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 町の港に、船が停まっている。


 住民の商人が交易に使っていた商船。積載量が命だから広さだけはたいしたもので、安定感もぱない。


 ちなみに値段もぱないけど、商人は家族が呪われて大変なことになっていたところを救われたから、喜んで船を差し出してくれた。


「それでは……ネネ様。お達者で」


「おたっしゃでー!」


 船に乗って旅立つ私とフランを、岸壁の町長とジュニア(真)が見送る。なぜかいつの間にか町長も様づけになってる。

 ついでに岸壁には住民たち(しばらく化け物になっちゃってた人含め)もたくさん集まっていて、ハンカチを振ったり長いリボンみたいなのを投げたりしてる。

 よく分からないノリだけどお祭りモードだ。


「みんな、私が出て行くのそんなに嬉しいのかー。なんか悔しいから町ごと消そ!」


「消さないでください! みなさん、ネネ様に感謝してるんですよ!」


 髑髏の杖を振り上げる私をフランが慌てて止める。


「感謝してるんならリボンじゃなくてお金をまくべきじゃない?」


「なまなましいですよ!」


「なまなましくていーよー。軍資金が要るんだからー」


 とかなんとか言いつつ、フランが錨を引き揚げて、いざ出航。


 帆が風をいっぱいにはらみ、港があっという間に遠ざかっていく。


 フランは一人で十人分ぐらい働き、駆け回って船の操作をしている。


「さすがネネ様です。こんな簡単に自家用船を手に入れてしまうなんて」


「でしょー! さすが私だよね! これでいよいよ貿易を始められるよ!」


「貿易するんですか!? 世界を救うんじゃないんですか!?」


「まあ貿易はめんどいからしないかな! それより早く次の船をゲットしないとねー」


「次の船……? この船を譲ってもらったばかりなのに……?」


「これは商船だからねー、機動性はないし耐久性もないし、荒れた海じゃ厳しいんだよ。てゆーか海戦になったらイチコロだし」


「海戦になるんですか……?」


「なるかもしれないでしょ? どっかの国の海軍に追いかけられたときとかさー」


「ネネ様はいったいなにを目指していらっしゃるんですか……?」



 フランは疑問を浮かべまくっているが、必要なものは必要なのだ。


 一周目で英雄パーティがお金をケチってしょぼい船を使っていたせいで、半魚人の集団に追いかけられてボコボコにされたのを私は忘れない。

 あのとき、私は囮として海に放り投げられ、半魚人の餌になりかけたのだ。最後はクジラに呑まれたしね! 今回は海の藻屑にはなりたくない。




 ネネとフランが港を出港したのと、同じ頃。


 英雄ブリギス、従軍祭姫サラ、鎧士バハムンクの三人は、町から盗み出した船で大海原に漕ぎ出していた。


 船といっても、実質はボート。ネネの船とは比べ物にならないくらい小さいし、ボロい。バハムンクが筋力だけで必死にオールを漕いでいる。


 その舳先でブリギスは偉そうに立ち、腰に手を当てて吠える。


「はっはー! ざまーみろ、クズ共が! 英雄のオレ様にさっさと船を提供しないから、こういうことになるんだ!! これは徴用ってやつだ!」


「徴用はいいけど、もっとマシな船はなかったのかしら~」


 サラは船縁まで近づいている海面を怖々と見やる。湖でデートのときならまだしも、海でこの小舟は恐ろしい。


「贅沢言ってんじゃねえよ。馬車を雇う金もないんだから、船を使わなきゃまともに移動もできな……」


 英雄が言いかけたとき、ネネの商船が英雄のボートに激突する。


 ボートは大破、轟沈。


「げぼげぼげぼ!!」


 もがく英雄。


「どうしてこんなことにー!」


 無我夢中で泳ぐサラ。


「…………無念」


 重い鎧ごと沈んでいくバハムンク。


 一方、ネネとフランはボートの存在にさえ気づいていない。そのくらいサイズが違いすぎる。


「あれ? なんかぶつかった?」


 きょとんとするネネ。


「気のせいではないでしょうか。それよりネネ様、町の人からお弁当のサンドイッチをもらったんです。召し上がりませんか?」


「わー! おいしそー!」


 海は緩やかに波打ち、温かい陽射しが肌を撫でる。


 のどかで平和な船旅だった。

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