第8話 領都到着、いざ憧れの冒険者ギルド。
馬車の中も貴族らしく、なかなか豪華だった。
こういう世界の馬車は、お尻が痛くなるというのが一般的だが、この馬車の座席にはふかふかのクッションがひいてある。
「改めてありがとうございました。リンディは私が外出するときに必ず付いてくれる護衛で、仲良くさせてもらっていたもので。貴方がいらっしゃらなかったらと思うと・・・。」
「いえ、たまたまですよ。」
しかしこの世界の貴族というのは、こんなにもフレンドリーなのか。それともこの貴族が特別なのか。
「それにしても領都の近くにあれほどの規模の盗賊がいるなんて・・・。」
そう言ってチラリと馬車の後方に目をやる。
馬車の中からは見えないが、そこには最低限の治療を施し、首に縄をかけられて騎馬に引かれる生き残りの盗賊がいた。
手首はきつく縛られているし、抵抗したら騎馬の力で首が絞まるだけなので、今のところ大人しく歩いている。
「お嬢様。やはり・・・。」
「ええ、まさかこんなところまで手を出してくるなんて。帰ったらお父様とお姉様にご報告しなければ。」
どうやらリンリルと執事には心当たりがあるようだ。
領主に報告されるなら問題はないだろう。俺は余計な口を出さずに大人しく座っていた。
「それで、冒険者になるためにトリアに行かれるのですか?」
「そうなんですよ。仕事を見つけないと生活できませんし、それなりに力は有るつもりなんで。」
「それなりだなんて。戦いぶりを見ていても、かなり腕のある冒険者だと思っていました。」
「いやいや、自分なんて全然ですよー。」
貴族との会話というものが分からず、終始日本人必殺の謙遜と愛想笑いで過ごした。
「見えてきましたね。」
窓の外を見たリンリルが言う。
俺も窓の外を見ると、そこには壁に囲われた街が見えてきた。全体的に石造りで、見た目もヨーロッパの観光地みたいで綺麗だ。
「綺麗な街ですね。」
「ありがとうございます。」
門の前には入門待ちの馬車の列が見える。
と言っても数は数台ほどで、それほど時間がかかりそうな感じでもない。
馬車が列を作っている隣では、徒歩で来た人が門を潜っていく。冒険者だろうか。
その大門の横に、少し小さめの門も見える。
俺たちの乗った馬車は大門の列の最後尾に付いた。
「あれ?ここに並ぶんですか?てっきり隣の門の方かと。」
「そうですね。一応隣が貴族用の門にはなっていますが、私達はいつもここからです。市勢の様子も分かりますしね。もちろん隣の門も来客等があったときに使いますよ。」
「そうなんですね。」
なんかいい貴族っぽいんだが、列に並んでる人にとっては、一台でも並んでる数が少ない方がいいんじゃないだろうか。
そんなことを思っている内に自分達の番になる。
俺達の馬車は、御者が門番に軽く会釈しただけで素通りした。
なるほど。これなら並んでいても大した時間じゃないな。
「素通りなんですね?」
「一応、領主の馬車ですからね。一般の馬車は積み荷の確認などありますよ。」
「そういえば、今回は馬車に乗せてもらいましたが、街に入るときに通行料とかあるんですか?」
「そういう街もありますが、うちは特に通行料は取っていませんね。」
なんといういい街だ。
冒険者登録したら、ぜひここを拠点に暫く活動しよう。
リンリルと話していると、馬車は広場のような場所で止まった。
「あそこに見える大きな建物が冒険者ギルドですよ。」
リンリルが指差す先には、広場に面した場所に大きな建物が見える。
「あ、すいません。宿屋なんかもありますか?」
「この広場にもいくつかありますよ。もう少し門の近くの方ですと、お値段も格安な宿もありますし、中心部の方には少し高級な宿もあります。」
「ありがとうございます。」
「いえ、こんなお礼しかできず・・・。あ、そうだ。もしよろしければ後で領主邸までお越し下さい。お父様も歓迎すると思います。」
「ほんとに大したことはしてないんですけど。考えておきます。それでは。」
「楽しみに待っています。冒険者試験、頑張って下さい。」
リンリルは可愛く手を振った。
護衛の騎士達も軽く手を挙げ見送ってくれる。
そして、馬車は街の中心へと向かっていった。
うーん、領主邸か。
貴族の館に行くなんて緊張するなぁ。考えておきますなんていう、日本式のお断りは通じていなかったみたいだし。
お礼はパンツでいいのに。なんて言ったら牢屋にでも放り込まれそうだな・・・。
「よし、取り敢えず宿屋だ。」
領主邸の事は取り敢えず置いておいて、俺は今夜の寝床を確保するため、一番近くの宿屋へ向かった。
「すいませーん。部屋空いてますか?」
「いらっしゃいませ。一泊銀貨6枚になります。」
そして俺は固まった。
金、持って無いじゃん!
