授業の時間
町長がジュニアを小脇に寄せて、私に尋ねる。
「で、どうやって呪いを解くつもりだ? これまでの呪術師どもは聖水を撒いたり生贄を捧げたり一ヶ月徹夜で祈祷をしたりしていたが、どれも効かなかったぞ」
誰も見ていないと思っているのか、ジュニアは口から紫の舌を伸ばして、町長の毛むくじゃらの手をちろちろ舐めてる。
気づいて、町長気づいて。今あんた味見されてるからね? あの長さの舌は明らかに血が繋がってない長さだからね!
「祈祷なんてしないよ。呪いの元凶は分かってるし」
「なに……? 元凶はなんなのだ?」
「それはねえ……そいつ!」
私がびしっと指差すと、ジュニアがびくっと肩を跳ねさせた。
フランが屈んで私の耳元でささやく。
「ネネ様!? よろしいのですか、バラしてしまって!」
「いーから、いーから。黙って見てて」
私もフランにささやき返す。
町長が眉をひそめた。
「なんの冗談だ? この私に似て可愛い可愛いジュニアが、呪いの元凶……?」
宝石キラキラのオークみたいな格好してるのに自分を可愛いとか言ってる方が冗談だと思うんですけど! でも町長の顔は冗談を言っている顔じゃない。
「とゆーか、ジュニアの中に魔物がいるんだよね。取り憑いてるの。そいつが呪いの元凶」
「そうなのか!?」
「そ!」
まあ違うけど。中だけじゃなくて外も魔物だけど。
「だからー、しばらくその子の家庭教師でもしてたら、魔物も痺れを切らして出てくるんじゃないかな? そこをサクっとやっちゃう!」
「なるほど……そのやり方をする呪術師は初めてだな。よし、駄目元でやってみろ」
「りょーかい!」
とゆーことになりましたとさ。
そして、子供部屋にジュニアと一緒に入った私は。
「死ねえええええいっ!」
「ぎゃー!?」
とりあえずジュニアに突進して口に髑髏の杖を突っ込んだ。
「ネネ様!? もう殺すのですか!? 家庭教師として授業をするはずだったのでは!?」
「これが楽しい楽しい授業だよ! 最期の授業だよ!」
私は大急ぎで呪文を唱え、髑髏の杖の先から大量に怨霊弾を発射する。怨霊を小さく凝縮して弾みたいな形にした、速度重視の死霊魔術だ。
「げぼぼ!? げぼぼぼぼぼぼ!?」
怨霊弾が口の中から後頭部へ貫通し、八歳とは思えない濁った奇声を上げて苦しむジュニア。八歳かどうかは知らないけど。
私はひたすら怨霊弾を連射。
「ほらほら、正体あらわして! じゃないと死んじゃうよー!!」
「やめんかー!!!!」
ジュニアは私の腹を蹴飛ばすと、宙返りして部屋の隅に避難した。
口から血をぼたぼた垂らしながらも、すぐに傷は塞がってしまい、ぎらつく眼で私を睨みつける。
「この……クソ下衆ネクロマンサーが! オレの縄張りになにをしに来やがった!!」
低く、しわがれた声が、ジュニアの可愛い可愛い口から漏れた。




