ポルターガイスト
結局、ジュニアとの決着はつかないまま夜になり。
私とフランは町長から割り当てられた客間に泊まった。
「ふあー、ふかふかー! もーこのままずーっとここに泊まってジュニアの家庭教師やっててもいーかもー!」
私はベッドにダイブする。転がり回って毛布の山に包まれる。
「でも、ジュニアを倒さないと町が大変なことになりますよね」
心配そうなフラン。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! ジュニアもみんなを殺しちゃったらおなかへるし、ほどほどに半殺しで飼い続けるだけだと思うよ!」
「生ける屍!?」
「そーそー、それそれ! ジュニアはごはんが食べれてハッピーだし、私はふかふかのベッドで眠れてハッピーだし、住民はなんとか生きられてハッピーだし、ウィンウィンだよねっ!」
「住民だけ負けている気がするのですが!?」
「気のせいだよ!」
「そうですね……ネネ様がおっしゃるのならきっと気のせいです。はい、間違いありません」
納得しちゃった!
この子、私が死ねと言えば即死しそうで怖いんですけど。もうちょっと自分ってものを持とうね? 持ってない方が使い魔としては便利なんだけど。
「まーでも、決着つけないままズルズルってわけにはいかないよね。私の野望はこんなしょぼい町じゃ収まりきれないし、それにこっちが良くても向こうが放っておいてくれないだろうし……」
「え……?」
私がベッドの上で立ち上がると、フランはきょとんとした。
天井から鋭い破裂音が聞こえ始める。
ぱきっ……ぱききっ……ぱきき。
「なんでしょう、この音……?」
「町長の骨を砕いてる音じゃない?」
「大丈夫なのですか!?」
「だいじょーぶ、私の骨じゃないし! それより明日も朝早いからそろそろ寝よー」
「よろしいんですか!? とんでもない気配が外から漂っている感じがするのですが……これも気のせいですか!?」
「あーうん、気のせいじゃないんだよねえ……めんどくさいけど」
鮮烈なプレッシャーというか瘴気が、壁から床から天井から迫ってくる。
直後、チェストから花瓶が浮き上がり、私に向かって飛んできた!
「っ!? はあっ!!」
フランが私を胸の中に抱きすくめ、拳で花瓶を叩き割る。とっさに守ってくれたお陰で、私には破片の一つも当たっていない。
なにこの子……ちょっとかっこいいんですけど。
「ネネ様、お怪我はありませんか!?」
「う、うん」
「ほっぺたが赤いですが、どうなさいましたか?」
「どうもしてないよ!」
「ですが、耳も赤くなっていますし、毒でも喰らったのでは……」
フランが顔を覗き込んでくる。
「どうもしてないってばー!」
私はフランを突き飛ばした。
花瓶の破片は地面に落ちると、すぐに浮上し、周りを回転し始める。
フランは抜刀して身構えた。
「……これもあの魔物の仕業でしょうか?」
「まあね。……次も来るよ!」
言うや否や、部屋中の家具が浮き上がって私たちに飛んでくる。
大量の怨霊が現れ、唸るように唱和する。
「出ていけ……デテイケ……ここは呪われた場所……留まれば……オマエタチの命はない……」
目玉が飛び出していたり、口が裂けていたり、全身がドロドロに溶けていたりと、やけにおどろおどろしい。
怖がらせて追い払おうって考えだろうし、普通の占い師なら即刻逃げ出すだろうけど。
「相手が悪かったね! 私は泣く子も黙るネクロマンサー! 怨霊なんてパフェみたいなものだよ! いただきまーす!」
私は髑髏の杖を振り上げ、怨霊たちをジュニアの支配下から引っ剥がす。
どんどん飛んでくる家具。迎撃するフランと怨霊。
世にも騒がしいポルターガイストの夜が更けていった。