あと金の単位がわからん!銀貨6枚って高いのか、安いのか。
「あ、はは。また来ます。」
そう言って俺はそそくさと宿屋を出るのであった。
「あぶねーあぶねー。やっぱりまず仕事だな・・・。今日の宿どうしよ。」
とりあえず仕事をするために冒険者登録をと、俺は気を取り直して冒険者ギルドへ向かうのであった。
ギィッと音を立て、扉を開く。
そこはまさにテンプレ。受け付けのようなカウンターが並び、壁には依頼と思われる紙が貼られ、そして端には酒場のような場所が併設されている。
扉をくぐった俺は、これまたテンプレのように一斉に視線を集め、そして悪人面をした冒険者に絡まれ・・・なかった。
そうか。格好だけは強そうに見えるもんな・・・。みんな知らない顔が入ってきたから一応見ただけで、どこか他の街から来た冒険者と思ったんだろう。
まぁ、別に好んで荒くれ者に絡まれたかったわけじゃないからいいけど。
おれはカウンターのひとつの前に立った。複数あるカウンターからここを選んだのはもちろん受付嬢の顔だ!
「すいません。」
「はいなんでしょう?」
かわいい受付嬢は笑顔で対応してくれた。うん、これでこそ冒険者ギルドの受付だ。
「えっと、冒険者の登録をしたいんですけど、ここでできますか?」
「え?あ、冒険者の方じゃなかったんですね。かなりよさそうな装備をしているようなので、てっきり冒険者の方かと。すいません、はい、ここでできますよ。」
「登録料とかありますか?」
そう、よくある冒険者登録の際の登録料だ。
これが存在すれば俺は路頭に迷う。お金が無いから仕事しに来て、お金を払えってね。おかしいよね。
「登録料というわけではありませんが、その代わり最低限の実力を示す必要がありますので、試験を受けていただきます。この試験に試験料がかかります。」
終わった・・・。野宿で野生の生活が待っている。
「あ、しかし試験料は今頂くわけではありません。試験に合格し、冒険者になられたら、報酬から一部を引かせていただく形になります。試験を希望しますか?」
俺の絶望の顔を見て、受付嬢が付け足す。助かった!なんて良心的なんだ!
「ぜひお願いします!」
「わかりました。しばらくお待ちください。」
そう言うと受付嬢は、奥の部屋へ消えていった。
しばらく待っていると、奥の部屋から受付嬢と一緒に、いかついおっさんが出てきた。
「おう、冒険者試験を受けるんだってな。しかし、悪いな。たまたま今試験官をできる職員が出払っちまっててな。」
「え!?試験できないんですか?」
「いやいや、慌てるな。ちょうど手が空いてるから俺が見てやることになった。」
「え?そうなんですか?よかった・・・。」
ほっと胸を撫で下ろしていると、ギルドにいた冒険者達がざわつき始める。
「おいおい、あいつギルドマスターに試験見てもらうらしいぜ。」
「まじかよ。めったに無いが、ギルマスの試験は厳しいぞ。」
え?この人ギルドマスター?そんで試験厳しいの?
是非、遠慮したいと思ったが、ここで冒険者登録しないとお金が無い。
俺はギルマスに連れられて、ギルドの端にある部屋に入った。