第30話 どうやらこれが難関の謎解きのようです。
俺達はダンジョンの中を歩いている。
「これはどうなっているんだ?」
どうなっているとはこのダンジョンの中の明るさのことである。
最初はファンタジーでよくある、苔や鉱石等が光を放っているのかと思っていたが、どうやらそんな感じでもない。もちろん照明があるわけでもない。
少し薄暗いが、問題なく周り見える程度に明るくなっている。
不思議に思ったのでリンディに聞いてみたところである。
「どうなっているのかは知らんが、ダンジョンとはこういうものだぞ。」
こういうものらしい。
さすが異世界。不思議パワーで明るくなっているようだ。
俺達はダンジョンを進んでいく。特にモンスターに襲われるようなこともない。
「何もいないな?」
「そりゃそうだろう。低階層はそもそもモンスターの数は少ないし、先行した冒険者が倒していたら尚更そうそうモンスターに出会うことは無い。」
ということらしい。
まぁ、俺達の前にそれなりに冒険者達が入っていったからな。今のところ一本道だし、モンスターがいないのは当然か。
「それにしてはモンスターの死骸とか無いな。」
「ダンジョンでモンスターを倒すと、そのモンスターはダンジョンに吸収されるように消える。消えた後に素材なんかが床の上に残ってたりするんだぞ。」
「マジか。完全にゲームみたいだな。でも剥ぎ取ったりしないでいいのは助かるな。グロいし。」
「ゲーム?」
「こっちの話。」
フィーユがゲームという単語に反応するがさらっと流す。
「でも冒険者がモンスターを狩って回っていたらダンジョンからモンスターがいなくなったりしないのか?」
今回でも結構な数の冒険者がダンジョンに挑戦している。モンスターなんてすぐに絶滅しそうなものだ。
「ダンジョン内ではしばらくすると、どこからか新たなモンスター沸いてくる。倒したモンスターが消えるのは、そのモンスターを栄養にして新たなモンスターをダンジョン作っているからだと言われているぞ。実際、モンスターが減りすぎることもなければ、増えすぎることもない。」
なるほど。ますますゲームっぽい。時間経過でリポップするということか。
ということは、誰も入らずダンジョンを放置しても、魔物が増えすぎてダンジョンから溢れるなんてこともなさそうだ。
「でもそれだとしばらくは何もなさそうだな。モンスターも宝箱なんかも、前に入った冒険者が取りつくしてるだろ?」
「そうでも無いぞ?謎解き部屋の宝箱なんかは残っていたりする。そもそも低階層で活動するような冒険者は、あまり頭が良くないのがほとんどだからな。」
と、リンディが自分謎解きは苦手だと言う。
「お?言ってるそばからあったぞ。謎解き部屋だ。」
リンディが何かに気付いて前方を指差す。
目を凝らしてよく見ると、前方の壁に穴があり、その先が部屋になっているようだ。
俺は穴に近づくと、部屋の中を覗き込んでみた。
部屋の中には黒い石板のようなものが一つある。その石板の天辺がオレンジ色に光っていた。
「これはまだ残ってるってことなのか?」
「そうだな。しかし、むぅ、オレンジか。そりゃ残ってる訳だ。」
謎解き部屋を見つけて喜んだ俺達だったが、リンディは石板の見て渋い顔をする。
「オレンジだとダメなのか?」
仄かに光る石板の光を指差してリンディに聞く。
「ダメと言う訳じゃないんだが、この謎解きの石板は、光る色によって難易度が変わるんだ。一番簡単なのは青だな。そこから赤い色に近づくにつれて謎が難しくなっていく。まぁ、難易度が高い方がいい物が出る確率が高いんだが。」
「マジか。じゃあ、ダンジョンに入っていきなりお宝ゲットの可能性があるってことだな?」
「まぁ、そう言うことになるがオレンジだぞ?私も何度かダンジョンにはチャレンジしているが、オレンジは解いたことはないぞ。」
「そんなに難しいのか?因みに答えを間違ったりすると何かあるのか?」
どんなに難しくても答えを数打てばいつかはクリアできるんじゃないだろうか。
「三回間違うと罠が発動するな。周りにモンスターが現れたり、毒が部屋に充満したり、一番厄介なのはダンジョンのどこかに飛ばされる転移罠だな。」
「おぉ・・・それはヤバそうだな。でも一、二回は間違ってもいいのか。」
「そうだな。高難度の石板は大抵内容を確認して、スルーするのがほとんどだな。」
「で、謎っていうのはどうしたらいいんだ?」
「そこの石板に謎が書いてある。後は石板に向かって答えればいい。」
「なるほど。どれどれ。」
俺は目の前の石板をよく見てみる。そこにはこう彫られていた。
『5人の戦士の攻撃力と4人の剣士の攻撃力を足して攻撃力15を引く場合と、3人の戦士の攻撃力と2人の剣士の攻撃力を足して攻撃力11を引く場合の攻撃力は同じで-2である。戦士と剣士の攻撃力をそれぞれ答えよ。』
「「????」」
リンディとフィーユの頭の上に、クエスチョンマークが乱舞する。
「なんだこれは?暗号か何かか?」
リンディが意味がわからないと、問いを見た時点で匙を投げた。
「やはりオレンジのせきばんは無理だ。先に進むぞ。・・・ユート?」
諦めて先に進もうとするリンディは、じっと石板を見つめるユートに気がついた。
「これが高難度の謎?」
思っていた内容と随分違ったため、ポカンとしてしまった。
「そうだ。意味がわからんだろう?そもそも攻撃力がマイナスってなんだ!そんなわけないだろう。やはり赤近い色の石板は、王国の大魔導師や賢者様じゃないと解けん。」
そう言ってリンディはやれやれと首を振る。
「いや、ちょっと待って。これって・・・。」
これって・・・
『連立方程式』じゃね?
