第25話 ただの移動中に思わぬ大金が転がり込んできた。なるほどこういうチートもあったな。
「やぁ、待ってたぞ。」
街門へ行くと、商人が待っていた。
「お待たせしましたか?」
「いや、大丈夫だ。それより旅の準備をしてきたんじゃないのか?ずいぶん荷物が少ないようだが。」
俺達を見て、商人がそう聞いてくる。そりゃそうだ。俺達はそれぞれの武器くらいしか持っていない。
「収納魔法があるからですよ。準備は大丈夫です。」
なので俺はそう答えたんだが。
「収納魔法!?まさかそんな魔法まで使えるとは・・・。それではやはりオーガを倒したという話も、あながち嘘でもないということか。しかし、くぅ・・・収納魔法。羨ましい限りだな。どうだ?冒険者を辞めてうちで働かないか?まだ青級なんだろう?」
相当に羨ましがった挙げ句、俺を勧誘してきた。
「それは出来ませんね。冒険者にはなりたかったし、まだなったばかりでこれからですから。」
そう言って断ったのだが、商人は未練がましくチラチラ見てきた。
まぁ、収納魔法があれば、一回の輸送量が増えるからな。しかし、一般的にはせいぜいがグレイウルフを入れられる程度なんだろ?そんなに羨ましいかね?
ちょっとリンディに聞いてみたが、高価な荷を収納魔法に入れておき、盗賊に襲われたときに高価なものを目に触れさせずに、通常の荷を渡して見逃してもらうとかに使うそうだ。詳しいね、リンディ。
「おお、そうだ。自己紹介がまだだったな。私はリチャード商会のリチャードだ。よろしく頼むよ。」
商人、リチャードが名乗ったので、俺達も軽く自己紹介をした。
フィーユは貴族の娘、リンリルであることを明かしていない。
「それでは急ぐので早速出発したいのだが。」
「ええ、いいですよ。」
リチャードがそわそわし始めたので出発することになった。
馬車の御者台に御者と一緒にリチャードが座る。俺達は馬車の中の空いているスペースに乗ってくれということだった。
馬車に入ると予想と違い、ほとんど荷は積まれていない。普通はこちらで仕入れた物とかを積んで戻ると思うんだが、急いでいるから軽くしたかったのかな。それほど大きな商談が纏まったのだろう。意外とやり手の商人なのかもしれない。
俺達が馬車に乗り込むとすぐに馬車は動き出した。
「馬車で移動ってちょっとワクワクするな。」
「そうか?」
俺の感動をリンディが潰してくる。
「私もこういった馬車は初めてなんで、ワクワクしてますよ!」
フィーユのフォローが入る。いい子だな、フィーユは。
フィーユはそわそわキョロキョロと落ち着きなく周りを見渡していた。フォローだよな?
馬車は街道に出て順調に進んでいく。なんのトラブルも無い。
そりゃそうだ。領都から近いところの街道に、盗賊や魔物がウヨウヨしてたら問題だ。
ん?フィーユ達の馬車が領都の近くで盗賊に襲われていた?あれは純粋な盗賊じゃないのでノーカンだ。
結局この日は何もなく、街道から少し外れたところで野営することになった。
陽も大分傾いてきている。
「食べ物なんかは用意してきてるのか?干し肉とか黒パンなら分けられるくらいはあるぞ。」
リチャードが聞いてきた。どうやら食料を分ける気があるみたいだ。
出発前の条件確認で言わなかったのは、急いでいて忘れていたのだろう。
「十分用意してますよ。」
「十分に?どこにそんな・・・ああ、収納魔法か。ほんとに羨ましいな。」
そう言うとリチャードは離れていった。護衛対象が離れていいんだろうか?
