第26話 王都のギルドでお約束に出会いましたが、イルカに横取りされました。
一夜明け、俺達は早朝、陽が昇ったら出発した。現在は再び馬車に揺られてお昼頃だ。
シャリアピンステーキのレシピとオセロを売った俺は、思わぬ報酬にホクホクだ。
なんと大金貨3枚である。
内訳はレシピが金貨5枚、オセロが大金貨2枚と金貨5枚だ。すごいねオセロ。
まぁ、地球で世界的にヒットしたゲームの権利が250万円相当と考えれば破格の値段だろうけど。
自分で商業チートをやる気も無いので、快く売り払った。オセロが普及すれば対戦相手にも困らなくなるだろうし、大会なんかも開かれるかも。なお、オセロの定石等は教えていない。研究が進む前に大会が開かれたら出てやろうか。
「ユート。前を見ろ。」
気付けば馬車が減速している。
俺は御者台越しに前方を見た。
「何かいるな。」
そこには街道を塞ぐように丸太が置かれており、10人程度の男達が立っていた。
「盗賊だな。」
「領都を出て1日でもうか。結構いるんだな。」
「そうでもないがな。この辺りで出てくるのは拠点を持たない盗賊だろう。たまたま運が悪かっただけだな。」
「マジか。例の関係者ということは?」
「違うと思うな。」
俺達が話していると、御者台からリチャードが顔を出した。
「どうしましょう。前方を塞がれていますし、人数は相手の方が大分上です。」
レシピなどの権利を売ってからリチャードは敬語になった。どうやら護衛の冒険者ということ以上に、取引相手ということで認識されたらしい。
「ほとんど荷がないのにご苦労さんだなあ。」
「荷がない事がわかったら腹いせに殺されるかもしれません。それに荷はなくても綺麗なお嬢さんは2人いますよ。」
そう言ってリチャードはフィーユ達の方を見る。
「それはダメだな。」
俺は御者台に乗り出し、前方へ腕を向ける。
街道がめちゃめちゃになったら困るな・・・。
そう思って風魔法を放った。
俺の手から放たれた突風は、ニヤニヤ笑いをしていた盗賊達を丸太ごと街道の外に吹き飛ばす。盗賊達の落下点の地面を土魔法で柔らかくし、まるで沼に落ちたようにドボンドボンとそこに落ちていく盗賊達。空気を求めて全員が顔を出したところで再び地面を固める。もとの固さより少し固めに。
そうして盗賊達の生首(首から下もある)が街道脇に並んだのである。
それをポカンと見ていたリチャード。
「な、なんという魔法ですか!凄い!詠唱も無しにあそこまでの威力とは・・・。」
かなーり手加減したんだけど・・・。ていうか詠唱?そんなの聞いたこと無いけど。リンディに聞いてみる。
それによると大きな威力の魔法を行使するときは、詠唱をして集中するんだそうだ。ふーん、でも詠唱なんてしてたら余計気が散らないだろうか?
「あー、勝手に埋めちゃいましたけど良かったですか?」
とりあえず抵抗できないようにと埋めてみたが、掘り出すとなると手間だ。
「構いません。王都に連れていくには距離がありますし、街に戻る時間もありません。討伐報酬と犯罪奴隷の代金では、今回の取引と釣り合いませんしね。ここは次に通る商隊か冒険者に任せましょう。」
そう言うリチャードだが、普通の商隊か冒険者だと掘り出すのが俺以上に大変そうだな。そう考えつつも確かにこれからの行程を連れて歩くのは面倒だ。
俺はアイテムボックスから気の板を取り出し、筆を取る。そして木の板に伝言を残しておいた。
『盗賊です。連れ歩くのが困難な為、置いていきます。報酬などは差し上げますのでお好きにどうぞ。』
これでよし。
数日誰も通らなかったり、無視されたりしたら知らん。自業自得だ。
偉い人も言っていた。殺していいのは、殺される覚悟がある奴だけだと。
「じゃあ行きますか。」
「あ、ああ。」
リチャードは軽く引いているが、急いでいるのでそのまま馬車は進みだした。
そしてそれから2日、その後は何もなく王都が見えてきた。
何もなくと言ったが、道中レシピを2つほど売った。ポテトフライと唐揚げである。
油が少々高かったので、揚げ焼きだがまあまあうまく出来た。油が高いので、それを使って揚げるという発想は無かったらしい。古い油をいつまでも使い回さないか心配だ。
そんなことはさておき、見えてきたのは巨大な壁。街をぐるっと囲んだその壁は高く、門から見える通路の奥行きからかなりの厚さもあるように見える。まあこれだけ大きければ中に部屋などもあるのだろうが。
俺達の馬車も門の入り口に並ぶ。列はそれなりでそんなに待たずに入れそうだ。
並んでいる間に、前に並んでいたチンピラに因縁をつけられる、なんてこともなく30分ほどで俺たちの番になった。
リチャードが何かを門兵に見せる。
「リチャードさんですか。一応規則なので馬車の中を確認させてください。」
そう言うと馬車の中を確認してきたが、そもそもほとんど荷らしい荷は積んでいないのですぐに終わった。収納魔法持ちが危ないものを持っていたらどうするんだろうか。
そして馬車が門を潜る。
あれ?入場料とか無いのか?前に並んでいた商人は払っていたように思うけど。と、リチャードに聞いてみる。
「ああ、大丈夫ですよ。うちは王国内の街なら入場料を免除されていますので。同行者も同様なので心配しなくていいですよ。」
とのことだった。
リチャードって実は凄い商人?
