5話 前途多難
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【生き残れ】 異世界攻略part1
――――略。
201:名無しの指揮官
つまりまとめるとだ。この水は死んでない限り病気や怪我をいくらでも癒すスーパーアイテムで、
どれだけ飲んでも副作用も起きない薬品会社ブチギレの一品。
しかも尽きる気配は無く、ただの飲料水としても使用可。
ダンジョン攻略するなら積極的に使っていけという事か。
202:名無しの無職
都合が良すぎて逆にこえぇよwww
203:名無しの村人
大丈夫? 実は判明していない効果で改造人間になったりしない?
204:名無しの情報屋
既に【三つの質問】転生時の出来事について語るスレpart1に書き込みされていたが、もう俺ら転生するときに運営(仮)に肉体改造され済みらしいので今更。
205:名無しの錬金術師
深く考えると怖すぎな
206:名無しの指揮官
実際問題、この水以外に飲料水が見つかった報告が未だ無い時点でいずれ飲まないと死ぬ。水を飲まずに生きられるのは普通なら3日ぐらいか? 死なないだけで加速度的に体は弱るしな。一日水を飲まないだけで十分危険だし意識が朦朧とするぞ。
というかなぜ色々なダンジョンの型があるのに飲める水がないのか。作為を感じるぞ。
207:名無しの無職
教授のアビリティの真理探究の信頼度も分かってないからなぁ。
208:名無しの学徒
関係ないけど教授に【真理探究】って露骨に合ってるし聞いた限りじゃジョブスキルともシナジー高いなw
209:名無しの教授
私も突然得た力だし、自分でも根拠が弱いとは思ってるよー。
できればマウス等で実験したいけど、短期間で確保出来る余裕あるかなー。
210:名無しの遊び人
え、飲んじゃったけど
211:名無しの学徒
勇者あらわるwwwwww
212:名無しの無職
人柱サンクスwww
213:名無しの指揮官
>>210 どうだった?
214:名無しの遊び人
おいしかった
215:名無しの学徒
違うwww
216:名無しの学徒
いきなり面白いやつ出てきたな
217:名無しの遊び人
???? 味は山登りした時に飲んだ湧き水みたいなスッキリした感じだった。
218:名無しの村人
味の詳細じゃねぇ!!www
219:名無しの剣士
腹痛いwwwwww
220:名無しの指揮官
>>217
いやまあ味も毒物を判断する上で重要な要素ではあるが……。
体に違和感とか無いか?
221:名無しの遊び人
特に何もないけど。安全なんじゃないの?
222:名無しの村長
詐欺に引っかかりそうで不安だなおい。
223:名無しの教授
私のアビリティで調べた限りは安全だけど、それだけだからねー。
とりあえず経過観察かなー?
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「水は回復薬か……」
俺は一旦掲示板を閉じた。
もう少し水の情報を追っていきたい所だが、調べる事がまだまだたくさんある。
例えばスキルの事、アビリティの事。
あとはこの部屋の外の事か。
部屋の外に関してはまた別の専用スレが出来ている。
【ダンジョン突撃したったwwwwwww】というタイトルのスレ。
これは、よく分からないけど、とりあえず突撃するという蛮勇をしたものが作ったようだ。
初期に出来た異世界攻略スレが現実的なサバイバルに寄った議論をする慎重なスレになってきているのを見て、ガンガン行こうぜと血気盛んな者達がこちらに集まったらしい。
既に掲示板の人気順では、こちらの方が最初の雑談スレに続いて2位だ。まあこちらの方が話題性に富むし、リスクを他人が勝手に冒してくれるのだから人気にもなるだろう。
覗いてみれば要領を得ない内容が多く散見されるが、このスレにおいて重要な要点は主に三つ。
一つ、敵性存在の確認。スレ内では【モンスター】と呼称されるものが部屋から離れた所で確認できたこと。
一つ、その存在は人に気づくと走り寄ってきたが、ビビって部屋まで走って逃げると、追うのを諦めたとのこと。境界線は不明だが、一定以上部屋に近づかないようになっている可能性が高いらしい。
一つ、既にそのモンスターを倒し、生還しているものが居ること。倒せない存在ではない。
もちろん本当のことを書き込んでいるのか確証はないが、何人か突撃してだいたい同じ内容だから多少は信用しても良いはずだ。
さて、スキルとアビリティに関してだが、これは今の時点で本当に情報が無い。強いて言うなら雑談スレと突撃組と教授でスキルとアビリティの話は出てはいるのだが、どれも俺と全く違うために参考にならない。
これは状況が落ち着き、検証班や考察班なんて呼ばれるような、調べるのが好きな人達が専用スレを立てて議論を始めるまで待つしか無いだろう。
個人情報の開示がどのような意味を持つのか分からない間は、明かさない人は多いだろうからな。
だが、知りもしない他人を頼りにしてただ待っていることなどできない。敵性存在がいると分かった以上、手に取れる武器が使えるかどうか確かめるのは急務だ。
今のところこの部屋が安全と分かっただけで、これからも安全だとは誰も保証出来ないのだから。
「メニュー展開」
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ステータス
薄墨進雄 ♂
ジョブ 魔王 レベル1
スキル
魔法 ダーク
アビリティ 時間停止
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まずはスキルだ。いくつか出た情報の中にあったが、俗にアクティブスキルと呼ばれるような発動タイプのものは、スキル名を発声すれば行使できるらしい。
早速、部屋の外に出て使ってみる事にする。
崩れかけのただの大穴から外に出てみれば、空調設備なんて見当たらないにも関わらず、どこかぬるっとした空気を感じた。どうやら部屋が快適に保たれているというのは本当らしい。
しかし不快になるほどではなく、少し湿度を感じるのと、気温が若干高くなっただけだ。運動する上での問題は感じられない。
余り遠くに行くと敵性存在とやらが出てくるらしいので数十歩ほどで立ち止まる。
魔法がどんなものか分からないため、部屋を壊さないように外に出たが、視界が大きく遮られる部屋の中ではないというだけで酷く心細い。
5メートル以上幅のある遺跡風の通路。少し先に曲がり角があり遠くまで見回せないが、そこを調べるのはまた今度だ。
俺は一度深呼吸してから、右手を少し先の曲がり角に向ける。そして意を決して、スキル名を唱えた。
「魔法! ダーク!」
瞬間、身体から何かが抜ける感覚とともに、深い紫色をした円環状の魔法陣が展開された!!