一先ずそれは置いておいて、俺は収納魔法から食材と調理器具を出した。
「む?それは馬車の中で何かしていたやつか?」
「オンニオですよね?」
二人が覗き込んでくる。実は馬車移動が途中で退屈になってきて、夕食の下ごしらえをしていたのだ。
刻んだ玉ねぎのようなオンニオに角ウサギの肉を浸し、傷んだりするかもしれないので氷結魔法で氷の囲いを作り、その中で放っておいた。
肉からオンニオを取り除き、水気を取り、熱したフライパンでバターで焼く。
オンニオもバターで炒め、塩コショウ、フライパンに残った肉汁と合わせ肉に乗せる。
ソースを作るには調味料が足りなかったが、まぁこれでいいだろう。
この世界の肉、角ウサギの肉も短足鹿に肉も少し固かったからな。前に漫画で読んでやってみたかった料理をやってみた。
そう、シャリアピンステーキである。
二人に皿に盛った肉を出してやる。
変わった料理法に首をかしげながらリンディが一口食べた。
「これは!すごく柔らかいじゃないか。なんの肉だ?そんな高級な食材を買っていたようには思わないが?」
「ほんとです!家で出てくる料理とも遜色無い、いえ、それよりも柔らかいかも。」
フィーユの家は子爵家だからな。それほど身内の食事で贅沢はしていなかったのだろう。肉が固かろうがあの領主には関係なさそうだし。
「ただの角ウサギだぞ?」
「角ウサギ?これが?あの馬車でしていたことが関係あるのか?」
「関係大有りだよ。ああすることで大抵の肉は柔らかくなる。らしい。」
「ふむ、すごいな。ユートは料理もできるのか。」
「凄いです。ユートさん。」
「まぁ、家で一人の事も多かったし、多少はできるぞ。」
親が共働きで、晩御飯代に五百円玉や千円札等が置かれている事が多かったが、弁当に飽きてきた頃に気付いた。
自分で作れば安く押さえられ、色々なものが食え、更には浮いた金を自分のものに出来るのではと。そうしてネットなどで調べながら、少しずつ料理ができるようになったのだ。
俺達が食事をしていると、パンとスープで食事をしているリチャードがこっちをじっと見ている。それはもうじっと。
「リチャードさん。一緒に食べますか?肉はまだありますよ。」
俺が誘ったら、すぐさまリチャードがやって来た。
まるで待ってましたと言わんばかりだ。いや、実際声をかけてくれるのを待っていたんだろう。
「いいのか?」
「別に構いませんよ。そんなに高い肉な訳でもないですし。今、焼きますね。」
そうして焼きあがった肉に、リチャードはかぶりついた。
「これは!」
うん、リンディと同じ反応だな。
「これは本当に角ウサギの肉なのか?あ、いやすまん。さっきの会話が聞こえてしまったもので。」
聞き耳も立ててたんですね。
「本当ですよ。野営でそんな贅沢をしてもしょうがないし、でも美味しいものを食べたいから工夫しました。」
「工夫で角ウサギがこんな風に・・・。ううむ。」
リチャードは唸り、肉にかぶりつく。そしてまた唸り、食べ終わると考え込んだ。
「ユートといったかな。このレシピを売ってくれないか?」
「レシピを?」
「実はうちの商会では大衆向けの料理屋や酒場なんかも運営している。安くこれだけのものが味わえるなら、そこで出したいんだ。これならきっと繁盛するはずだ。」
「はあ、でも売るようなものでもないですよ?複雑な行程があるわけでもないし、特別な材料を使っているわけでもないし。」
別にパクりたければパクればいいと思っている。料理屋を出すつもりもないし、めんどくさい手間をかけずに、その辺の店で美味しい料理を食べられるようになれば、俺も嬉しいしね。
そう思ったのだが。
「そういうわけにはいかない。このレシピは特許を申請したいと思っている。だからこそ正式に買い取りたいんだ。だめか?」
特許!?特許とかあるの?
文明レベルの低いファンタジー世界と舐めていたぜ・・・。まさかそんな制度が存在するとは。
それに何気なく聞き出してパクればいいものを、リチャードはしっかり説明した上で、きちんと買い取りたいと言っている。
商人は腹黒だと思っていたが、リチャードは信用に足る人物のようだ。
「そういうわけならいいですよ。」
「本当か?ありがとう!」
リチャードは嬉しそうに笑った。
「また何かレシピを思い付いたら是非教えてくれ。」
「はあ、わかりました。」
思い付いたらか。一応レシピサイトのレシピなら、それなりに頭の中にあるんだが、まあ追々でいいだろう。
食事の後、食休みをするためそれぞれの時間を潰す。
俺は資材屋で買っておいた木材を取り出す。
大きめの板と小さな板がいっぱい。インクとペンと筆も取り出し、大きな板には格子状に線を、小さな板は片面を黒く塗りつぶす。
「ユートさん。何を作っているんですか?」
俺が作業をしていると、いつの間にか近くまで来ていたフィーユが聞いてきた。
「これはオセロっていうゲームだ。」
「ゲーム?」
フィーユと話しているとリンディも近寄ってくる。
「まあ、玩具だな。ちょうど出来たところだからやってみるか?」
「はい!やり方を教えて下さい。」
フィーユとリンディに遊び方を説明する。
そんなに難しいルールでもないので、すぐに二人はオセロで遊び始めた。
うむ、これで道中の空き時間は退屈しないで済みそうだ。
護衛依頼中なんだけどな!
フィーユ達がうんうん唸りながらオセロをしているのを微笑ましく見ていると。
「な、なんだそれは!ユート、いやユートさん!それも売ってください!」
いつの間にか後ろから覗き込んでいたリチャードが大声をあげたのだった。
ああ、そういえばレシピやゲームで収入チートするのもテンプレだったか・・・。
俺は今更ながらに気付くのであった。
主人公がどんどん定番な異世界主人公になっていく・・・。
特色のパンツはまだか!