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英雄の墓所

 私とフランはスケルトンドラゴンに乗って、大空から大地に舞い降りた。


 轟々と粉塵が巻き上がり、ドラゴンの爪が岩に突き刺さる。


「私、ドラゴンに乗ったのって初めてです……ネネ様の前には竜族の王さえもひれ伏すのですね……」


 ドラゴンから降りたフランはぼーっとしている。


「まあ、私も初めてだけどね。あんな保存状態のいいドラゴンの化石なんてなかなか見つからないし」


 特に羽は朽ち果てやすいから、せっかく蘇らせても羽なしドラゴンで地面を這って動くだけ、なんてこともある。飛べないドラゴンなんてナンセンスだ。


 いつもドラゴンのアンデッドを引き連れていたら目立ちすぎるし、討伐されてしまうかもしれない。だから、私はスケルトンドラゴンを湖に沈ませて隠しておいた。生きたドラゴンと違って呼吸する必要がないから、こういうときは便利だ。


 そして、フランと二人で近くの街セイリアへ。


 賑やかな大通りを歩きながら、フランの腰の剣を観察する。


「あんたの剣、だいぶ傷だらけね。ちょっと刃を見せて」


「はい」


 フランは道の端で剣を抜いた。


「やっぱり刃もボロボロかー」


「申し訳ありません……ワイバーンに斬りつけたときに刃こぼれしてしまいました。私が無謀だったばかりに……」


「いいって、いいって。新しい剣を買えば済むから。火の村でいっぱいお礼ももらったしね!」


 私は金貨の入った袋をじゃらじゃら鳴らした。

 これだけあれば戦闘必需品だけじゃなく、アイスとかパフェとか買っても許されるかも。ネクロマンシーの里を出て外の世界でパフェというものを見て以来、ずっと食べてみたくて仕方なかったんだよね。


「……あ、でも。これからもあんたには頑張ってもらわなきゃいけないし、どうせならすっごく強い剣がいいかな。ね。伝説の剣って……ほしくない?」


「え……?」


 私がにまーっと笑うと、フランは不思議そうに首を傾げた。




 三十分後、私とフランは薄暗い神殿のような場所の通路を歩いていた。


「ネネ様、ここは……?」


「英雄の墓所。伝説の剣デュランダルが封印されてるとこだよ。魔王が復活する度、そのときの勇者はこの墓所に来てデュランダルを授けてもらうの」


「デュランダル……! 名前は聞いたことがあります。確か、鋼の鎧さえ切り裂いてしまう無敵の剣だとか。でも、それを授けてもらえるのは勇者だけのはずですが……ネネ様は勇者なのですか!?」


「そんなわけないよ!」


「じゃあ……」


「でも、だいじょーぶ。デュランダルを手に入れる方法はちゃんと考えてるから」


 私はくふふと笑みを漏らす。


 だいたい、この世界には勇者専用武具が多すぎなのだ。あれだけ道具が揃っていれば、そりゃどんなバカだって世界を救える。特にあのバカに伝説の剣なんて渡したら悪用されるだけだから、今のうちに奪っておいて損はない。