連立方程式。あの中学の時に習って、急に凄く賢くなった気がするアレだ。
頭の中で計算しながら言葉の意味を考える。答えを導き出して、検算もしてみたがどうやらやはり連立方程式のようだ。
因みに俺は、ゲーマーだった時からダメージ計算などでより効率のいい狩りを模索したりしていたので、決して計算が苦手と言うわけではない。
「えーと。戦士が5で剣士が・・・3かな?」
「お、おい、ユート。罠があるんだぞ?適当に答えるな。」
リンディが慌てて俺に言う。
ほら、もう行くぞとリンディが腕を引っ張ったその時、石板から場に似つかわしくない音が響いた。
ピンポ~ン
「へ?」
リンディが目を点にして音のした石板を見る。
間抜けな音を出した石板は光が消え、二つに割れるように開いていく。
石板が完全に左右に分かれた後には、宝箱が一つあった。
「な、なに・・・?お、おいユート。適当に言ったんだろう?相当に運がいいな。」
リンディは開いた石板と宝箱を見て、それから驚愕の表情で俺を見る。オレンジの石板の謎を解くというのは、それほどに凄いことなのかと思う。
「いや、ちゃんと計算して答えたぞ?でも頭の中で計算するのはしんどいな。こういう謎があるんなら、今度から何かメモが出来るような物を持ってきた方がいいかも。」
「け、計算した?計算なんか出来るものなのか?しかも頭の中で?」
「ユートさんはやっぱり凄いですね!」
リンディが奇妙なものを見たと言う目で見、フィーユは素直に凄い凄いと誉める。
しかし、これがオレンジか。まあ、解けないことはないけど赤とかだったらどうなるんだろう。高校や大学で習うような問題が出てくれば厳しいかもしれない。そこら辺の内容は、試験前に詰め込んで、卒業したら頭から綺麗に消えるものだ。
「そんな事より宝箱を開けようぜ。
俺はリンディがまだ何か言いたそうにしているのをスルーして、現れた宝箱を開けた。
「これは?」
宝箱の中には筒のようなものが入っていた。
手に取ってみると、先端部分が少し広がっていて、どこか昔の懐中電灯を彷彿とさせるデザインだ。
「おお、明かりの間道具ですね!家にもありましたけど、携帯ができて便利ですよ。」
懐中電灯だった。
ゲームのダンジョンなら時間制限のある松明や光魔法の代わりになったりして便利なんだろうが・・・。ここのダンジョン、謎パワーで光ってるからなぁ。
俺はそっと収納魔法に懐中電灯を入れた。
「しかし、オレンジの割にはショボいな。」
「低階層だから高難度の宝箱でもこんなものだぞ。そう珍しいものでも無いが、店で買うと結構な値段がする。」
「へぇ。」
高価なものらしいが、どうせなら店売りしていないような物が欲しい。
それからダンジョンの探索を再開した俺達は、たまにリポップしたモンスターを倒したり(主にリンディとフィーユが)しながら進んだ。
青や緑の石板は見当たらない。流石にその辺りの難易度は他の冒険者が取って行くのだろう。
少し腹が減ってきて、そろそろ昼かな?と思った時、通路の先から話し声が聞こえてきた。
「しかしこの間出たアイテムは良かったな!」
「そうだな。一時的に魔物の集団を操れるなんて物凄く希少なアイテムだぞ。」
「しかし貴族の野郎、足元見やがって。アレが金貨8枚かよ。大金貨で数枚、いや数十枚でもいいだろうよ。」
「まったくだ。戦争や陰謀なんか、使い道も多そうだしな。」
気になる話が聞こえてきたので、もう少し近づいてみようとした時だった。
「だれだ!?」
声の主達は入り口で見た山賊風の男達だった。
男達は俺達に気付き、剣を抜いて構えた。