海賊
私とフランを乗せた商船が、大海原を進んでいく。
その先に、やたら岩肌が切り立ってゴツゴツした絶海の孤島が見えてきた。
港に大きな船が幾つも停泊している。髑髏のマークが描かれた帆に、堂々たる大砲。
島の周りには陰鬱なオーラが立ち込めていて、怨霊もちらほら空を飛んでいる。要するにすごくイイ雰囲気の島ってこと。
だけど、舵を操るフランは元から青い顔をさらに青ざめさせる。
「ネ、ネネ様……私の勘違いならいいのですが、あれってこの辺りの海域を荒らしているガルーシャ海賊の根城なのでは……?」
「そだよー!」
「引き返しましょう! せっかくネネ様が手に入れた商船が、一瞬で撃沈されてしまいます!」
「だいじょぶだいじょぶ」
「なにが大丈夫なんですか!?」
「撃沈されても大丈夫ってこと」
「全然大丈夫じゃないですよ!」
フランは慌てふためいている。ばったばったと魔物を薙ぎ倒す傭兵も、泣く子も黙るガルーシャ海賊の名前には躊躇するらしい。
まあ、ガルーシャ海賊っていったらクラーケンとかオウムガイ並に海の恐怖として悪名高いし、やばすぎてどこの国の海軍も手を出さないレベルなんだけど。
私は爪先立ちで背伸びすると、フランの頭をぽんぽんと叩く。
「落ち着いてフラン。まず、ガルーシャ海賊はこの船は襲ってこないから」
「どうしてですか?」
「この商船をもらった町って、表は普通の町なんだけど、実はガルーシャ海賊と共存してるんだよね。ほら、海賊だってガルーシャは大規模だから家族も一緒に暮らしてるし、食糧や服は安定して手に入れないといけないでしょ? 手当たり次第に町を襲っていたら買い物もできなくなるから、協定を組んで襲わない町も確保してるの」
「それが、さっきの町ということですか……?」
「そ! 軍部に目をつけられたら困るから、極秘になってるけどね! だから私はあの町のマークがついた船をもらったんだよ!」
「すごいです……ネネ様はなんでもご存じ……! 私の愚かさをお許しください! そこまで深く考えていらっしゃったんですね!」
「ふふーん、すごいでしょー!」
私は胸を張った。まあ一周目の英雄パーティで海賊討伐のクエストに行ったときに知ったんだけど、フランからきらきらお目々で見られるのは悪くない。
「そういうわけだから、この船は今、海賊たちから『また物資を持ってきたんだな』くらいに思われるってわけ。その隙をついて中に潜り込むんだよ」
「潜り込んでなにをなさるんですか? 討伐ですか!? 不肖フラン、ネネ様の剣となって頑張ります!」
奮い立つフラン。
「ううん、討伐じゃないよ。ちょっと海賊船をもらおうと思ってね!」
「海賊船を……?」
フランは目を丸くした。




