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第22話 混乱収束。ちょっと事態の展開についていけません。

「さすがだな、ヘリオス。それでこそ我が師だ。」


 領主が締め上げた男を引き摺ってこっちへ来る。

 この執事って領主の師匠なの?そら強いわ。


「光栄でございます、旦那様。して、やはりこやつらは。」

「だろうな。しかし派手にやってくれた。領民達に被害が出ていないといいが。」

「ここに来たのが精鋭でしたら、外にいる輩に後れを取るような騎士はおりはしませんでしょう。もしそんな騎士がいたら、鍛練を少しばかり厳しくしなくてはいけませんな。街の方もまたしかり。」

「はっはっは。だろうな。」


 盗賊に後れを取ったサリオス達の運命が見える。


「それと、ユート。援軍に来てくれたのか?」

「え?あ、はい。宿から煙が見えたので・・・。必要なかったようですね。」

「はっはっは。ここに刺客を送り込むなら、赤級並の者を束で寄越せというものだ。まだまだ我がトリアーノ家の力をわかっていない輩が多くて困る。」


 困るのかよ。

 ていうか、普通貴族の力ってその家の階級とか財力とか繋がりとかじゃないの?物理の力じゃないと思うよ?


「領主様はこいつらが何者か知っている風でしたが。」

「うん?ああ、そうだな。」


 領主はそれだけ言うと、それ以上は続けなかった。


「旦那様。ここは・・・。」

「ん?なるほど。そうだな。」


 執事のヘリオスが、何やらボソボソと領主に耳打ちする。すると領主が何か納得し、こちらを向いた。


「ユート、後で話がある。先ずは街の安全を確保しなければな。」

「そうだ、街!街に魔物が溢れてるんですよ!」

「報告は聞いている。その為、騎士の半数を街へ向かわせた。」

「冒険者や元冒険者の人達も戦っています。」

「なるほど、そうか。何か後で報酬を用意しなくてはな。」

「俺はもう一度街へ行ってきます。少ないながら知り合いも出来たし、まだ数日ですけどこの街、好きですからね。」

「はっはっは。嬉しいことを言ってくれる。では街の方を頼んだぞ、ユート。こちらは敵の戦力がこの程度とわかったからな。屋敷の外の輩を片付け次第、追加の騎士を街に回す。」

「はい。」


 領主との話が終わると、俺は出口に走り出した。

 ふと後ろを振り替えると、領主とリリーが窓から外へ飛び出して行くところだった。ええー・・・ここ3階なんだけど・・・。


 街へ戻った俺は、魔物の相手は出来るだけ避け(防御力ゼロだし攻撃当たらないしね!)、怪我をした冒険者や騎士を回復して回った。その最中に気付いたが、どうやら一般の人には被害は少ないようだ。冒険者達が上手く立ち回っているおかげだろう。青級だろう少年冒険者達が避難を呼び掛けている姿も見かけた。

 広場も回ったが、イルカの女の子はいなかった。代わりに冒険者達が多くいる。人が増えたため他へ回ったのだろうか。


 たまに災害級に近い危険級も現れたそうだが、熟練の冒険者によって倒されたことなどあったが、ほとんどの魔物が大したことないことなどもあり、突然の混乱は、被害軽微であっけなく収束した。


 その後屋敷の方へ再度行ってみたが、門番の騎士に明日もう一度来てくれと言われた。

 戦闘の後でごたごたしているんだろう。

 帰り際に同僚を助けてくれてありがとうと礼を言われた。倒れていた門番は助かったようだ。よかった。


 宿に戻るとジェンティさんにやたら心配された。その後、街の様子や、領主の屋敷の方の様子も聞かれた。人間による襲撃があったというのは、洩らしていい話なのかわからなかったので、ただ被害はほとんど無い、大丈夫とだけ伝えておいた。

 ジェンティさんやシーザスさんはさすがという風で、特に怪我などもなく、ライラちゃんも宿の客達も全員無事だった。

 あれだけの混乱でこの被害の少なさは、騎士や冒険者達の迅速な行動によるものだろう。信念を持った冒険者が多い世界のパターンか・・・。ふと、そんな事を思うのだった。


 明けて翌日。俺は領主の屋敷の前に来ていた。

 門番の騎士(なんと昨日倒れていた騎士だ)に心からの礼を言われた後、案内が来るから少し待てと待たされている。

 しばらく待っていると屋敷から人が出てきた。ぞろぞろと。

 領主、夫人、リリー、リンリル、ヘリオス。領主一家と執事が勢揃いだ。案内とは?


「よく来たユート。まずはちょっとこちらへ来てくれ。」

「?」


 領主が鍛練場の方へ歩いていく。

 なんだろう?また模擬戦でもやらされるのか?