「……客人か」


 そのとき、私たちの前に三人のお年寄りが現れた。セイリアの三賢者。この墓所の番人でもある。


「こんにちは。伝説の剣デュランダルをもらいに来たよ!」


 私はストレートに用件を告げた。


 賢者たちはもごもごと白ヒゲの中で喋る。


「かような幼き者が勇者とは思えぬが」「試練に挑む者はすべて受け入れよ、が我らが掟」「ただし勇者を装いし不遜な者は命を持って償うことになるが、よいか?」


「いいよー!」


 私は元気にお返事した。


「では、行くがよい」


 賢者たちはどこかに消え去り、私とフランはさらに墓所を進む。


 すると、大きな石の扉が立ちはだかるところへとやってきた。


 扉の上にはガーゴイルが座っていて、ぎょろぎょろと凶暴な目をぎらつかせている。


「今にも襲ってきそうです……」


「襲ってくるよ? 問答に失敗したら」


「大丈夫なのでしょうか……」


「だいじょーぶ!」


 既にこのダンジョンは、私の記憶の中ではクリア済み。攻略方法は分かっているし、後は勇者なしでなんとかやるだけだ。


 ガーゴイルが口を開き、重々しく命じる。


「勇者の血筋のみに伝わる詩を捧げよ。誤れば、貴様の命をもらい受ける。逃げるもよし、あえて挑んで引き裂かれるもよし」


「英雄は否んだ。魔王の誘惑を。ゆえに神は与えた。風の祝福を。さあ、大きな翼に包まれて、我らの郷里へ戻ろう。それは空の地、栄光の国」


 私はすらすらと詩を暗唱した。


「いかにも。通るがよい」


 ごごごごご……と地響きを立てて、石の扉が開く。


「ネネ様は勇者の血筋だったのですね……道理で高貴なオーラが漂っていると……」


「血筋なんかじゃないよ! あんなのと同じ血が流れてるとか、想像するだけで気持ち悪いし!」


「え……では、なぜ詩を……」


「なーいしょっ!」


 二周目だから一周目で勇者が暗唱するのを聞いていた、なんて言っても理解できるわけがない。


 私とフランは墓所に巣くう魔物たちを倒しながらダンジョンの奥へと進んだ。二周目で回復ポイントの場所は覚えているから、途中で体力が尽きそうになって慌てることもない。


 墓所の一番奥に到着すると、そこは大広間になっていた。


 神聖な魔法陣が結界をこしらえ、真ん中には棺が置かれている。棺の上に浮かんでいるのは、伝説の剣デュランダル。だけど、高エネルギー体の結界に包まれ、さすがの私でも手が出せない。


 棺の隣に置かれた石版には、『勇者のみが伝説の剣デュランダルを得る』と腹の立つことが書かれている。


 フランはデュランダルに手を伸ばすが、皮膚が溶けそうになって即座に飛び退いた。結界の威力は今でも健在だ。


「どうするのですか?」


「この棺、開けて」


 石棺の重い蓋をフランがのけると、中に入っていたのはミイラ。やたらと宝石のアクセサリーをたくさんつけて、死んでも偉そうにふんぞり返ってる。


 大昔の英雄の死体。この墓所を作らせて剣を封印させた人だ。


「眠りに浸りし屍よ、安らかなる追憶よ、我がひとときの眷族となれ! エル・ディアド・ボルテアカ!」


 ミイラが立ち上がり、結界の中に手を突っ込んで伝説の剣を取り出し、ぽいっと私の方に投げた。


「ありがと英雄サマー!!」


 私はミイラに感謝する。


「な、なにが起きたんですか……?」


 困惑するフラン。


「勇者の血筋なら、伝説の剣を手に取れるんだよ。だから、勇者のご先祖……つまり墓所を作った英雄に直接取ってもらえばいいの!」


 私たちが墓所を出ようとしていると、賢者たちが現れて驚きの声を上げた。


「……その剣は!!」「新たな英雄の誕生だ!!」「万歳! 万歳!」


 とかなんとか騒いでいたけど。


「ほいっ。これ使って」


 街に戻るなり、私は伝説の剣をフランにぶん投げた。


「あ、ありがとうございます……本当に私が使っていいんですか?」


「もちろん! てか、もうちょっとセキュリティ考えた方がいいと思うんだよね。こんなん、勇者以外でも簡単に伝説の剣ゲットできちゃうじゃん」


「簡単なのはネネ様だけなのでは……?」


 フランは大事そうにデュランダルを抱えて首を傾げた。





 その二日後。


「勇者を名乗る者よ。伝説の剣は売り切れである」


「……は?」


 火の村からほうほうのていで脱出し、一族の伝承に従って英雄の墓所にやって来た勇者は、ガーゴイルの言葉に唖然とした。


「だから、売り切れである。既に小さな少女が試練を経て剣を授かっていった」


 眉を寄せる僧侶。


「また女の子ぉ……? この前と同じ子かしらぁ……?」


 戦士がため息をつく。


「しかし困ったな。勇者は武器を売り払ってしまったばかりだというのに」


「仕方ねーだろ! すぐ伝説の剣が手に入るなら、そりゃ昔の剣は売り飛ばしてエロ街行くだろ!」


 なんて言っているあいだに、天井からスライムがぼとぼと落ちてきて襲いかかってくる。


「くっそおおおお! なんでこんなことに!!」


 勇者は素手でスライムと殴り合うしかなかった。



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ゆうしゃの こうげきりょくがさがった!


99→56

ミスリルのけん→すで E


ゆうしゃはスライムにたべられた!

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