第15話 超ピンチ!みんな!オラにパンツを分けてくれ!
「オーガ!?」
森の奥から姿を現したのは、額から角を生やした、赤茶けた肌をした4メートルほどの巨人だった。
「でけぇ!?リンディ、逃げた方がいいんじゃないか!?」
「この距離まで接近されたら全員無事では逃げられない!それにユート、足は動くのか?」
やはりリンディには見抜かれていたみたいだ。
「俺達でなんとかなるのか?」
「なるわけないだろう。相手は災害級だぞ。緑級がパーティで挑んでも危うい魔物だ。」
「え?じゃあどうするんだ?」
「私がなんとか食い止めるから、リンリル様を連れて逃げろ。」
「は?無事で逃げられないって言ったのはリンディだろ?リンディだけなら逃げられるのか?」
「さぁ、どうだろうな。」
「おま、どうだろうなって・・・。」
「ぐずぐずするな!くるぞ!」
リンディが話を打ち切って矢を番える。放たれた矢は真っ直ぐにオーガの額に向かって飛んでいくが、オーガはそれを軽々と避けた。
「くそっ!」
俺にとっては神業とも呼べる速度で次々と矢は放たれる。今度は大きな的である胴体に向かうが、矢はその皮膚を貫けず地に落ちた。
しかし、それでオーガの意識がリンディに向いた。
「行け!ユート!」
リンディはオーガの意識を完全に俺達から外す為、矢を放ちながら俺達から離れていく。
俺は動かなかった足を強引に動かし、リンリルの手を取る。
「リンリル!行くぞ!」
俺はリンリルに声をかけその腕を引くが、リンリルは動かなかった。
「リンリル?」
俺はそんなリンリルに声をかけ、もう一度腕を引く。
「ユートさん。」
「どうした?早くしないと・・・。」
「私は行きません。」
「え?」
「リンディを見捨てては行けません。リンディとの付き合いは短いですが、名前が似ているということで仲良くしていたんです。オーガは確かに私の手には負えません。だけど、1人より2人の方が生き残れる可能性は高いと思います。」
「いや、そうは言ってもさすがに2人になってもあれは無理じゃないか?それにリンリルは貴族だろ?自分の身を守ることも大事じゃないのか?」
「そうかもしれません。しかし、仲間を見捨てて逃げるような人間が、領民を守れる貴族になれるとも思えません。」
リンリルの言うことは正しいのかもしれないが、今この場面では子供の青臭い理想にすぎない。
だけど。
「わかった。だけどリンリルはだめだ。」
「ユートさん?」
「リンリルの言うことはわかるけど、リンリルは貴族だ。危険な目にあわせるわけにはいかない。」
「今の私は冒険者です!」
「わかってるよ、だけどここは俺が行くよ。」
「だけどユートさん!」
「リンリルはここから動かないで。」
そう言うと俺は走り出した。
リンディの誘導でオーガの姿は森の奥に消えようとしている。
俺とリンリルが逃げるという目的なら、これ以上ないほどうまくいっているんだろうな。
そんな事を思いながらも、俺もリンディを置いて逃げる事には賛成はできなかった。
ただ、リンディの真剣な目を見て、その決意を無駄にしちゃいけない気がしていただけだ。
「あれだけ的がでかけりゃ!」
俺はオーガの背後からアイスランスをぶっ放した。
1メートルはある氷の槍が、オーガめがけて飛んでいく。
しかしそれは、胴体を貫く直前、オーガに身を捻られてかわされた。
「うそだろ!?」
でかい図体のくせになんだよその反応速度。
リンディの矢は避けないのに、アイスランスは避けられた。
本能的に食らっては駄目なものはわかるのだろうか。
「くっそ、どっかのハゲた異星人みたいに受け止めろよ。」
アイスランスを避けたオーガがこっちを向いた。
より驚異度の高い方が攻撃対象になったようだ。
そんなオーガの後ろから声が飛ぶ。
「ユート!?何してるんだ!リンリル様を連れて逃げろと言っただろう!」
「リンリルがリンディを置いては行けないって言ってんだよ!」
「何をバカなことを!無理矢理にでも連れて逃げろ!」
「俺だってリンディを殺させたくないんだよ!せっかく綺麗に治してやったのに無駄にすんな!・・・っ!」
リンディとの会話に気を取られていたら、オーガがいつの間にか目前まで迫っていた。
「うおぉ!?やべぇ!」
俺は大袈裟に横っ飛びで数メートルの距離を転がる。その直後、俺がいた辺りの木が、根本から粉砕された。オーガの拳が原因のようだ。
「マジかよ・・・。たまたま避けられたからいいけど、あんなの当たったら一発でアウトだな。」
すぐに方向転換し、向かって来ようとするオーガの頭部に無数の矢が飛んでくる。煩わしそうに腕でそれを払い除ける間、オーガの動きが止まった。
その隙にリンディが俺の横まで滑り込んできた。
「その様子では何か策があって飛び込んできたわけじゃなさそうだな。」
「策な。策は無いけど、勝てるかもしれない案はある。」
「あるのか!?しかも勝てる!?」
「あぁ・・・って、うおぉあ!?」
オーガが遠距離からの攻撃を嫌って、倒木を投げつけてきた。リンディは余裕をもって、俺はギリギリ奇跡的に避ける。
「あぶねぇ!」
「動きは素人同然じゃないか。それでどうやってオーガに勝つんだ?」
「それは・・・。」
立ち上がった俺は、オーガに向けてアイスバレットを飛ばす。
数で攻めれば当たるだろうと思ったが、あの巨体でどうやっているのか、全てかわされた。
「魔法は自分の能力に依存するぞ?いくら手数が多くても、格上の相手にはそうそう当たらない。」
「え!?なにそれ!?」
「なんでそんなことも知らないんだ。基本中の基本だぞ?凄い魔法が使えるのに、つくづく変なやつだな。」
なんだそれ!?ていうことはあれか?速度、大きさ、手数に関係なく、素早さに差があったら当たらないってことか?なんだそのゲームみたいな仕様は!
