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不死の相棒

 夜のアドルムードの街を歩きながら、私は一周目のことを思い出す。日記は毎日つけてたから、旅の記憶に関してはばっちり。


 別に真面目ってわけじゃない、これでも「伝説に残る勇者パーティでの貴重な経験をしっかり一生の記録に残しておくんだー!」って燃えてたんだよね。私ってホントバカ。


 一周目のゲームではこれから二日後、勇者たちがアドルムードの街でさんざん遊び倒した後に、魔物の軍団が街を襲う。そのとき勇者たちが(主に私をこき使って)魔物を撃退し、街から軍資金をがっぽりせしめる。


 魔物の軍団はアドルムードに来る前に腕利き傭兵だらけの大規模な討伐隊を一つ壊滅させ、村も滅ぼしている。だからその戦場に行けば強い死体が選び放題ってわけ。死体のバイキング、戦士にとっちゃ地獄だろうけど、ネクロマンサーにとっては天国だ。


 私は街の道具屋に寄って死霊魔術の道具やら自分用の回復アイテムやらを買い揃える。


「自分のお金で自分の好きなモノが好きなだけ買えるって素敵……!!」


「……? どうした嬢ちゃん、つらいことでもあったかい」


 私が感涙をこぼしていると、道具屋のおじさんが首を傾げた。


「違うよおじさん、つらいことはいっぱいあったけど、今から素敵な日々が始まるんだよ!」


「そうかい、病院は早めに行きな。まいどあり!」


 失礼な心配をする店主から商品を受け取り、街を出る。


 挙動不審だったかもしれないけど、仕方ないじゃん。一周目じゃ戦闘必需品すら「あのぅ……MP回復薬がないと戦えないから買ってくれないかなぁ……」「ちっ、ったくネクロマンサーはホント金がかかるよな。MPなくても根性で戦えよ」みたいな不愉快なやり取りがなければ手に入らなかったのだ。


 で、徒歩でてくてく移動すること数時間。


 私は無事に最寄りの戦場に到着した!


「おー、死んでる死んでる。素材取り放題だねーじゅるり」


 見渡す限りの死体、死体、死体。よっぽど派手な戦闘があったのだろう、殺風景な荒野に戦士や魔術師が力尽き果てて倒れている。魔物に結構食べられちゃってるけど、保存状態のいい死体も残っているのがありがたい。今回の魔物はネクロマンサーに優しい(?)魔物だったみたいだ。


 私は夜の死体パーティ会場を一人でちょこまか歩き回り、強そうな死体を物色した。もちろん乙女だから服は汚れないよう厳重注意。ネクロマンサーの正装であるフリル満載の真っ黒なドレスは命より大事なのだ。だから死臭なんてついてない。絶対ない。


「とりあえず、使い魔のアンデッドが要るよね。使い捨てじゃなく」


 女の子の一人旅はいろいろと危ないし、ネクロマンサーは盾になる前衛がいなきゃ戦えない。私の手となり足となって戦ってくれる部下が必要だ。 


 男はやだ。勇者みたいなセクハラしてきたら、自分の使い魔でもぶっ殺してしまいそう。もう死んでるけど。

 僧侶のサーラみたいな大人の女もやだ。勇者とやってたこと想像しちゃって(想像なんてしたくもないのに)気持ち悪い。


「お! 良さげな死体はっけーん!」


 私は特に壮絶な血の池地獄になっているところに剣士の死体を見つけて、小躍りした。


 年齢は私と同じくらいか、ちょい上? ほっそりした女の子だ。スカート系の可愛い鎧を着てるけど、あちこち砕けてる。顔も綺麗なのに、死んじゃうなんてもったいない。


 てゆーか凄いのは、周りに大量に溜まった血が赤じゃなくて緑だってこと。つまりこの子が死ぬ前に魔物を殺しまくって血の池地獄を作ってる。

 しかも死体の手が剣をしっかり握り締めていて離さない。絶命する寸前まで戦いに戦い、諦めなかったってことだ。ぶっちゃけアンデッドの戦闘力は死霊魔術で強化可能だから、一番重要なのはメンタリティ。まあ、肉体も潜在能力が低いとお話にならないんだけど……。


「……うん。いい体!」


 私は女の子の腕や脚を触って筋肉のつき方を確かめ、満足した。細いけどしっかり中身が詰まってる。栄養が足りないけど、訓練は欠かさなかったって感じ? これなら強化次第でいくらでも力を引き出せる。


「じゃあ、始めるかな」


 私は怨霊の群れを呼び出して周囲五十メートルほどに儀式の場を生成し、作業を進める。

 手足が一本ずつ足りなくなっていたので、近くから拾い集めてきて接続。見れば見るほど綺麗な顔してるけど、可哀想な傷を負っていたので、縫合して傷口も完全に融合させる。ネクロマンサーはそんじょそこらの医者じゃ叶わないくらい手術のプロでもあるのだ……ただし死体限定。


