ごはん食べたい
街の大通り、きらびやかなお店が建ち並ぶ真ん中に、そのレストランはあった。
豪華なシャンデリア、ふかふかの絨毯、真っ白なテーブルクロス。
店内に足を踏み入れた途端、私とフランは自分たちの場違い感に立ちすくんだ。
「ネ、ネネ様……大丈夫でしょうか、私みたいな汚い傭兵がこんなところに入って……?」
「だ、大丈夫だよ、お金なら持ってるんだから!」
私は金貨の入った皮袋を高々と掲げ、ウェイトレスに見せつけるようにして足を踏ん張る。
「ですが……」
「追い出されそうになったら金貨でほっぺた叩いてやる! あと怨霊で窓ガラス全部割っちゃうんだから!」
「そっちの方が追い出されそうな気がします!」
などと心配するも杞憂で、ウェイトレスはとびっきりの営業スマイルをたたえてテーブルに案内してくれた。
ネクロマンシーの里の外の世界の高級料理なんてよく分からないから、適当にオススメのコースを頼んで、待つこと一時間。
純白のテーブルクロスの上に、名前も知らない豪勢な料理が並ぶ。
肉汁たっぷりのステーキ、甲殻類のスープ、なんかピラフっぽいもの、葉っぱっぽい?もの、骨っぽい?もの! よく分かんない!
でもまあ、ご馳走だってことは分かる。
これが、これが、高級料理なんだ!
私は忘れない。せっかく英雄パーティが王宮の宴会へタダ飯に呼ばれたのに、ネクロマンサーだからって私だけ入れてもらえなくて、馬小屋で雑草スープを作って食べるしかなかったあの頃を。
だけど今は違う。好きなだけ、好きなものを食べられる。
私は試しに名前がなんとか分かる『ババッド肉のブレブレグラタン?(それでも曖昧)』をスプーンですくい、ぱくっとくわえた。
「うーん、おいひーーーーーー!」
ほろほろのお肉に、優しい味のホワイトソース、ぴりりと利いたスパイス。
まるで冥界の料理みたいに最高だ。冥界は逝ったことないけど、想像。
「よかったです、ネネ様が楽しそうで」
フランは料理に手をつけようともせず、にこにこと眺めている。
「あんたも食べなよ。冷めちゃうよー?」
「いえ、私は。ネネ様が全部召し上がってください」
「さすがにお腹弾け飛ぶよ! 遠慮しなくていいからさー」
英雄たちみたく部下にひもじい思いをさせるなんてことはしたくない。
「その……もったいないんです。私、最近、食べ物の味がしなくて……」
「味がしない……?」
「はい。なので、せっかくのご馳走はネネ様に召し上がってもらった方が……」
明らかに、蘇生のときに味覚をなくしちゃったんだ。普通に生活してるみたいだから、不具合は生じてないもんだとばかり思っていたのに。
「なんで言わなかったの! 言ったら修理しといたのに!」
「え、そ、その、ちゃんと戦えてはいますし、ネネ様を煩わせるのもよくないかと……」
「あーーもーー!」
この子は。ホントに、この子は。
素直すぎるというか、従順すぎるというか。
使い魔としては理想的だけど、もっとワガママ言ってくれてもいいのに。
――その夜。
私はベッドから密かに抜け出すと、街の墓地へ向かった。




