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魔族

 私はナルドの街にたどり着くと、とりあえず宿屋に行く前に墓地へと向かった。


 結構な大きさの街だから、墓地も広くて、見渡す限りに墓石やら枯れた木やらが並んでいる。

 羽のしおれたカラスがギャアギャア泣いていて、今にも崩れそうな墓守小屋も建っていて、素敵な雰囲気だ。野宿は真っ平ごめんだけど、やっぱりネクロマンサーは墓地が一番落ち着く。


「……うん! 生きのイイ死体が揃ってる感じ!」


 私は墓地を見回して満足した。


「ネネ様、今度はなにをなさるんですか?」


 フランは落ち着かなさそうに尋ねた。この子はアンデッドなのに、まだ死体とかそういうのは得意じゃないみたい。


「この街がねー、三日後に魔族に占領されるの」


「どうして……ご存じなのですか?」


「私はなんでも知ってるから?」


「なるほど! ネネ様はなんでもご存じなのですね!」


 素直な子だなぁと感心しつつ、私は話を続ける。


「で、街を奪還してくれってクエストが発生するから、今のうちに奪還用の手駒を街のあちこちに仕込んでおこうかと思って。おばーちゃんも言ってたしね、料理と死体は仕込みがだいじ、って!」


 フランは目をぱちぱちさせた。


「えっと……それは……占領される前に魔族を防いでしまった方がよいのでは……?」


「……ほえ? なんで?」


「襲ってくるのが分かっていれば守れますし、街の人たちの被害が出なくて済みますし」


「……ああ! ああ! そっか! その発想はなかった……」


 勇者たちより先にクエストを請けるということばかり考えていて、うっかりしていた。


 私はこめかみに両手の人差し指を当て、体ごと首を傾げる。


「でも、クエスト発生より前に魔族を倒しちゃったら、報酬も発生しないし勇者たちに復讐もできないような……?」


「ですが、街の人たちの命が助かります! ネネ様はお優しいから、人命の方を優先されるはずです!」


「私は別に優しくなんて……」


「いいえ、お優しいです! 私はネネ様を信じています!」


「うっ……」


 そんなきらきらした目で見られると困る。


「あのねー、私は人助けがしたくて旅してるわけじゃ……」


「ネネ様は私の命を救ってくださいました!」


「救ってないから! 死んでるから!」


「ネネ様……!」


 きらきらきら。


「も、もー、しょうがないなー! 今回だけ! 今回だけだからね!?」


 私は腰に手を当て、何度も念を押した。





 で、魔の者が力を増す夜になり。


 一周目で収集していた情報通り、街の西側から魔族の攻撃は始まった。


 しんと静まりかえった荒野から、いきなり咆哮が上がり、コボルトの軍団が攻め寄せてきたのだ。


「ぐはは!」「殺せ殺せ殺せエ!」「人間共を蹂躙するのだ!」「あいつら夜はぐーすか寝てやがるから楽勝だぜえ!」「レッツパーリナイッ!!」


 なんて声が、まあ人間語じゃないけど響いている。ネクロマンシーの里では魔の者の言葉も勉強するから意味は分かる。それにしてもテンション高い。


「残念ながら、夜も寝てない人間もいっぱいいるんだよね。さー、私の代わりに頑張って!」


 私が手を掲げて命じると、地面をボコボコボコっと突き破って人間(冷)が大量に出現した。人間っていうか死体なんだけど。


 前もって私が撒いた魔法薬の養分をたっぷり吸ったゾンビちゃんたちは、うなり声を上げてコボルトに突進した。


「ぎゃー!? なんだ!?」「ゾンビ野郎だー!!」「なんでオレたちに向かってくる!?」「知るかっ、倒せ!」


 コボルトの軍団は迎え撃ち、さくさくゾンビを倒していく。


「ハッハー! いくら魔族最弱のオレらといえど、ゾンビごときに負けるかよぉ!!」「下には下がいる! その喜びをまさに今! 実感している!」


 大はしゃぎするコボルトたち。


 でも。


「グルアアアアアア!!!!!!」


 倒れたゾンビたちが、コボルトに襲いかかる。


「しつこいんだよ!」


「グルアアア!」


「しつこい!」


「グルアアアア!」


「し……」


 ガリガリムシャムシャボリボリゴクン!!


