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第3話 パンツの防御力が異常なんですが、流石はおパンツさまです。

「た、倒したんですか?」


 俺がぶら下げている角ウサギを覗き込みながら、幼女が聞いてくる。

 手と角ウサギの間には、しっかりとパンツが握りしめられている。

 俺は気付かれないよう 、そっと角ウサギを地面に下ろし、パンツを懐に仕舞った。


「あ、待ってください!」


 幼女が慌てて詰め寄ってくる。

 俺は仕方なく、懐のパンツを取り出そうとした。


「そのまま持ち上げていてください。すぐに血抜きをしないと。」


 そう言って幼女は角ウサギを指差した。

 そして俺はそっとパンツを懐に戻した。

 俺が角ウサギを言われたように持ち上げると、幼女は篭からナイフを取り出し躊躇い無く振るった。


「ひいっ!?」


 角ウサギの首がぱっくりと裂け、血がドバドバと地面に落ちる。

 その光景に思わず角ウサギを離しそうになった。


「ちゃんと持っていてくださいよ。これだけ状態のいい角ウサギはなかなか捕れませんからね。しっかりお肉と毛皮にしないと。」


 そう言った幼女は、俺の手からぶら下がる角ウサギの皮を剥ぎだした。

 吊るし切りとか言うやつだろうか?

 怖々と持っていた角ウサギがみるみる解体されていく。

 そうして新鮮なお肉と毛並みの良い毛皮が出来上がった。


「凄いな。まだ幼いのに。」


 俺が幼女くらいの歳の時は、泥まみれになってヒーローごっこなどしていただろう。それがこんなに見事に解体をするなんて。


「何言ってるんですか?これくらい普通じゃないですか。村では私くらいの歳だとみんな出来ますよ?あ、もしかして都会の人ですか?でも冒険者みたいなカッコしてますし、え?出来ないんですか?」

「で、出来ない・・・。」


 幼女は呆れた眼差しを向けてくる。

 しかし俺はそんな幼女の眼差しに、快感を覚えたりする人種ではないのだ!


「そうなんですか。まぁ、一応助けてもらった?ようなので、私の村へ行きませんか?角ウサギも一人で運ぶのは大変なので。」


 幼女は解体した角ウサギへ視線を向け、俺に言った。

 異世界へ転生してまだ右も左も分からなかったので、人のいるところへ行きたかった。正直幼女の申し出は有難い。


「じゃあ、そうさせてもらおうかな。あ、角ウサギは全部俺が持つよ。」

「有難うございます。」


 幼女はお礼を言って歩きだした。俺もその横に並ぶ。

 どうやら良い状態とやらの角ウサギに興奮して、パンツのことは頭から抜け落ちてしまったようだ。スースーしたりしないのだろうか。


「ところでなんでこんな危ない森に一人でいたんだ?」


 角ウサギだって不意を付かれて角が刺さったりしたら、命に関わるだろう。

 俺は疑問を投げ掛けてみた。


「危なくないですよ。木の実や薪を拾いに来ていたんですが、普通はこんなに森の浅いところに角ウサギなんて出ません。万が一出会ったら逃げればすぐに村ですからね。」

「そうなのか?」

「そうなんです。もしかして森の奥で何かあったのかなぁ・・・。」


 思案気な顔をして幼女は呟いた。


「あ、着きましたよ。ここが私の村です。」

「ほんとに近いな。」


 歩き出して十数分、森の開けた場所に建物が見えてきた。

 木の柵に囲われ、ログハウス風の建物の並ぶ小さな村だ。

 村の周りには畑も見える。


「うちに行きましょう。」


 そう言って村の入り口を潜る。

 勿論門番などはいない。

 ほどなくして小さな家の前に着いた。


「お母さん、ただいまー。」


 元気よく挨拶をしながら幼女は家に入っていった。

 俺はどうしたら良いものかと、家の入り口で一人立っていた。

 そうすると暫くして、ふくよかで優しそうな女の人が顔を出した。


「あらあら、こんなところでお待たせして、どうぞお上がりください。」

「お兄さん、上がって!」


 幼女が家の中から手招きしている。

 母親の元で、本来の幼女らしい雰囲気になっているようだ。

 俺は招待に答えて、家の中に入った。

 家の中はそれなりの広さのダイニングキッチン・・・という名の炊事場兼居間。それと奥には二部屋ほどあるようだ。

 一般的なアパートなどの間取りと言えば良いのだろうか。


「どうぞ。」


 幼女のお母さんがテーブルにお茶のようなものを出してくれたので、その前にある椅子へ腰を下ろす。

 お茶に口をつけると、苦味の中に仄かな甘味のある不思議な味がした。


「どうですか?美味しいですか?それ、さっき取ってきたカフィーの葉で作ったんですよ。なんと葉っぱをカップに入れてお湯を入れるだけで、葉っぱからどんどん味が滲み出してきて、お茶になるっていう凄い葉っぱなんですよ。あ、知ってましたか?」

「いや、知らなかったな。」


 そう言って俺はカップの中に視線を落とす。

 茶色い液体からは、微かに香ばしさすら感じられる香りが立ち上っていた。

 なんだこれ。カフィーの葉?コーヒー?甘味があるからスティックタイプの、砂糖とか一緒に入ったやつみたいなもんかな?