これじゃ魔法チートがあっても当たらないじゃないか・・・。
「それで?案っていうのは今の魔法か?」
「いや・・・。」
案はある。
1つは回避なんて関係ないレベルの範囲魔法をぶっ放す事だ。
指向性の魔法は、さっきの話だとどんな魔法でも避けられそうだ。だが、辺り一面に効果を及ぼすような魔法なら避けようもないだろう。
しかしそれでは近くにるリンリルとリンディも巻き込んでしまう。
そしてもう1つ・・・。
「なんだ?どうした?案があるなら早くしてくれ。」
黙ってしまった俺をリンディが急かす。
オーガはアイスバレットを警戒して、距離を置いてこちらを威嚇している。
そうか、距離が近ければ命中率は上がるのかもしれない。しかし明らかにオーガの身体能力の方が上だ。警戒してしまった相手に、魔法を狙って近づけるだろうか?
「なぁ、あいつ魔法を警戒して近づいてこないみたいだけど、今なら逃げられないか?」
「背中を向けた時点で後ろから殴り殺されるぞ。」
「・・・。」
「それで案はなんだ?オーガもいつまでもああしている訳じゃないぞ?」
「それは・・・。」
「それは?」
「リンディ・・・パンツを脱いでくれないか?」
決死の覚悟で言ってやった。
幼女ではないが可愛い女の子だ。俺の仮説が正しければ、パンツに防御力くらいあるだろう。
そう思い言ってみた。そしてリンディの方を見ると。
「リンディさん?狙いが大分ズレていますよ?」
「大丈夫だ。これであっている。」
リンディは俺の眉間に至近距離から矢を向けていた。
いやいや、引き絞ってる引き絞ってる!目がマジだから!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!冗談じゃないんだ!ほんとに勝てる案なんだよ!」
「なんだ?私がオーガを誘惑でもするのか?ゴブリンやオークならともかく、オーガは人間を食料としか見ていないぞ?」
リンディは矢の照準を変えない。
「違うって!オーガを誘惑するんじゃなくって、俺がリンディのパンツが欲しいんだよ!」
「・・・ユート。私達を盗賊から助けてくれたことには感謝している。魔法の実力にも一目置いている。だから大抵の頼みは聞いてやりたいが、状況を考えろ。」
「いや、だって・・・。」
リンディはそっと矢を俺の額から外し、その先端をオーガに向けた。そして続ける。
「ユートがどうしても欲しいっていうなら・・・。生きて帰れたら・・・ユートの泊まっている宿へ行くから、その時にでもだな・・・。」
リンディの言葉は、最後の方はゴニョゴニョと何を言っているのか聞き取れなかった。耳が赤いのだけはわかる。
「いやいや、今欲しいんだよ!今脱いでくれ!」
「変態かお前は!そういうのは日を改めて・・・。」
「私が脱ぎます!」
「「へ?」」
突然の答えにリンディと二人で変な声が出た。
「リンリル様!?何故こちらに来てるんですか!」
「今、ユートさんが必要としてるんですよね?私はユートさんを信じます!だからリンディは脱がなくていいです!私のでは駄目ですか?」
「え?いや、できればリンリルの方が嬉しいけど・・・。」
「なんだと!?ユート貴様!私にそんな恥ずかしい事をさせようとしておいて、リンリル様の方がいいだと!?リンリル様はまだ8才だぞ!」
「歳は関係ないじゃないですか!なんですか?リンディ、やきもちですか?」
「いや、関係ある!8才っていうのが最高だ!」
「やっぱり変態か!」
リンディが激昂するが、今は説明している暇がない。
するとリンリルが後ろの木の陰に隠れた。
「ぬ、脱ぎますので見ないで下さいね。」
「リンリル様!?」
そうして俺の後ろから、カチャカチャと装備を外す音が聞こえてきた。
PV数がジワジワと伸びてきていてありがたいです。
できればブクマと、最新話本文下から評価なんかもしていただけるとやる気がみなぎります。
よろしくお願いします。