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第4話 村の危機に、俺は幼女のパンツを振り回して奮戦する。

 遠吠えは村の外、俺とミリィがいた森の方から聞こえてきたようだ。

 と、俺のいる部屋のドアを叩く音がする。


「兄さん、起きてるか?」


 俺はミリィのパンツを再び懐にしまい、ドアを開けた。


「起きてますよ。どうしたんですか?」


 そこにはマルスと、その後ろに不安そうな顔をしたマリィとミリィが立っていた。

 マルスの手には、削って握りやすくした木の棒が握られている。


「さっきの遠吠えを聞いたか?」

「はい。なんなんです?」

「昼間、ミリィと兄さんが森で角ウサギに会ったって言ってたな。普通はあんなに森の浅いところに出ないやつなんだ。もしかすると森の奥で何かあったのかもしれないと思っていたんだが。」

「そう言えば、ミリィもそんなことを言っていましたね。」

「で、さっきの遠吠えだ。あれはグレイウルフに違いない。あの遠吠えは群で狩りをするときのものだ。グレイウルフが群で狩りをする。そんな対象はあの森にはいない。となると・・・。」

「もしかしてこの村ですか?」

「そういうことになる。」


 ミリィは青い顔でぎゅっとマリィの服にしがみついた。


「よくあることなんですか?」

「バカいえ。そもそもグレイウルフだってあの森にはいやしねぇ。せいぜいが角ウサギか短足鹿くらいなもんだ。」


 短足鹿ってなんだ。足が短い鹿か?なんかかわいいな。


「もしかすると餌がなくなって何処かから流れてきた群れかもしれないな。」

「それで、本当にこの村が狙われていたとして、どうにかなるんですか?」

「どうにかするしかねぇな。村の戦える奴に声をかけて、それでなんとかなるといいんだが・・・。一般級とはいえ魔物だからな。俺たちで倒せるかどうか。」


 ふむ、この世界の魔物の等級はそういうのか。一般級。うむ、たぶんマルスの言葉から最下級の魔物かな?AとかDとかの方がわかりやすくてよかったのに。

 そういえばパンツの等級もそんな感じかな。強いのかなんなのかわからなくて困る。

 さて、どうしよう。

 そう思っていたところでミリィと目が合った。

 青い顔のまま、涙で潤んだ目で見つめてくる。

 やめてくれ。俺はチートだけど、防御力ゼロなんだぞ。ウサギのスピードに追いつけなくて死にかけたのに、狼なんてムリゲーだろ。

 しかし、幼女にそんな目で見られて、その父親達に戦わせて、おとなしく家に篭ってられるなんて男じゃないよな。


「俺も戦います。」

「ほんとか!?それは助かる!実はどう切り出そうかと思ってたんだよ。報酬は村のみんなから少しだがかき集めるからな。」

「報酬はミリィの笑顔でいいですよ。」

「兄さん、あんた・・・・わかった。ありがとう。」


 決まった・・・・。

 いやいやいや、何言ってんだ俺は。

 今は決めるところじゃないだろう。この世界に来たばっかりで無一文なんだぞ!

 でも、今から金を要求することなんかできないじゃないか。バカなのか俺は。

 仕方がない。やると言ったからにはやらねば。

 俺にはチートな攻撃力とパンツがある。なんとかなるだろう。


「俺が先頭で戦いますので、マルスさんたちは後方で万が一討ち漏らした奴をお願いします。」

「何言ってんだ!相手は群れだぞ!一匹や二匹じゃないんだ!兄さんがいくら強いか知らねぇが、ミリィを助けてもらった上にそんなことさせられねぇ!」

「そっちこそ何言ってんですか。報酬はミリィの笑顔って言ったじゃないですか。マルスさんに何かあったら報酬が貰えなくなるでしょう?」

「兄さん・・・。」


 ふっ、決まった・・・。

 じゃねえええええ!

 なんでまたカッコつけてんだ俺は!バカか!アフォか!

 これで防御力皆無の俺が、一人で最前線で戦わなくちゃならなくなったじゃんかよおおおおお!


 斯くして俺は、(ほぼ)一人でグレイウルフの群れと戦うことになったのだった。



 俺は村を囲む柵の前に立っている。

 柵の中には20人ばかりの村の男達が、手に思い思いの武器をもって陣取っていた。

 何故俺は柵の外に立っているのだろう。それには理由がある。

 あれはそう、村の男達が集まってきて、役割をどうするか話し始めた時の事だった。


「俺が柵の外で戦います。万が一討ち漏らしてら、グレイウルフが柵で止まったところを中から攻撃してください。そうすれば比較的安全でしょう。」

「兄さん・・・あんた・・・。」


 村人達がマルスと同じ反応をしている間、俺は後悔の念で心の中でorzっていた。


 ・・・・・・・

 何言っちゃってんだ俺は!防御力ゼロで魔法チートなら、柵の中から安全に魔法をぶっぱなしゃいいじゃねぇかよおおおお!

