第16話 激突!貴族のパンツ!
「どうぞ・・・。」
頬を真っ赤にしたリンリルが差し出してきたのは、幅の広い半ズボンのようなもの・・・ドロワーズというやつか!
リンディが何か言いたそうにしているが、俺はリンリルからドロワーズを受け取った。
「頼むぞ・・・。」
俺はリンリルのパンツを鑑定してみる。これが駄目なら俺の案は通らない。
『リンリルのパンツ』
貴族級(子爵の娘)。
シルクでできた手触りのいいパンツ。ズロース、またはドロワーズ、ドロワース、ドロワともいう。
防御力 937
キター!ミリィのパンツとは比べ物にならない防御力だ。
やはり入手困難、またはレアな属性持ちのパンツの方が防御力が高いみたいだ。
いや、まだだ。オーガを鑑定していない。
俺は未だ警戒の目を向けているオーガを見た。
『オーガ(変異種)』
災害級。
特徴 稀に発生するオーガの変異種。皮膚が通常のオーガより発達、硬化しており、防御力が異常に高い。その他のステータスは普通のオーガと変わらない。
ステータス
体力 880
魔力 12
攻撃力 912
防御力 1722
素早さ 756
よしっ!リンリルのパンツの防御力の方が上だ。
しかし変異種?変異種ってなんだ?どうやら防御力が高いだけのようだけど・・・。これが全体的にステータスが高いとかだったら、パンツを上回られていた可能性もあった。だけど防御力が高いだけなら俺には関係ない。
「リンディ、あのオーガ普通と違うのか?」
俺の問に、じっとパンツを睨み付けていたリンディがはっとする。
「なに?確かに皮膚の色が違うが・・・。普通、オーガの皮膚はもっとこう青みがかっていて・・・まさか!?」
「変異種ってやつなのかも。」
「くそっ、それなら私の矢が全く通らないわけもわかる。しかし、何も知らないと思っていたのに、変異種は知っているのか?」
「え?いや、イメージと違うなぁって。変異種って言葉はなんとなく知っていただけだよ。」
俺は苦しい言い訳をする。鑑定魔法が一般的かどうか判らない内は隠そうと思っている。
「しかし変異種か。ますます厄介だな。」
「俺に考えがある、だけど、今から見ることは出来るだけ周りに言わないで欲しい。」
完全なチートだったら、俺TUEEEEプレイをするつもりだった。だけど防御力ゼロという弱点を持った、限定的なチートだったらどうだろう。
例えば攻撃力だけを見られて、難易度の高い魔物の討伐に駆り出されたら。パンツを超える魔物が出てきたら、俺はその場で何もできずに殺されそうだ。あるいは腕自慢に勝負を申し込まれたら。場所にもよるが、衆人環視の中、幼女のパンツを振り回していたら変態だ。
そういうわけで、出来るだけ能力は隠す方向へ持っていくことに決めたのだ。
だけど今はそんなことは言っていられない。自分自身と女の子二人の命がかかっている。
「何か理由があるんだな?わかった。これでも騎士だからな。口は固い方だと思うぞ。」
「ありがとうリンディ。」
「私も誰にも言いませんよ。」
「リンリルもありがとう。」
リンリルがモジモジしながら答える。跨がスースーするのだろうか。
「じゃ、行ってくる。」
「は?」
案や策などというものなんか何もないと言わんばかりに、真っ正面からオーガに向かって走り出した俺の背中に、リンディの間抜けな声が飛ぶ。
しかしそんなのは構っていられない。スピードはオーガに負けている。相手から目は逸らせない。俺は身体強化をかけながらオーガに迫った。
オーガの腕が振り上げられる。
「「ユート!」さん!」
俺は左手で持っていたリンリルのパンツで受け止めた。
ドーンという重く鈍い音が空気を震わす。
俺の足が柔らかい森の土にめり込むが、オーガの拳はリンリルのパンツに阻まれていた。
「よし!」
攻撃さえ無効化できれば、それに付随する力は俺の力で相殺できる。
受け止められた事を確認し、直ぐ様アイスランスを放つ。オーガはそれを、体を捻って回避した。
「くっそ。この距離で避けるのかよ!」
オーガは体勢を立て直すと、左右の腕で連打を打ってきた。
「うお!?うおおおお?」
まるでボクシングの世界チャンピオンの試合を早送りしているかのような連打を、パンツで受け止める。
スピードで完全に上回っているオーガのパンチは、俺には捉えきれなかった。だがオーガの拳が大きいこと、それに比べて的になる俺の体が小さいこと、何よりリンリルのパンツが大きいこと。それら全てが合わさって、なんとか防げた。
オーガは自分の攻撃が全て防がれたことに少し後ずさって警戒した。
「ユート!大丈夫なのか!?」
「大丈夫、大丈夫。」
心配するリンディにひらひらと手を振って答えるが、それほど大丈夫ではない。
正直あんな化け物に、至近距離から致死の連打を食らう経験なんて地球では無いからな。ビビってますよ?
