次の一手
「ネネ様、ネネ様っ! 次はどこに行くんですか?」
お散歩に連れ出してもらったわんこみたいに、フランが私の隣を歩きながら訊いてくる。
元々、傭兵団で働いていた子だから、群れのリーダーに従う習性があるのは分かるんだけど、それにしてもわんこすぎじゃないだろーか。
「んー、そろそろ船が欲しいんだよね。徒歩で移動するのは無理があるし、船があれば移動範囲が広がるし」
一周目ではまだ船を手に入れていない時期だけど、英雄たちを先回りするなら持っておかないと話にならない。
「船……ですか。今の所持金で買えるでしょうか?」
「小舟しか無理だね。あと小舟はペチャブ海峡の大渦を越えられないからダメ」
「でしたら、海賊船でも拿捕して……」
「拿捕するとこまでどうやって出るの。とりあえず、軍資金増やすところからかなー。ちょうど次の町では、お金ゲットできそうな心当たりあるし」
「なんですか?」
「ふふふー、それはねー」
到着した町の大通りに立ち尽くし、フランが街並みを見回す。
「なんだか……すごく、変な雰囲気ですね」
「分かる?」
「はい。生気が失せているような、みんな怯えているような……」
フランの言う通り。
民家の窓という窓は閉まっていて、お店もがらんがらん。道に人気はほとんどいないし、たまに通りかがる住民も私たちと目を合わせようとはせずに走り去っていく。
それより分かりやすいのは――霊力のない一般人には分かりにくいだろうけど――町の周りを覆っている淀んだ霊力の雲だ。
「この町はね、呪われてるんだよ。ある家を中心に呪いが広がって、住民が次々と倒れてる。呪いにかかった人間は、異形に姿を変えていく。本人の霊的抵抗力とか、中心地からの距離によって、変わり方は違うけど……」
私が教えているあいだに、道の向こうから二足歩行の『なにか』がやって来た。ずる、ずるる……と、肥大化した胴体を引きずるようにして、蠢きながら近づいてくる。体は真っ黒に揺らめいていて、どろどろに溶けた顔の奥で、爛々と眼玉が輝いている。
「……っ! ネネ様、お下がりください」
フランがデュランダルの柄に手をかけた。
「あー、待って待って。斬ったらダメ。一応人間だから。アンデッドでもないし」
「あれが……呪い……?」
「そ。まー、呪いの原因を潰せば元に戻るし、無駄に住民を殺してトラブルを起こさない方がいいよ、報酬ももらえなくなっちゃう。特に害はないやつだからね」
呪われた住民は、手近の民家にどろどろと入っていき、民家から叫び声が上がる。破壊音、ぐしゃぐしゃっとなにかが砕ける音、悲鳴、そして沈黙。
「特に害は……ないのですか?」
「な、ないと思うよ、たぶん!」
一周目で、呪われた住民は「人間がやれること」以上の悪さはできなかった。だから、それをいちいち捕まえるより、呪いの元凶を止めるのが先決だ。
私はフランを引き連れ、呪いの中心――町長の屋敷に向かった。