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ご対面

「口止め料、か……?」


「……は?」


 執務室で対面するなり、町長から放たれた質問に、私は首を傾げた。


「『住民たちに黙っておく代わり、金を払え』そう言いたいんだろう? まったく……弱っているところにさらにつけ込みおって。カネの亡者どもが!」


 丸々と肥えたお腹を抱えて、町長は顔を真っ赤にする。指にはたくさん大粒の宝石がついた指輪をはめてるし、服は紫の染料を贅沢に使っているし、なんか黄金の冠みたいなのまで被ってる。


 うーん、カネの亡者なのはそっちじゃないのって思うけど、まあいいや。


「別に口止め料とかはいいよ。そんなんじゃないし」


 一周目の英雄はがっつり口止め料をせしめようとしてたけど、こっちはそこまであこぎな商売はしたくない。仕事に応じた報酬が欲しいだけだ。


 町長は怪訝そうに訊いてくる。


「口止め料ではないなら……なんだ? お前の目的は」


「この町を支配してる呪いを解いたげるって言ってるの!」


「お前が……?」


「私が」


「こんな小さな子供に、なにができるのだ……?」


「ふふーん、小さいからってバカにしちゃダメだよ? 私の力があれば、怨霊なんて一目散に逃げてっちゃうんだから!」


 私は胸を張って言い放った。


「まあ……今までやってきた呪術師はみんなどこかに行方をくらましおったし、もう誰も挑戦する者もいなくなってしまっていたから、駄目元でやらせてやってもいいが……」


 その呪術師たち、みーんな呪いの元凶に食べられちゃってるんだよね、町長は知らないだろうけど。


「じゃー、私とこの子はしばらく屋敷に泊まって、呪いを解く準備を進めるね! 元凶をあぶり出して浄化するまで時間がかかるから」


「うむ。部屋は用意させよう」


 町長と私が話していると、執務室に小さな男の子が入ってきた。


「パパー。これが新しい呪術師さん?」


「ああ、そうだジュニア。仲良くしなさい」


「うん。仲良くするよ。よろしくね、お姉ちゃんたち」


 ジュニアと呼ばれた男の子は、にっこり笑ってフランに手を差し出す。


「…………ッ!!」


 フランがとっさに、ジュニアに向かって聖剣デュランダルを振り下ろした。


 デュランダルの刃先はジュニアを捕らえることなく、ジュニアはすくみ上がって床に座り込む。


「びえー! びえー! ぱぱー! このお姉ちゃんこわいよー!」


 泣きわめくジュニア。


「おい! これはどういうことだ!」


 憤激する町長。


「ごめんごめん、その子の前にやばい怨霊が忍び寄ってきてたからさ! 今攻撃してなかったら、その子やられてたよ」


「そ、そうなのか……?」


 私は急いで町長をごまかした。


 フランが私の耳元でささやく。


「ネネ様! やばいのは怨霊ではありません! あの子供……に偽装したなにかです! 私の剣撃、外したのではなく回避されたんです。ほんの少し……本当に少しだけですが、あの子供は攻撃された瞬間に飛び退いたんです」


 私も小声で返す。


「……フランにも分かるんだ?」


「分かります。近寄られた途端、背筋がぞわっとしました。なんなんですか、あれは……?」


「あれが呪いの元凶。町長の息子を喰い殺して成りすましてるの」


「そんな……! 早く退治しないと!」


「あれはやっちゃダメだよ。少なくとも家族の目の前では」


「どうしてですか?」


「あいつ、完全に家族を騙し通してるからね。殺したら私たちが悪者になっちゃう」


「ああ……」


 一周目では、英雄が私の忠告も聞かずにばっさり斬り殺しちゃって、しばらくパーティごと賞金首になってたんだよね。あの失態は繰り返したくない。


「でしたら、どうすればいいんでしょう?」


「チャンスを窺うんだよ。家族が目を離した隙に……やるしかないの」


 私とフランはささやき合いながら、ジュニアの方を眺める。


 巧みに嘘泣きするジュニアの眼は……新しい呪術師、いや新しい餌を前にして、爛々と輝いていた。

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