第11話 薬草採取はやっぱり所詮薬草採取だった。
俺達は街から30分ほど歩いたところにある林にやって来ていた。
木々の感覚は広く、木漏れ日で明るい。
それほど大きな林でも無いし、街からも近いので、ちらほら小動物がいるくらいで魔物なんかはいないらしい。
俺達三人は間隔を開けて並び、足元に注意しながら歩いている。
時折リンリルたちの歓声が上がる。
「ありました!リンディ、これはキズリーバの葉ですよね?」
「そうです。やりますねリンリル様。これでリンリル様が発見されたのは三つ目ですよ。」
「えへへー。」
薬草を見つける度に嬉しそうにし、年相応に笑顔を見せる。可愛い。
俺はというと。
「ユートさん、頑張って下さい。」
「ユートはまだゼロか。」
そう、俺はまだ一つも見つけていない。
そらそうだ。なんたって筆記試験0点だぞ!この世界の薬草なんか見て分かるわけ無い。
「安心しろ。私達はパーティだ。仮にユートが一つも見つけられなくても、報酬は等分だ。」
リンディはそう言ってくれるが、幼女が頑張って見つけた薬草の報酬を分けて貰うのはなぁ。
さすがにそれは気が引ける。
ここは少しズルをしてもいいだろう。いや、これも俺の能力なんだからズルではないな。
俺は足元の草に片っ端から鑑定魔法をかけて回る。
『キズリーバの葉』
傷の治りを助ける成分を含んだ葉。
絆創膏のように傷に貼り付けて使う。
『セイロンの実』
黒い小さな丸い実。腹痛によく効く。
小さく黒い為、見つけにくい。
おお、あるある。
こうして見ると結構あるもんだ。
セイロンの実なんて鑑定結果が出ても、何処にあるのか分かんなかったよ。
黒くて小さいのが土から直で生えてるんだもの。
俺は鑑定をしながら、片っ端から集めて回った。
「そろそろ帰りましょうか。」
リンリルが声をあげる。
夢中で採取していたせいで、結構な時間が経っていることに気づかなかった。
「ユートは途中からずっと黙っていたが、成果は挙げられたのか?」
そう言いながらリンディが俺の持っている袋を覗き込んでくる。
「え?おお!すごいじゃないかユート。途中まで全くダメだったのにどうしたんだ?お、これはセイロンの実か?よく見つけたな。」
「おおー、ユートさんすごいです!私、完全に負けちゃってますね。」
俺の成果を見て、二人とも褒めてくれる。
でもリンディも経験からか、俺と同じくらい採取していた。リンリルは俺の半分くらいか。
でもなんかやっぱりズルしたみたいで悪いなぁ。
「では早速帰ってギルドで買い取りに出そう。」
「普通に買い取りに出すのか?常時依頼はどうなるんだ?」
そういえば、ギルドを出るときに薬草採取の常時依頼って受けてないぞ?
「常時依頼というのはな、素材を買い取りに出した時に、必要な数が揃っていれば勝手に達成したことになるんだ。討伐系の常時依頼も同じで、討伐対象の素材が必要数あれば達成になる。」
なるほど、それは便利だな。
他の依頼の最中や、移動時等にたまたま見つけたりしても無駄にならない訳か。今度から少し気にしておこうかな。
「それじゃ帰るぞ。」
「おー。」
・・・・・・
「買い取り金額は常時依頼報酬も合わせて、大銀貨1枚に銀貨2枚ですね。」
ギルドの買い取り金額はカウンターで、綺麗な栗色の髪のお姉さんがそう言った。
あれだけあってそれだけ?ほんとに?
「え?それだけなんですか?ほら、よく見てください。セイロンの実とかありますよ。見つけにくいものじゃないんですか?」
慌ててお姉さんに詰め寄ってみるが。
「そうですね。野生のセイロンの実をこんなに見つけてくるなんて、凄いことですよ。」
「野生の?」
「そうです。セイロンの実は見つけにくい上に需要があるので、一昔前まではそれなりの価格で取引されていました。しかし、数十年前に栽培法が確立されまして、今では薬師が家庭菜園で育てていますからね。それでも需要はあるので買い取りはさせて頂きますけど。」
Oh!家庭菜園!?マジかよ・・・。
てっきり希少な薬草だと思って相当数集めたのに、常時依頼の対象にすら入ってなかった・・・。
「それではこちらが買い取り金になります。お確かめください。」
そう言って大きめの銀貨1枚と、小さな銀貨を2枚出してくる。
「これだと一人頭、銀貨4枚か・・・。」
「お?計算早いなユート。やっぱり魔法職は頭がいいんだな。」
「いや、そういう訳じゃないと思うけど。」
謙遜をしてみるが、そんな俺の横ではリンリルが指を折りながら計算していた。
「ほんとです!一人銀貨4枚ですね。すごいです、ユートさん。」
やめてくれえぇぇ。そんな純粋なキラキラした目で見ないでくれえぇ。これくらい、日本の高校生なら誰でも出来るんだよぉ。
しかし、これはまずい。あれだけ頑張って銀貨4枚。宿代にも達していない。どうするか・・・。
あ、そうだ。
「あ、すいません。今思い出したんですけど、この街に来る前に魔物を倒しまして、その魔物を一匹持っているんですが買い取り出来ますか?」
買い取り担当のお姉さんに聞いてみる。
「え?あ、はい。大丈夫ですよ。それはいいんですが、何処に持ってるんですか?」
「あ。」
しまった。ブラッドウルフはアイテムボックスに入れたんだった。
ここで出してしまってもいいんだろうか?
