遊戯の時間
牙を剥き出しにしたジュニアに、私はVサインを突き出す。
「なにをしに来たって、そんなの決まってるじゃーん! あんたをボコボコにしてミンチにして骨まで燃やし尽くすために来たの!」
私がにこーっと笑うと、ジュニアはぶるっと震えた。
が、すぐに肩を怒らせ。
「お前なんて簡単に追い出せる……おねーちゃんに変なことされたーって町長に泣きつけばな!」
「いいのかなー、そんなことしちゃって。この屋敷を追い出されたら私、町ごと焼き払って、あんたの餌になる住民ぜんぶ殺しちゃうよ? もちろんあんたも含めてね! そしたらすっごく悲しいでしょ?」
「はあ!? なに言ってんだてめえ! 住民を救いに来たんじゃなかったのか!?」
「んなわけないじゃーん。あんたを退治して報酬がっぽがっぽするためだよー」
私がくすくす笑うと、ジュニアは鋭い爪の伸びた手で頭を抱える。
「そうだ……ネクロマンサーってのはそういう奴らだった……。極悪非道……残虐無比……命を命とも思っていない外道野郎が!」
あいかわらず、魔物からもさんざんな言われよう。
「ネネ様の悪口は許しません!」
フランが激怒してジュニアに斬りかかる。
ジュニアは右腕をカニのように肥大化させ、フランの腕を挟み込む。
「こっちも随分過激だなぁ! てめえら子供部屋を臓物まみれにする気か!?」
フランは聖剣デュランダルをぐぐぐ……と動かしてジュニアをねじ伏せようとしながらささやく。
「大丈夫です……ネネ様の敵は、臓物のひとかけらも残らないほどみじん切りにしますから……」
「みじん切りにしても臓物は残るわ!!」
「大丈夫だよぉ……いざとなったら部屋ごと燃やすから!!」
「町長も燃えるわあああ!」
ジュニアは足を肥大化させてフランを蹴り飛ばした。
そのパワーたるや凄まじく、フランはテーブルや椅子を吹き飛ばしながら壁に激突し、大穴をこしらえる。
「けっ、死なねえのかよ! 普通の人間ならイチコロなんだが……」
舌打ちするジュニア。
と、騒ぎの物音を聞きつけたのか、ドアが開いて廊下から町長が顔を覗かせる。
「どうした、すごい音がしたんだが……」
私はとびっきりの笑顔を作って答える。
「ジュニアと遊んでただけだよ! どうしてもボール遊びがしたいって言うから、魔術でボールの攻撃力を百倍にして遊んでたの!」
「攻撃力を増やすな。そしてボール遊びは外でやれ。……まったく」
ぶつぶつ言いながら立ち去る町長を、私は手を振って送り出す。
扉が閉じ。
「グバアアアアアアア!!」
背後からジュニアが大顎を開けて襲いかかってくる。うん、もはや顔の原形ない! いい感じに化け物!
「ネネ様を食べるな!!」
フランが転がり込んできて、聖剣デュランダルでジュニアを吹き飛ばす……寸前にジュニアがバック宙する。
また扉が開く。
「ジュニア? なんだ、今のすごい声は……?」
町長が廊下から不審そうに室内を覗き込む。
ジュニアは子供らしい笑顔で答える。
「なんでもないよ、パパ! ちょっとお歌の練習してただけ!」
「そうか、だったらいいんだが……」
扉が閉じる。
「グバアアアアア!!」
「死ねえええええい!!」
襲いかかってくるジュニア、怨霊を放つ私!
家族の目を盗んでの殺し合いは、日が暮れるまで続いた。




