人質
「ぐ……ぎ……が……いつの間に……」
ジュニアは鎖でがんじがらめに縛られ、身動きもできずに顔を歪める。完全にバケモノ、もはや町長の子供の可愛らしさはまったくない(最初からあんまりなかったけど)。
「はーい、ゲームしゅーりょー! 私の勝ちー!! ってわけで殺すね!」
「がががががががが!?」
私が魔法陣に杖を当てると、鎖から電撃が走り、ジュニアの巨体が痙攣する。
「ちょ、ちょっと待て! 話が! 話がある!」
「待たなーい! だって私はおなかが空いたから! 早く終わらせてごはんを食べる!」
「さっき食ってただろうが!」
「えー? そうだっけ? とにかく待たない!」
「待てっつってんだろ! いい話があるんだ! 町長の息子はまだ生きている!」
「町長の息子が……? まあいいや、よく聞こえなかったから殺すね!」
「ばりばり聞こえてただろうが! 本物の町長の息子は俺が閉じ込めてるんだ! まだ利用価値がありそうだったからな!」
ジュニアはものすっごい早口で言った。よっぽど焦っているらしい。
フランが眉を寄せる。
「ネネ様。さすがに放っておくわけにはいかないのでは……」
「うーん、じゃあ、話だけでも聞こうかな」
私が魔法陣から杖を離すと、電撃も止まる。子供が無事の方が、町長も報酬を弾む気分になれるはずだ。
一周目では英雄が問答無用でジュニアをぶった斬ったせいで、本物の子供が生きてるなんてことさえ分からなかったんだよね。
もちろんジュニアが子供を隠していた場所も分からなかったし、それから本物がどうなったかも分からない。多分ろくなことにはなっていないだろうけど。
ジュニアはぜえぜえ言いながら口角をつり上げた。
「は、はは……これで形勢逆転というわけだな。人質の命が惜しければ、まずはオレにひざまずいて足でも舐めてもらおうか」
「舐めたくないので殺すね!」
「ぎゃあああああああああ!」
私は髑髏の杖を振り上げ、とりあえず鎖でジュニアの片足を潰しておいた。乙女に変態的なことを要求する輩は抹殺上等だ。
「十数えるごとに一本持ってくよー、いーち、」
「ぐあああああ!? 一で持って行くな話が違う!」
「話? なんの話してたっけ? 思い出せない! だから、いーち!」
「待って待ってお願いガキはすぐ近くの湖沿いの洞窟に隠してあるだから許してぐぎゃあああああ!!」
魔法陣から瘴気が吹き上がり、ジュニアの巨体が消し飛ばされる。
「ふー。やっと静かになったー」
私は服のホコリを払い、洞窟に向かって出発した。