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第10話 ヒーラーになった俺は、幼女様の護衛に付く。

 取り敢えず冒険者登録は無事(?)終わった。

 俺はぐったりしてギルドのカウンターまで戻ってきた。


「試験合格おめでとうございます。こちらがギルドカードになります。失くしたりしないでくださいね。それとレイアの件、ありがとうございました。」


 すぐに連絡がいっていたらしく、最初に試験の受付をしてくれ、病室では看病をしてくれていたらしい受付嬢が、嬉しそうな笑顔でお礼を言った。


「レイアさんとは仲がいいんですか?」

「レイアがまだ新人冒険者だった頃からよく担当していたんですよ。いいところまで行ってたんですけどねー。安全を求めてギルド職員に転職するとは・・・。」

「そうなんですか。治せて良かったです。」


 俺は受付嬢からギルドカードを受け取って確認した。

 よく分からない金属でできたプレートで、そこにはこう記してあった。


 名前 ユート

 等級 青級冒険者

 職業 ヒーラー


 おおぅ、ほんとにヒーラーで登録されてるよ・・・。

 まぁ、でもヒーラーが剣を使ったり、攻撃魔法を使ったりしてはいけない訳じゃないし、好きなようにやるか。

 それにしても青級冒険者か。そういえば何等級まであるんだ?よくあるアルファベットだったら分かりやすいのに。そう思って受付嬢に聞いてみた。


「冒険者の等級は、最初の青級から始まり、黄、緑、赤、金、虹とあります。上の等級になると色々報酬なども上がりますし、指名依頼なんかも来たりするので頑張って下さいね。」


 受付嬢から等級についての説明を聞き、ギルドカードを受け取った俺は、依頼が貼ってある掲示板の前まで行く。

 すぐにでも仕事をしなければ、今夜は野宿になってしまう。


「おい、あんた。御愁傷様だな。」

「?」


 突然声をかけられ振り向くと、腰に剣をさげた若い冒険者が苦笑いぎみにこっちを見ていた。


「どういう意味だ?」


 意味が分からず、俺は聞いてみた。


「どういう意味も何も、実技があれじゃなぁ。さすがに棒立ちのまま気絶して、試験を受かったなんて話は聞いたことがないぜ?」

「ああ、そういう。」


 どうやらあのとき野次馬をしていた冒険者の一人らしい。俺が気絶していた間もまだここにいたのか。暇なのか?


「試験は受かったよ。なんでもヒーラーとしての素質があったんだってさ。」


 嘘は言ってない。現にヒーラーで登録されちゃったし。


「ヒーラー?お前ヒーラーだったのか?だったらうちに入らないか?うちはまだ黄級なんだが、ヒーラーがいなくってな。ほら、ヒーラーって女が多いだろ?うちみたいな男だらけのパーティーになかなか入ってくれなくてよ。」


 やっぱりヒーラーは女の子なのか。

 しかし、男ばかりのパーティー・・・。なんとかお断りしたい。


「取り敢えず宿代を稼ぐために依頼をしたいんだよね。それで一人でどれだけやれるかも試してみたい。だから今は遠慮させてくれ。」


 俺がとりあえずの断りを入れると、剣士の男はキョトンとした。


「もう昼過ぎだぜ?まとまった金を稼げる依頼なんて残ってないぞ?残ってるのは薬草採取とか小遣い程度の常時依頼と、なかなか受注されない高難度の依頼だけだ。俺達も今日は寝過ごしちまってよ。まともな依頼がないからここでだらだらしてるってわけだ。」


 なんだって?