 そうして生まれたのがこの状況であった。


 しゃーねぇ、来るなら来い!

 そう決意した時、遠くから狼の鳴き声のようなものが聞こえた。


「き、来たっ!」


 森から飛び出して来たグレイウルフの数は、ざっと見た限り十数匹。

 それが一斉にこの村へ向かって走ってきていた。


「いくぞ!アイスランス!」


 森まで距離があるとはいえ、そちらに向かって放つ魔法は氷系を選択した。

 俺の手を離れたアイスランスは、一直線にグレイウルフを目指す。

 直撃一歩手前でグレイウルフの群れが割れた。

 その空いた中央を虚しくアイスランスが通りすぎる。


「マジかよ!?」


 再び魔法を放とうとするが、グレイウルフのスピードは相当だ。

 既にかなりの距離が詰まっていた。


「くそっ!」


 俺は懐からミリィのパンツを取り出し、手に巻いた。

 先頭のグレイウルフが飛びかかってきた。俺はその鋭い牙が生えた口に、パンツを巻いた手を差し出す。


 ガキン


 硬質な音が響き、グレイウルフの動きが止まる。

 大丈夫、グレイウルフの牙はパンツを貫通していない。

 俺は直ぐ様動きを止めたグレイウルフを殴り付けた。


 ドパンという破裂音と共に、グレイウルフの体が四散して宙を舞う。

 しまった!やり過ぎた!これはエグい!

 もう少し手加減しなければ・・・。


 今の一撃で、グレイウルフの群れは俺を驚異と判断したのか、俺を取り囲むように広がった。

 村を襲う前に、まず俺を片付けるつもりらしい。

 さすがにこのやり方で、これだけの数を後ろに抜けさせないなんて無理だと思っていたから正直有難い。有難いのか?この状況。


 そうだ!身体強化魔法!こういう話じゃ定番だ。よしっ。

 俺は思い付いた身体強化魔法を自分へ掛ける。

 少し体が軽くなったようだ。

 と同時にグレイウルフが数匹飛びかかってきた。

 俺は最初の数匹を体を捻って避ける。ギリギリだがなんとかついていける。

 地面をゴロゴロと転がり、そこへ飛びかかってきた一匹の口に拳を突っ込む。

 今度は優しく、ドンと。

 殴られたグレイウルフは数十メートルの距離を転がって、森の中に消えた。

 直ぐ様起き上がる。


 なんとか行けそうだ。


 俺はパンツを振り回して奮戦した。さっきと同じように倒し、時にはパンツで受け止めたグレイウルフをそのまま地面に叩きつけ。

 後ろから聞こえる村人達の声も、頭に入ってくるくらいには余裕が出てきた。


「すげぇ、やっぱり腕利きの冒険者だったんだな。」

「どうなってんだあれ。腕を噛みつかれているのに傷一つ負ってねぇ。」

「冒険者の体ってのはそこまで頑丈にできてんのかよ。」


 口々に俺の戦いの感想を漏らす。


 パンツは拳に巻き付けているの、村人達からはパンツだと分からないようだ。

 村人達の声援を聞きながら、最後の一匹を殴り飛ばした。


 俺は振り返り、柵の向こうの村人達に手を振って見せる。

 歓声を上げようとした村人達の表情が凍りついた。


「お、おい。あれ。」

「嘘だろ?なんでこんなところに・・・。」


 恐怖の張り付いた表情で、俺の後ろの森を見ている。

 俺は村人達の視線を辿って振り向いた。


 グルルルと唸り声を漏らしながら、森の中から一匹の狼が出てきた。

 その体は赤黒く、グレイウルフより一回り大きい。


「ブラッドウルフ!危険級の魔物じゃねぇか!」

「終わった!俺達じゃ勝ち目なんかねぇよ!」


 村人達が騒ぎだした。

『危険級』ってなんだ。

 ほんとこの世界の等級じゃわかりづらくて困る。

 字面から考えてもそれほど上位の等級でもなさそうだ。

 俺はブラッドウルフと呼ばれた狼の魔物に向かって、パンツを構え直した。

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