俺はどうしようと思ったが、ずっと隠し続けるのも無理が出てきそうだ。
一応リンディに確認しておこうか。リンディなら、もしアイテムボックスがとんでもスキルだったとしても、口が固そうではある。
「ちょっと待ってくださいね。リンディちょっと。」
「なんだ?」
俺はリンディを手招きすると、近づいてきたリンディの耳元でそっと質問した。
「実は魔法でここにはない空間を作って、そこに獲物を入れてるんだけど、これって変かな?」
「?収納魔法のことか?それなら魔法職の者の中にはそれなりに使い手がいるぞ?しかし、ユート。まだ駆け出しの冒険者で収納魔法が使えるのか?実はユートは凄い男なのでは・・・って、そうか。私の火傷を跡形もなく消してくれたんだったな。そんなユートが収納魔法を使えても不思議じゃない。」
「そうか?よかった。」
どうやら収納魔法というものは一般的らしい。
「お待たせしました。実は収納魔法が使えまして。えっと、これを。」
そう言うと俺は、カウンターの上にブラッドウルフの頭部と胴体を取り出した。
「え?これ、ブラッドウルフですか?あれ?あなたって今日の実技で一歩も動けずに気絶していた人ですよね?」
見てたんかーい!暇なのか?いや、買取カウンターなんて、冒険者が依頼を終えて帰ってくるまでは実際暇なんだろう。
「わあ、しかも首が綺麗に切断されている以外、何処にも傷が無いじゃないですか。どうやって倒したんです?」
「え?いや、それは。」
幼女のパンツを咥えさせている間に首ちょんぱしたなんて言えない。
「あ、すいません。冒険者の技能は詮索禁止ですよね。あまりに驚いたもので。ちょっと待ってください。」
俺に謝ると、お姉さんはブラッドウルフを観察し始めた。と、思ったらすぐに硬貨を数え始めた。
「はい、毛皮や爪、牙等に傷が無い非常に状態のいいものですので、少し色を付けさせてもらいまして、大銀貨3枚でいかがでしょうか?」
そう言って大きい銀貨を3枚カウンターの上に置いた。
さすが買い取り担当。素材の鑑定が一瞬だ。なにかそういうスキルでも持っているんだろうか。
しかし、大銀貨3枚か。相場が分からないけど、取り敢えず宿には泊まれそうだ。
「それでかまわないです。」
そう言って俺は、カウンターの上の大銀貨を受け取った。
「それじゃ、二人とも。この後はどうするんだ?」
振り返り、後ろにいた二人に声をかけるが返事がない。
驚いたような顔でこっちを見て固まっている。
あ、動いた。
「ユ、ユート?ブラッドウルフだよな?それ。危険級の。」
「?そういえば危険級とか言ってたっけ。」
「どうやって倒したんだ?いや、詮索はよくないのは分かっているが、ブラッドウルフは私でもソロ討伐は苦労するんだが・・・。」
無理ではないのか。さすがリンディ。ほんと、なんで盗賊の魔法なんか食らったんだろうか。
「ああ、いや。たまたま、たまたまだよ。」
「たまたまで倒せるほど知性の低い魔物ではないんだが・・・。」
「まぁ、そこは想像に任せるとして。」
「うーん、まぁそうか。すまないな。」
俺とリンディがやり取りをしていると、可愛く口を開けてフリーズしていたリンリルもようやく動き出した。貴族が口を開けて放心していいのだろうか。
「びっくりしました。ユートさんはやっぱり強いんですね。」
「あはは。」
日本人奥義、笑って誤魔化す。
「では、ユートさん。私達はこれでお屋敷の方へ帰りますね。また、明日もよろしくお願いします。」
「ん?明日?」
「何を呆けてるんだ、ユート。まさか冒険者になって、薬草採取をしただけで明日は休日にでもするつもりか?」
「え?ああ、そうか。いや、そんなつもりはないよ。じゃ、明日な。」
そうか、俺達はパーティを組んだんだったな。てっきり思い付きのその日限りかと思っていたけど、リンリル達はそうじゃなかったらしい。そっちの方が俺にとっても嬉しい。
「それでは明日。お休みなさい、ユートさん。」
「うん、お休み。」
俺はリンリル達と別れ、宿に向かうことにした。
今年最後の更新です。
なんとか毎日更新のまま年を終えられました。
それでは、いいお年を!