足がちょっとプルプルしてる。これはとっさの時にまずそうだ。
俺はオーガを睨み付けたまま、自分の足をバンバンと叩いた。
「さてどうするか・・・。」
一撃を受け止めてもかわされた。危険を感じたら巨体とは思えない早さで後退する。やっぱりここは・・・。
俺は思いきり両手を地面に叩きつけた。
同時にオーガの背後に土の壁がせり上がる。岩のようにガチガチに硬化した、厚さ1メートルはある壁だ。
ストーンウォール、土魔法だ。
別に地面に手をつく必要はないが、格好は大事だからな。
オーガがせり上がった壁に一瞬怯む。
今だ!
火魔法の応用で自分のすぐ後方に爆裂魔法を撃ち込む。直後起きた激しい爆風をリンリルのパンツで受け止め、同時にオーガに向かって地面を蹴った。
「うおぉぉぉぉ!」
前に漫画で見たことのある方法だ。
爆風の勢いを追加して俺はオーガに急迫した。
オーガはストーンウォールに気を取られていたため、腰の入っていないパンチで迎え撃ってくる。
遅い。さっきまでのパンチに比べると格段に遅かった。
俺はそれをパンツで受け止め、後ろに飛ばされそうになるのを、体を捻って前への慣性を殺さないようにオーガの懐に潜り込み・・・。
「アイスバレット!」
氷の散弾がオーガを襲う。
無数の氷の弾丸をオーガは避けきれず、肩と足を穿った。
不安定な体勢からパンチを放ったオーガは足を穿たれ、バランスを崩して前のめりに倒れこんでくる。
「ここだああ!」
俺はこちらへ倒れてくるオーガの横っ面に、リンリルのパンツごと拳を叩き込んだ。
インパクトの瞬間、俺の拳を噛み砕こうとオーガが大きく口を開ける。
しかしパンツを纏った俺の拳は、そのずらりと並ぶ鋭利な歯を粉砕し、そのまま頬の内側から突き破った。
オーガの首はその衝撃でギュルギュルと回り、遂にはねじ切れて飛び
近くの木に当たって地に落ちた。
「良かった、うまくいった。」
俺は爪先でオーガを軽く小突いてみる。
どうやらちゃんと死んでいるようだ。首がなくても多少は動けるとか、そういう類いではないらしい。
「おーい、うまく倒せたみたいだぞ。」
振り返りリンリル達に手を振るが反応がない。
二人とも、バカみたいに口を開けて固まっている。こら、リンリル。幼女とはいえ貴族だろ。口を閉じなさい。
二人に動きがないので、飛んでいったオーガの頭を回収したりしていると。
「お、おい、ユート?倒した?オーガの変異種を?」
「ん?オーガって首がちぎれても実はまだ死んでなかったりするのか?」
「そんなわけあるか!神話級の魔物ならともかく、首がちぎれたら普通死ぬ。」
神話級ってなんだ。取り敢えず字面からするととんでもなくヤバそうなので、物凄いパンツが手に入るまでは会いたくない。いや、できれば手に入ったとしても会いたくない。
「本当に死んでいるのか?」
恐る恐る二人が近づいてくる。
オーガを覗き込んだリンディは、再び驚いた。
「一体どうやったんだ?オーガの攻撃を受け止めていたように見えたが。」
「それは・・・。」
どうしようもなく、他人の前でパンツを使った戦闘をしてしまったが、これはどう説明したものだろうか。
・・・そうだ。他人という枠を一歩超えてみたらどうだろうか。
「リンリル、リンディ。話があるんだ。」
「なんだ?改まって。」
「説明はしておいた方がいいとは思うんだけど、あまり人に言える話じゃなくてさ。それでお願いだ。俺と本当のパーティメンバーになってくれ。」
俺の言葉に二人は難しい顔をした。
やっぱりこんな素性の知れない男と、貴族のお嬢様が正式にパーティを組むのは不味いのだろうか。
「ユート。お前は本当に変な奴だな。」
「え?なにが?」
「お前はとっくに私達のパーティの一員だぞ。ギルドにも届けを出してある。」
「え?俺みたいな訳の判らない奴でいいのか?」
「冒険者なんてほとんどが素性の知れない奴だ。ユートはその中でも本当に意味が判らないが、人間としてはかなりいい方だと思うぞ。それにリンリル様がこれから冒険者としてやっていくのに、パーティメンバーは必要だしな。」
リンリルもコクコクと頷いている。
「そうだったのか・・・。ありがとう。改めてよろしくお願いするよ。」
「はい。」
「ああ。」
「それで、オーガが倒せた事の説明なんだけど・・・。」
俺は、俺の秘密を守ってくれそうなパーティメンバーの二人に話し出した。
連休が終わり、忙しくなってしまったので更新が大分空いてしまいました。
これからも出来るだけ頑張って更新していきますので、よろしくお願いします。