」

「「は?」」


 俺とレイアが揃ってギルマスを見た。


「えっと、どういうことです?ここは冒険者ギルドなんですし、高位のヒーラーとかいるんじゃないんですか?」

「ギルマス、何言ってるんです?見たところまだ若いようですし、この怪我を治すなんて。」


 俺とレイアはギルマスに質問する。


「まぁ、取り敢えずレイアは黙っていろ。確かにヒーラーはいるが、回復魔法というのは傷を塞いだり、毒を除去したりするもんだ。レイアは傷は大分塞がっているんだが筋をやられていてな。」

「そうなんですか?」


 じゃ、あの包帯はなんなんだと思う。


「で、だ。リンディの火傷を綺麗に治したんだろ?そんな回復魔法は聞いたことがない。いや、神国の高位の神官なら可能かもしれないが、そんなのを呼ぶ金なんか無い。どうだ?やれるか?」


 なんと、どうやら俺の魔法は大分特殊なようだ。


「えーと、やってみないことには・・・。」


 そう言って俺はレイアの腕と足にそれぞれ手を向ける。


「エクストラヒール。」


 適当に凄そうな回復魔法名を言ってみる。

 すると俺の手から、神々しい金色の光の粒子がレイアの腕と足に降り注いだ。それは暫くすると、全てレイアの体に吸収されるように消えていった。


「・・・え?」


 暫くの間、ボケッとしていたレイアだったが、思い出したように右腕を動かしてみた。動く。次はベッドから降りる。立てる。歩いたり跳び跳ねたりしてみる。全てできた。


「治ってます!まさか、こんな・・・。」


 レイアは驚きの表情で俺とギルマスを交互に見た。


「凄いな、これは。よし、文句なしの合格だ。」

「え?」

「冒険者登録試験合格だ。ヒーラー・ユートとして俺の責任をもって登録しておいてやる。」


 いやいやいや!ヒーラーは可愛い女の子を仲間にする予定なんだって!

 どうしてこうなったー!?

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