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フランという少女

 次の攻略ポイントを目指して、私はフランと二人で街道を延々と歩く。


「ネネ様。もう夕方ですね」


 フランは鎧を鳴らして話しかけてくる。


「うん……」


「ネネ様。そろそろ日が暮れそうですね」


「うん……」


「ネネ様。今日は宿にはたどり着かなさそうですね」


「ああもう、分かってるよー! 考えたくないから言わなかったのにー!!」


 私は心が折れて地面にぐてーっと横たわった。


 そもそも肉体派じゃないから徒歩移動に無理があるのだけれど、この辺りは街が多いからスケルトンドラゴンで移動するのはあまりよろしくない。


「野宿かぁ……やだなぁ。馬車雇えば良かったかなぁ……」


 今はそのくらいのお金はあるのに、ついケチってしまった。勇者たちに稼ぎを吸い取られていた頃の貧乏性が残ってるっぽい。


「大丈夫ですよ、私、野宿なら慣れています。準備も警備もお任せください」


「私も慣れてはいるけどさぁ……」


 伊達に勇者パーティで二年も旅はしていないし、伊達に一人だけ宿屋から追い出され続けてもいない。慣れているからこそうんざりなんだよね。


 でもまあ、文句を言っているあいだに日が沈んでも困るので、わたしたちは野宿の準備を始めることにした。


 フランはてきぱきと薪を拾い集めてきて焚き火をこしらえ、どこかから獣も仕留めてきて丸焼きもこしらえ、落ち葉も集めてきて寝床もこしらえて、あっという間にそこそこ快適な野営地を整えてしまう。


「あ……おいしぃ」


 フランの作った雑草スープをすすり、私は目を丸くした。


「ネネ様に気に入っていただけてよかったです!」


 フランはにこにこと笑う。死んでいるのに、なんて晴れやかな笑顔をする女の子だろう。


「一人の野宿は最悪だったけど、こういう野宿なら……」


「え?」


「な、なんでもないっ!」


 私は慌てて頭を振り、スープの器に顔を隠した。ほっぺたが熱い。フランと二人の野宿なら楽しいかも、なんて恥ずかしくて言えやしない。


 食事を済ませたフランは、この前ゲットした宝剣デュランダルをせっせと手入れしていた。砥石で擦ったり、油を塗ったり、羊毛で拭き上げたりと余念がない。


「念入りだね」


「初めてもらったプレゼントですから、しっかりお手入れしないと」


「プレゼントって……ただの戦闘必需品だよ?」


「それでも、プレゼントです。しかもネネ様から頂いたんですから、命よりも大事にしないと……!」


「いのちをだいじに! っていうかあんた命とかないし!」


 あいかわらずこの子は、アンデッドの自覚がない。


「あんた、傭兵団と一緒に戦場で死んでたけど、傭兵商売は長いの?」


 私が尋ねると、フランは剣のお手入れを中断して顔を上げた。


「そうですね……私の住んでた村、魔王軍に滅ぼされちゃって……。お父さんもお母さんも妹とも離ればなれになって、一人で生きていかないといけなくなったんです。私、戦うこと以外にできることないですし、それで……。戦場をあちこち巡ってごはんをもらいながら、何年も家族を捜してるんですけど、見つかりません」


「そうなんだ……」


 それってもう手遅れなんじゃないだろか。なんて思うけれど、口には出せない。きっと、家族の存在だけが、フランの頑張る支えになっているから。


「し、仕方ないなぁ! 家族が見つかるときまで、私が責任持ってこき使ってあげる! ちゃんと役に立ってくれれば、生活の心配はしなくていいから!」


「はい……ありがとうございます」


 フランはうなずいた。




【フラン サイド】


 その夜。


 ネネが寝入った後も、フランは目をしっかりと見開いて周囲の警戒に努めていた。


 草の寝床の上では、ネネがむにゃむにゃ言いながら寝返りを打っている。あどけなく丸めた手の平、人形みたいに小さな足、薔薇の花びらのように鮮やかな唇。微かに漏れる寝息は、甘い香りがしている。


「ネネ様……かわいい」


 妹と同じくらいの年の差。こんなに小さくて愛らしいのに、フランの主は本当に強い。そして、素晴らしい奇跡の力を持っている。


 戦場で命ついえるとき、フランは涙が止まらなかった。家族に会えず、オブザ村も救えず、なにも成し遂げないまま、無情に命を散らすことが悔しくて仕方なかった。どんなに頑張っても、世界には絶望しかないのだと思った。


 けれど、ネネはフランを救ってくれた。生きる希望も、使命も与えてくれた。オブザ村を守り、フランが旅すがら家族を捜せるようにもしてくれた。


 ネクロマンサーは皆から怖がられることが多い。死体拾いの悪魔と揶揄されることもある。だけど、それは誤解だとフランは思う。ネネは、こんなにも優しくて、可愛いのだから。


 と、そこへ、邪悪なうなり声が幾つも聞こえてきた。


「……来た」


 フランは宝剣デュランダルを鞘から抜く。


 周囲に、凶暴な魔物の群れが近づいてきている。頭蓋骨がボコボコと節くれ立って膨らんだあの醜い姿は、膨張ウルフ。

 ネネとフランを取り囲み、昆虫の足のように蠢く歯を軋らせて、包囲の輪を狭めてくる。恐らく、ネネの絶大な魔力を狙い、そのやわらかい体を食い尽くそうと願っているのだろう。


 襲いかかってくる膨張ウルフ。


 フランは血を蹴って敵に突進し、走り抜け様にデュランダルを振るう。


 一閃、両断されて飛沫を上げる膨張ウルフ。


 フランは次から次へと魔物を切り裂き、主への接近を断固として拒絶する。


 さすがは勇者が継承する宝剣デュランダル、その切れ味は凄まじく、辺りには死屍累々が築かれていく。


 剣を振って刃から血を払うと、フランはネネの様子を確かめた。大丈夫、ぐっすり眠っている。ただし、寝返りのせいで毛布から体がはみ出ている。


「……風邪、引きますよ」


 フランはそっと毛布をネネにかけ直した。ネネは赤子のように毛布を握り締め、すやすやと寝息を立てる。


 まだまだ魔物の群れは近づいてきていた。


 フランはデュランダルを構え直し、魔物を睨み据える。


「ネネ様の安眠の邪魔はさせません」


 夜は長い。




【ネネ サイド】


 朝になって私が目を覚ますと、ボロボロになったフランが近くに座っていた。周りの原っぱには、膨張ウルフの死体が大量に散らばっている。


「え!? なにかあったの!?」


「いえっ! なにもありませんでした!」


 傷だらけのフランは笑顔で言い放つ。


 絶対なにかあったと思うけど、フランはにこにこしているばかり。ネネ様がぐっすり眠れてよかった、なんてことを言っている。


 ホント……バカだ。


「もう、次からはちゃんと起こしてよね」


 私は口を尖らせたけれど、フランはあんまり言うことを聞きそうになかった。

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