 俺は慌てて掲示板を確認する。

 ・・・ほんとだ。銀貨1、2枚程度の採取依頼と、なんか大金貨2枚とかいうヤバそうな依頼しかなかった。

 マジか・・・。


「あれ?ユートさんじゃないですか。」


 またも声をかけられた。

 緊張した顔になった剣士の男を気にしつつ振り向くと。


「あれ?リンリル?」


 そこにはリンリルと、俺が火傷を治してやったリンディが立っていた。

 リンリルはニコニコとこちらを見上げている。


「おい、バカ。領主様の娘だぞ。なにいきなり呼び捨てにしてるんだ。」


 慌てた剣士の男が止めに入る。

 そうだった。道中楽しく話をしていて友達気分だったが、リンリルは領主の娘だった。


「あ、すいません。リンリル様。」

「やめてください。今はただの冒険者リンリルですよ。それにユートさんは私達やリンディの命の恩人です。リンリルでかまいません。」

「え、あ?そうか?」


 ニコニコとリンリルはそう言うが、それどうなんだろうか?側に立つリンディに目をやるとニッコリしながら頷いた。

 いいのか。


「おい、お前。リンリル様の命の恩人ってなんだ?いや、まぁいい。取り敢えず今日は退散しとくわ。パーティー、考えておいてくれ。」


 そう言うと剣士の男はそそくさと去っていった。

 領主の娘を前に緊張してんのかな?意外と肝が小さいのかもしれない。


「それでリンリルは何故こんなところにいるんだ?いや、まて冒険者って言ったか?まさか・・・。」

「そうですよ。まだ登録したばかりなので青級ですけど。これでも貴族の娘として剣を多少嗜んでいるのです。それに元緑級冒険者のリンディも一緒なので安心ですよ。」


 俺の問いにリンリルはニコニコとした顔を崩さず答える。

 安心なのか?リンディは盗賊の襲撃で不意を突かれ、瀕死にまでなっていたはずだが・・・。

 というよりも貴族が冒険者ってなんだろう?よくある貴族のお遊びだろうか?


「やっぱり貴族が冒険者をやっているのって変ですか?」


 俺の心を読んだようにリンリルが聞いてくる。


「いや、変っていうか危険じゃないか?」

「それは危険ですね。しかし私の家では代々全員が、一度冒険者を経験するのです。冒険者は色々な人とめぐりあい、その領地に住む人達の顔がよく見えます。それに、今どういうことで領民達が困っているのか、ということも分かりますしね。」


 なんて領民想いの領主なんだろうか。

 そうか。冒険者登録したのは、ギルドにちょくちょく顔を出してもおかしくないというポーズかな。


「それに私のお姉様は赤級冒険者まで行ったんですよ!知りませんか?『暴風のリリー』という二つ名で呼ばれてたんですけど。」


 違った!ポーズじゃなかった!ガッツリ冒険者をやっておられる!

 しかも二つ名まで付いていらっしゃる!暴風?なんじゃそりゃ?リンリルの姉はどんなゴリラなんだろうか。


「お姉様はもう冒険者を引退されて、今は領地の経営を学んでいます。それで私もいい歳になりましたので、こうして冒険者をやることになったんです。」


 全員が冒険者をやるってどうなの?万が一があったら御家がなくなったりしないのだろうか?

 そう思ってると、黙って立っていたリンディが、なにやらヒソヒソとリンリルに耳打ちする。するとリンリルは少し驚いた顔で俺の方を見て、嬉しそうな顔をする。少し頬が赤い。


「ユートさん。もしよければ私達とパーティを組みませんか?」

「え?」


 突然の申し出に今度は俺が驚いた。

 俺が領主の娘とパーティ?

 確かにリンリルは可愛らしく、俺より少し年上っぽいリンディも綺麗な顔立ちをしている。うんうん、この顔に火傷の痕が残らなくて良かったよ。


「ユートは優秀な回復魔法の使い手だ。リンリル様にもしもの事があった場合、回復薬などは多めに用意しているが、ユートがパーティにいると心強い。」


 今度はリンディが俺を誘ってくる。

 なるほど、そういうことか。

 俺はリンリルがピンチになったときの保険って訳ね。


「そういうことなら。」


 俺もリンリルと知り合ってしまったからな。

 俺の知らないところで、リンリルにもしもの事があったら俺だって嫌だ。

 それに可愛い女の子(一人は幼女)二人とパーティを組む事の何処に拒否する要素があるというのか。これでさっきの男臭いパーティは断れるしね!


「では早速、薬草採取に出掛けましょう!」


 嬉しそうにリンリルが言った。


 ヤクソウサイシュ?


 あれか?頑張っても銀貨数枚にしかならないあれか?

 三人パーティで?

 一人いくら?

 そうか、リンリルは領主の娘だった。報酬が少なくたって生活は困らないんだった。


「薬草採取に行くのか?」


 取り敢えず聞いてみた。


「当然だろう?この時間じゃ、私達が受けられる依頼はそれくらいしか残っていない。」

「旅から帰ったところですからね。」

「そうだ、旅だ。旅から帰って、いきなり冒険者として活動するのか?」


 そういえばリンリルは馬車の旅から帰ってきたところだったな。


「旅と言っても隣の街ですからね。早朝出発してお昼過ぎに到着したんですよ。お父様への報告の後、時間が空いたので薬草採取にでも出掛けようという話になりました。」


 なるほど、意外とタフな幼女様だった。


「それでは行きましょう!」


 斯くして俺は、幼女なお嬢様の主治医的な立場で冒険者生活をスタートするのだった。

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