「あれは一体何なのだろうか?」


 領主の指差す方へ目を向けると、そこには鍛練場で模擬戦をする騎士の一団が。その中に1人(?)異様な人影が見える。

 茶色いボディに愛くるしい姿。リンリルのゴーレムが、騎士達に混じって訓練していた。

 さっとリンリルの様子を見る。何とも言えない変な顔をしていた。


「昨夜、あの後鍛練場の方へ行ったのだがな。すでにあのリンリルの像が全て片付けておった。」


 リンリルつおい。


「なんなんですかあれは!なんなんですかあれは!?」


 リンリルが激おこである。


「昨夜騒動が片付いた後、お父様に鍛練場に面白いものがいると言われて行ったんですよ!そしたらなんですかあれは?像を建てられただけでも恥ずかしいのに、なんで動いているのですか!?」

「えーと、ゴーレム?」

「さらっと言わないで下さい!そうだろうとは思ってましたよ!でもゴーレムを作る魔法なんて、王都の大賢者様くらいしか使えませんよ!はぁはぁ。」


 一気に捲し立て、リンリルが息切れしたところをリリーが代わる。


「しかしすごい強さだぞ。剣筋はリンリルとさして変わらないが、とにかく固い。その上パワーもある。その防御力だけとっても、まるで厄災級の魔物のようだ。」


 どうやらリリーは戦ってみたようだ。厄災級ってなんだろう?災害級の上か?その辺、一度ギルドで確認した方がいいかな。あ、リンディとかでも知ってそうだ。

 しかし、厄災級ね・・・。ちょっと魔力を込めすぎたかもしれない。俺よりも強いんじゃなかろうか。でもゴーレムの魔法はあるんだ。よかった、未知の魔法じゃなくて。


「ゴーレムの魔法とはますます凄いなユート。そこでだ、騎士達もいい訓練の相手になっている。どうだろうか?あれはあのままにしておくというのは・・・。」

「お父様!?」


 そうなんだよなぁ。今ゴーレムは騎士達に混ざって訓練に励んでいる。ゴーレムが訓練して意味があるのかというのは置いておいて、俺は敵を倒せとしか命令しなかったはずなんだけどなぁ。どうなってんだろうか。


「いいですよ。どれくらいの期間動き続けられるのかも知りたいですし、また昨日のようなことが起こるかもしれない。ここを守る戦力として置いておきますよ。」

「ユートさん!?」


 リンリルがガバッとこちらを向くが、自分の家族を守るためと言われては、強く反対できないようだ。


「そうかそうか!それはよかった。これでリンリルと遠く離れても一先ずは寂しくないな。」


 領主は嬉しそうにそう言った。しかし領主の言葉が気にかかった。


「遠く離れる?」


 俺はその部分を領主に聞いてみる。


「そうだ。それを含めてだが話がある。場所を移そうか。」


 領主はそう言うと屋敷の中に入った。あれを見るためだけに家族総出で出てきたのか・・・。


 領主先導で入ってきたのは、昨日最初に案内された部屋だ。

 部屋に入るとそれぞれ席につく。執事のヘリオスは扉の前ではなく、領主の斜め後ろに立った。

 メイドがお茶を運んで退室すると、領主が話を切り出した。


「ユートには話しておこうと思う。」

「なんですか?」

「昨夜の騒ぎの原因だ。それと馬車を襲った盗賊も含めてな。実はあれは王都の貴族の・・・。」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「どうした?」

「いやいや、なんか聞いたらいけない話のような気がするんですけど!?俺なんかが聞いていい話なんですかね!?」

「ううむ。」


 そう言って少し黙る領主。え?今考えてるの?話す前に考えようよ。


「うむ、いや昨夜ヘリオスとも話し合ってだな、話してもいいのではないかという事に纏まった。」


 そう言われて領主の後ろのヘリオスを見る。

 ヘリオスは俺の目を見て頷いた。


「ヘリオスに認められるなんていうのは稀だぞ、ユート。」

「はぁ。」

「それでだ。一連の事件なんだがな。王都の貴族連中の仕業だと思っている。」

「思っている?はっきりわかっている訳じゃないんですね。」

「昨夜捕まえた賊の1人を問い詰めたのだがな。何も答えようとせず、最後には歯に仕込んだ毒で自害しおった。」

「自害・・・。」


 聞いた話だと、窓の外に吹っ飛ばされた連中も皆同じだったようだ。その前に事切れていたものも多かったそうだが。

 外にいた連中はそんなことは無かったそうだが、そいつらは何も知らされていなかったらしい。


「それは派閥争いのようなものですか?」

「恥ずかしい限りだがそうだな。我々の派閥は今の国の腐敗をどうにかしようと思っておってな、今の体制で甘い汁を吸っている連中から疎まれておる。」

「国が・・・。」


 この領都を見る限りいい国だと思ったんだけどな。腐敗してるのか。


「いや、国王様はまともな方なんだがな。悪政の側の勢力が上手くやっておってな、口出しができないような状況なのだよ。」

「・・・。」

「今までは嫌がらせのようなものばかりだったのだが、今回は暴挙に出おった。我が領民に手を出すなど言語道断。こちらも動かねばならぬ。」

「はぁ。」

「少し我が家は騒がしくなると思う。今回のような危険も増えるだろう。そこでユートにはリンリル、リンディの両名を連れて、冒険者として旅に出てもらいたい。」

「旅ですか?」

「そうだ。そもそも冒険者は色々な土地を回って、知識と経験を積んでいくものだからな。リンリルには少し早いがいい機会ではないかということだ。」


 いやいや、俺なんか大分早いと思いますがね?


「そういうことだ。リンリルを頼むぞユート。」

「あ、はい。」


 こうして突然、俺達の旅立ちが決まってしまった。

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