…………
……
「…………………………で?」
魔法陣は淡く光り輝いたまま佇んでいる。体からゆっくりと少しずつ何かが送り込まれているのは分かるが、それ以上の変化が見当たらない。
「え、なにこれ。どうすればいいの。時間制? 待てば良いのか?」
仮称運営もステータスも何をすればいいのか教えてくれないため、どうすればいいのか検討もつかない。
とりあえず魔法は時間がかかる代わりに強力なものという先入観を元に、少し待ってみることにする。
……10秒経過。
変化なし。円環状の魔法陣は暗い紫色に光ったままそこにある。
……20秒経過。
変化なし。円環状の魔法陣は光っている。
……30秒経過。
変化なし。魔法陣は光っている。
…………60秒経過。
変化なし。
「………んんんん???」
何も起こらない。そろそろ腕が疲れてきた。
「……発射!」
何も起こらない。
「シュート! ショット! ストライク! アタック! 魔法発動! ハァアアア! 波ァ!!」
何 も 起 こ ら な い。
「えぇ……」
何か根本的に間違えている気がする。腕が疲れてきたため、腕を下ろした。
が、特に魔法陣は消えていない。
「あ、別に手を掲げなくていい感じ? えーと、とりあえず、消えろ!」
俺の消えろという言葉と共に、魔法陣は霧散するように消えていった。消すことは問題なく出来るらしい。
しかしどうしたものか……。
「あー……一旦置いておくか」
出した結論は放置。あとでもう一度調べ直すことにする。
さて、余り進展したとは言い難いが、次はアビリティについて調べる。
アビリティは時間停止。様々な作品で最高クラスの強能力と書かれる事が多いこともあり、希望が持てる。
止めた時間の中で自身が動き、相手に何もさせずに倒す。
相手の時間を止め、何もさせずに倒す。
時間を止めた状態で移動すれば、相手から見れば瞬間移動に等しく、攻撃、防御、回避全てに置いて圧倒的優位に立てる。
まあ止められる時間が限られるなどという制約もよくあるが、それでも強いことに変わりはない。
イメージが湧きづらかった魔法ダークよりも期待に胸が高まり、心臓の鼓動が速くなる。
「よし……よし……行くぞ……」
俺は懲りもせず、先ほどと同じく右手を掲げ、アビリティ名を唱えた。
「時間停止!!」
――――瞬間。すべての音が消えた。
耳が痛いと錯覚するほどの静寂。風の音、雑草の葉が擦れる音が全て消えている。
空から降り注いでいた太陽光の暖かさは消え、地面を踏みしめる感触も消えた。体を撫でる風は無くなり、暖かさも冷たさも感じない。
眼の前に広がる光景はすべて灰色がかっていて、まるで白黒写真のようだ。
分かりやすく何か動くものを止めた訳ではない。だがそれでも、瞬時に時間を止めたことを確信させる空間。
今まで生きていた世界が、今、間違いなく死んでいる。朽ち果てた遺跡だと思っていた空間がこれほどまでに生きていたということが、対比で感じさせられた。
心が興奮で沸き立つ。現代の科学技術では絶対に出来ない超常現象。それを自分が引き起こしたという事実に、少しばかりの恐怖すら覚える。
ここは、俺だけしか存在を許されない世界。
この世界では誰ひとりとして瞬き一つ出来ない。
これは、時間停止は……間違いなく最強だ。
俺は全身に行き渡る感動のまま空を見上げようとして、
首が動かない事に気づいた。
『……んん? あれ?』
次に、声を出せないことに気づいた。そもそも今まで呼吸をしていなかった。
全ての音が消えていた。つまり、俺の心音も消えていた。
ほぼ全ての感覚が消え、目の前の灰色の静止画以外何も知覚できない空間。
『は!? いや、え、いや、ちょ』
呼吸が出来ないせいで息苦しいように感じるが、ただの気のせいだ。そもそもおそらく酸素を消費していない。体の機能が完全停止している。
必死に体を動かそうとするが指一本動かない。
それこそ、瞬き一つ出来ない。
『えぇ……』
時間が停止した世界。
その能力は間違いなく行使され、ついでに俺の肉体も思考以外の全てが停止していた。
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