まあ簡単に王都に入れたし、フィーユの素性がバレたりする危険がないに越したことはない。
王都に馬車で乗り入れた俺が見た光景は驚くべきものだった。
馬車が左側通行で大きな通りを行き交っている。道の脇には石が並べられ、その外側を人が歩いている。
なんだこれ?車道と歩道?しかも左側通行?歩行者が渡るべきところには、舗装に使われている石の色が違う。
交通に関して、突き詰めるとどこの世界でもこうなるのだろうか?
しばらく進むと広場のような場所に出る。広場というよりはロータリーのような感じだ。ぐるっと円を描くように道があり、そこから放射状に道が延びている。円の中は公園のようになっていて、そこで屋台なんかも出されていた。
その円の途中にある、道が少し拡がった窪みのような場所で馬車が止まる。まるでバス停のようだ。
「皆さん、ありがとうございした。ここがこの街での冒険者ギルドです。」
そうリチャードが声をかけてくる。
どうやら冒険者ギルドの前まで送ってくれたようだ。
「送ってくれたんですか?ありがとうございます。」
「いやいや、店に帰る道の途中なだけですよ。依頼完了のサインをしておきましたのでお持ちください。」
差し出された依頼票を受け取った。
「それではまた何かありましたら。あぁ、そうだ。新商品なんかの方も、何か思い付いたら教えていただけるとありがたいですな。そうでなくとも一度店にお越し下さい。もてなさせてもらいますよ。」
そう言ってリチャードは去っていった。
「なんかすごく気に入られちゃったな。」
「それはそうだろう。料理は美味しかったし、特にあのオセロというやつ。あれは面白い。大人気になるぞ。」
「ははは。」
俺が考えた訳でもないものが、本当に大ヒットしそうで乾いた笑いが漏れる。
「まあ、とりあえすギルドに顔を出していくか。」
俺達はギルドの扉を潜った。
ギルドの中の造りはは、トリアとたいして変わらない。しかしやはり王都。広さは全然違った。
俺達はどんな依頼があるのかと、掲示板に向かう。
「おいおい、女とガキを連れた三人パーティだって?しかも男もガキじゃねえか。」
ガチムチのハゲ頭が絡んできた。ここでお約束かよ!
どうするか?指で硬貨でも四つ折りにでもしてみるか?なんて考えていると再びギルドの扉が開いた。
入ってきたのは小さな女の子が1人。
全身青い女の子の肩にイルカが乗っている。
俺達に絡んできていたハゲ男は一瞬呆気にとられたが、俺達を放ってそちらへ向かった。
「お、おいおい。ここは女のガキが1人で来るところじゃねえぜ?」
と、青い女の子に向かって言い放った。
小さな女の子が1人で冒険者ギルドに来る場合、依頼者だという考えは無いのだろうか?
女の子はハゲ男の言葉を無視して掲示板の方へ向かおうとしたが、無視されたハゲ男が女の子の肩を掴んで引き留めようとした。
「おい!俺様を無視するんじゃねえ!」
ハゲ男の手が女の子の肩に触れようとした瞬間、反対側の肩に乗っていたイルカが反応する。その尾でハゲ男の横っ面をひっぱたいたのだ。
男はその場で一回転して動かなくなった。
・・・あれ、首は大丈夫なんだろうか?
「大丈夫だったか?」
俺は女の子に聞いてみた。どう見ても大丈夫じゃないのはハゲ男の方だが。
「あれ?トリアでお会いしたお兄さん。」
どうやら覚えていたようだ。道を尋ねられただけなのに凄い記憶力だな。
ハゲ男をぶっ飛ばした女の子を見て、ギルド内の冒険者がざわつく。
「お、おい。あの肩に乗った魔獣・・・。」
「赤級冒険者の『蒼いオーロラ』じゃねえか?」
といった声が聞こえてくる。
この女の子、赤級なのか・・・。赤なのに蒼いオーロラと。関係ないか。
イルカは魔獣らしい。魔物と魔獣ってどう違うんだろ?
そんな事を考えていると、カウンターから騒ぎを聞いたギルド職員がこちらにやって来るのであった。