 コーヒーと思ってもう一口飲んでみると、確かにコーヒーだ。

 雨とか降ったときに、その辺一帯がコーヒーになったりしないのだろうか。

 そう思って、幼女がヒラヒラと見せている葉っぱを鑑定魔法で鑑定してみる。


『カフィーの葉』

 森の中に自生する葉。

 お湯を注ぐと苦味の中に甘味のある汁を出す。

 一般的なインスタントコーヒーの味。


 おいおい。インスタントコーヒーとか言っちゃってるけど!?

 なんで!?


「あ、雨とか降ったらどうなるんだろう、とか考えてます?大丈夫ですよ。お湯でしかお茶は出来ませんので。」


 ふむ。便利な葉っぱだな。ちょっと欲しい。

 そして俺の思考を読む幼女は只者ではない。


「お兄さん。角ウサギを出して貰ってもいいですか?」


 俺は吊るしていた袋(袋は幼女が持っていた。アイテムボックスは、こういう話ではトラブルに巻き込まれる事もよくあるから自重した。)から角ウサギの肉と毛皮を取り出した。


「まぁ、凄く立派な角ウサギね。それに毛皮に傷一つない。」


 母親は毛皮を見て目を丸くしている。

 その時、玄関のドアが開いた。


「あ、お父さん!お帰りなさい!」

「ああ、ただいま。ん?そちらは?」


 家に入ってきた逞しい髭面の男がこっちを見る。


「森で角ウサギに襲われたミリィを助けてくださったんですって。」


 幼女の名前はミリィちゃんというのか。そういえば名前を聞いていなかった。


「遠・・・優人、ユートです。よろしく。」


 ここは日本人らしい名前ではなく、ファンタジー風に名乗っておこう。


「ユートか。娘を助けてくれてありがとう。感謝する。俺はマルスだ。」


 ミリィの父親マルスはそう言ってゴツい手を差し出してきたので、握手で返した。


「あらあら、私ったら自己紹介もまだだったね。私はマリィ。ほんとありがとうね。」

「お前な。それでこの角ウサギは?」


 マルスはマリィに呆れながらも、広げられた角ウサギを指差す。


「これはね。お兄さんがやっつけたんだよ。」

「ほう?ほんとか?毛皮に傷が一つもない。さぞ名の知れた冒険者なんだろうな。」

「うーん?どうなんだろ?」

「あはは・・・。」


 俺の醜態は話さなくて良いか。


 その後、ミリィの家族と夕食を共にさせてもらい、特に行くあても無いことを話すと、今夜は泊まっていけばいいということになった。

 俺はありがたくそうさせてもらうことにした。

 二部屋あったように見えたのは、片方はミリィ達家族の寝室。もう片方は倉庫として使われている部屋だった。

 マリィが倉庫の方を簡単に片付け、厚手の布を敷いてくれた。


「それじゃ、お兄さんおやすみなさい。」


 ミリィが手を振って寝室に入っていくのを、手を振り返して答える。

 一人になった倉庫の中で、俺は懐から例の物を取り出した。

 そう、ミリィのおパンツさまである。


「あの時のあれ。なんなんだこのパンツは。」


 手の中の幼女のパンツをじっと見つめる。

 ヤバい構図だ。

 俺はパンツを鑑定してみた。


『ミリィのパンツ』

 村娘級。

 いたって平凡な質素なパンツ。

 防御力 184


 ・・・・・・・。

 は?

 いやいや、まてまて。

 いたって平凡な質素なパンツはいいだろう。

 村娘級ってなんだ?等級的な何かか?

 防御力184?この世界での一般的な布の防御力なのか?それともこのパンツが特別なのか?

 パンツを手の中で揉んでみたり、引っ張ってみたりするが、いたって普通の布でできたパンツのようだった。

 試しにズボンを脱ぎ、自分のパンツを鑑定してみた。


『ユートのパンツ』

 異世界級。

 量販店で購入可能な普通のパンツ。

 防御力0


 等級はカッコいいが普通だな!量販店とか言っちゃってるけどもう気にしないぞ!てか防御力ゼロって!

 これはパンツに防御力が無いのか、それとも俺の装備品だからゼロなのかわからないな。


 そんな検討をしている時、遠くから遠吠えのような獣の声が聞こえてきた。

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