 飢えたゾンビの群れに、コボルトの軍団が呑み込まれていく。


 なんせゾンビは倒されても倒されても痛くもかゆくもないし、なんなら頭だけになっても跳び回って襲いかかるのだ。圧倒的な火力で消滅させない限り、どうしようもない。


 コボルトたちがみんなゾンビの餌と化し、静かになった戦場に、指揮官の魔族が舞い降りた。ヴァンパイア、夜の眷族。コボルトとは比べ物にならない上級魔族。


 口紅を分厚く塗った唇を吊り上げ、目を剥いて私を見下ろす。


「貴様……ネクロマンサーだな。なぜだ。ネクロマンシーの里の住人は、我らが魔王陛下の同盟者のはず。なぜ、我らの邪魔をする?」


「人間側についた方が楽しそうだし……お金もらえそうだし。あと……ちょっと褒められたいし」


 私はほっぺたをかいて付け加える。


「褒められたい!? 嘘をつけ、そのような可愛らしい理由でネクロマンサーが動くものか! 貴様らはもっと陰湿で邪悪で極悪非道な連中のはずだ!!」


「ひどくない?」


「ひどくない! 事実だ! この……冥府魔道に堕ちた外道マンサー共め!!」


 ぺっぺっとヴァンパイア貴族様は唾を吐く。


 腐っても悪者なはずの魔族から、さんざんな言われよう。さすがはネクロマンシーの里、人間以外からの評判も最悪だ。


「……まあいい。いずれにせよ、貴様は我らに牙を剥いた。同盟に反したネクロマンサーなど、生かす価値なし!」


 ヴァンパイアはものすごい速度で急降下し、長い爪で私を引き裂こうとする。


 が、そこへフランが割り込み、剣でヴァンパイアの爪を弾いた。


 ヴァンパイアは目を見開く。


「そ、その剣は……勇者の剣!? どういうことだ!? 貴様が勇者なのか!? アンデッドの匂いがするのに!!」


「勇者じゃない……けど、ネネ様の敵は潰す!!」


 フランの刃とヴァンパイアの爪が虚空を走り、互いを引き裂かんとして火花を散らす。


 その背後の地面が盛り上がり、大量の土砂をなだれさせて、私が隠しておいたスケルトンドラゴンが地底から姿を現した。


「なっ…………!?」


 とっさに飛び退くヴァンパイア。


 スケルトンドラゴンの顎がヴァンパイアの体をかすめる。


「あー、惜しかった」


 がっかりする私。


「ド、ドラゴンまで使役しているだと!? これはまずい……態勢を立て直す!!」


 ヴァンパイアは大慌てで逃げていった。


 私はため息をつく。


「うーん、もうちょいだったのになぁ」


「でもすごいです! 魔族の軍団を殲滅するなんて! これで街の人たちがたくさん救われました! ネネ様は偉大です!」


 おめめきらきらフラン。


「まぁ……いっか」


 とりあえず眠いので、私は宿屋に帰ることにした。





【勇者サイド】



「くそっ、くそくそくそ!! ゼニもねえ、メシもねえ、剣もねえ! 魔物に襲われてる街もないし、最悪だなクソがあっ!!」


 街道を歩きながら、勇者が怒鳴り散らす。


「勇者……あまり叫ぶと余計に腹が空くぞ」


 たしなめる戦士。


「うるせえ! つーか、もうサーラが街でカラダ売ってこいよ! 少しはカネの足しになるだろ!?」


「やーよ、そんなの。気持ち悪いオヤジの相手なんてしたくないわぁ」


 僧侶は身震いする。


 と、勇者パーティの前方、節くれ立った大木に、ヴァンパイアの男が立っているのが見えた。


「あれ、魔族ね……」


「結構、金目の装備つけてる感じじゃねーか! よし狩ろうぜ! 装備ぜんぶ売り払えば今日こそ酒が飲める!」


「ああ、一刀両断だ」


 勇者たちが忍び寄ると、ヴァンパイアは眉を上げる。


「なんだ、貴様らは」


「オレか? オレは勇者のブリギス様よ! いつかてめえらの親玉を倒す予定だが、まずは手始めにてめえをぶっ殺してやる」


「そうか。だが悪いが、貴様らのような三流の相手をしている暇はないのだ」


「はあ!? 三流!? なに言ってんだてめえ! 勇者様だっつってんだろ!」


「それよりも、あのネクロマンサーの少女が気になる……なぜ、我らに牙を剥いて人間の街を救ったのか……そして、少女とは思えない恐るべき力……デュランダルの継承者やドラゴンまではべらせて……何者だ……? 良い対抗策は……?」


 ヴァンパイアは独り言を言いながら、飛び去っていく。勇者たちの方は振り向こうともしない。


「おい! 待ちやがれ! 待てっつってんだろ!!」


 勇者は叫ぶが、ヴァンパイアは相手にしていなかった。

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他にも百合ファンタジー書いています! 『十歳の最強魔導師』
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