 私は女の子の肌にアブラシカの樹液でセフィロトの紋様を描き、左右の手の平と足の裏に円環の陣を描く。女の子を囲む地面に骸骨騎士の灰で魔法陣を描く。


「……ふぅ。準備完了」


 本当なら里の十人がかりでやるレベルの儀式だから、だいぶ時間がかかってしまった。そろそろネクロマンサーの力が弱まる夜明けも近い。


 今回やろうとしている反魂の術は、超・超・超特別製だ。私の右腕となる剣士が旅の途中で体が崩れたりしないよう、見た目も普通の人間と変わらないよう、どこまでも完璧なアンデッドとして復活させなければならない。

 使う秘薬はネクロマンシーの里からこっそり持ち出してきたオシリスの巫女の秘薬、貴重さも半端ない。


 最後はネクロマンサーの口移しで巫女の秘薬を飲ませて契約を済ませないといけないんだけど……。うーん、一応これファーストキスになっちゃうのかな。私は女の子の顔を眺めてためらう。

 この子、長い前髪に片目が隠れてるけど、もう片方の目はとっても澄んでいて、鼻筋も細くて真っ直ぐで……女の子同士とはいえちょっとドキドキしてしまう。


「……まぁいいや。死んでるしノーカンだよね!」


 私はボトルから巫女の秘薬を口に含むと、意を決して女の子の唇に自分の唇をくっつけた。液体の秘薬を口移しで流し込み、呪文をささやく。


「我は汝が命、汝が泉。黄泉の深淵につま先を浸し、今一度汝の心を呼び覚まさん。さあ起き上がれ、永遠の輩よ。我が力となれ、不死の戦士よ。ワルト・アムイ・バラ・シドリエ!!」


 周囲の魔法陣と、女の子の肌に描かれた紋様が紫に輝く。私は残りの秘薬を女の子に口移しで注いでいく。儀式の場を維持している怨霊たちが円陣を描き、冒涜の呪歌を叫ぶ。冥界神オシリスの力が降り注ぎ、呪われた戦場から戦士たちの生命力が集結する。


 どくん、と女の子の胸が脈打った。


 青ざめていた肌が赤々とした生気を取り戻し、鼻腔から息が漏れる。指先がわずかに痙攣し、澄んだ瞳に光が宿る。


「……ぷはっ!」


 私が唇を離すと、女の子は大きく息をついた。けほけほと咳き込み、体を折って悶える。自分の腕や脚、胸などをぺたぺたと触り、目を見張る。


「わ、私……生きて……? 死んだはずなのに……」


「私が生き返らせたんだよ。まぁ、生き返らせたっていうのは正確じゃないけど、アンデッドとして蘇らせたの」


「………………っ。また、戦える……」


 女の子の瞳から、ぽろぽろと涙が落ちた。


 ひどい死に方をしたのに生き返ってもまだ戦意を失ってないとか、この子、筋金入りだ。この子を選んだ私の目は間違ってなかった。


「そんな喜んでばっかりはいられないよ? あんたは今日から私のしもべ。ネクロマンサーのネネ様の使い魔として働くことになるんだから」


 私はちょっと威圧的に言ってみた。さてさて、どう反応するかな。ネクロマンサーに震え上がる? 気持ち悪がる? どんなにあんたが私を嫌いでも関係ない、あんたには私の野望の道具になってもらう。


 そう思ったのに。


「……ネネ様! ありがとうございます! ありがとうございます! ネネ様は私の神様です!」


 女の子は、全力で私に抱きついてきた。


「ちょ、痛い痛い! てか体が冷たい! なにあんた!? 私のことキモいとか思わないの!?」


「そんなこと思うはずがありません! ネネ様は私を救ってくれました! 命の恩人……! 私、フラン・アズワルドは生涯、命をかけてネネ様にお仕えすることを誓います!」


 女の子――フランは、地面に膝を突き、私の手の甲を恭しく頂いて服従のキスをした。


「いや……だから……あんた死んでるんだってば」


 調子が狂う。まだ絶対命令権は行使していないのに、こんなに素直に従われて、しかもネクロマンサーの私のこと気持ち悪がらないとか。

 なんか胸の中が変な感じにモヤモヤするっていうか……泣きそうっていうか、私、もしかして嬉しいのかな。初めてすぎて分かんないや。


「これで、オブザの村の救援に向かえます。魔物の軍勢より早く、村にたどり着かないと……!」


「もう間に合わないよ。(一周目で)あの村は徹底的に荒らされたし、誰も生き残ってないはず。私は私の復讐をやらなきゃいけないんだし、そんな小さな村のことには構ってられないの。いいから街に行くよ、了解?」


「は、はい……ネネ様がおっしゃるなら」


 フランは頭を垂れてついてくるが、明らかにしょんぼりしている。なにこれ。私がいじめてるみたいじゃない。涙目で従っているのを見ると、無性に罪悪感が込み上げてくる。


「もー! そこまで気になるなら、ちょこっとぐらい村の様子を見に行ってもいいよ!」


 途端、フランの顔にぱあっと光が広がる。


「ありがとうございます! ネネ様はお優しい方です!」


「優しくは……ないんだけどなぁ」


 私は頭を掻きながら、ため息をついた。


 絶対、村は滅びてると思うんだけどなぁ……。まぁいっか、素材集めにもなるし。なんだかこの子のしょんぼりした顔は苦手だ。

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