リサイクルショップ
吸血貴族の館から強奪した品々を運ぶフランに、私は教える。
「そのリサイクルショップではね、なんでも買い取ってくれるの。道に落ちていたものでも、なんか明らかに王家の刻印がされてるコップでも、十年前から行方不明になってる彫刻とかでもね」
「それは故買屋では!? 捕まえて領主に突き出すべきなのでは!?」
「冒険者は故買屋がなきゃ生きてけないし。通報なんてしたらすごく恨み買いそう」
「冒険者とはいったい……」
フランは目を回している。
「てか、傭兵なんだからあんたもそういうのやってたでしょ? 戦場荒しとか」
「いえ、私は戦うしか能の無い人間ですから。任務を果たしてお金をもらう、それだけです。毎日のパンが手に入ればそれで満足でしたし」
「なるほどねー」
多分、この子の同僚たちは普通に敵から身ぐるみ剥いでいたはずなんだけど、この子は本当に真面目なんだろう。
そんなこんなで、私とフランは裏町の『リサイクルショップ』にたどり着いた。
もちろん看板なんて出てないし、外から見たら完全に廃屋。中に入ってもホコリだらけだし荷物はまともに整理されてないしで、やっぱり廃屋感すごい。
「げへへ、なんでも買い取るよ」
カウンターの店主が、歯の全部抜けた口を歪めて笑った。髪も全部抜けてるし、体の色も抜けてるし、服の色も抜けているしで、荒んでいることこのうえない。
店主のそばには、ごつい用心棒が立ってる。
「そこ置いて」
「はい」
フランが荷物をカウンターにどさどさと載せた。
「おやおや、随分たくさん持ってきてくれたねえ」
眼を見開く店主。
「これ、買い取ってもらえる?」
「どれどれ……まとめて銀貨五枚だね」
「嘘。あんたは今、金貨五枚までなら出していいって思ってるでしょ」
「な……いいや、銀貨五枚だね」
ちょっと驚く店主だけど、すぐに平静を装う。
でも、私知ってるんだよね。この店主の見積もりの基準。一周目で勇者が交渉しているのを、脇から見てたから。そのときはお互い揉めに揉めて、待ってるこっちもへとへとになったけど、今回はすぐに済ませられる。
なぜなら。
「ていうかさー、あんたの倉庫に眠ってるお宝、相当ヤバイ代物だよね?」
「やばいとは……?」
「だって、盗賊ギルドの親分から盗んできた壺でしょ? まさか親分の持ち物に手を出すなんてバカな盗賊だけど、それを買い叩いてよその国に持ってくつもりでしょ? バレたらあんた……死ぬよ?」
「ほう……つまり、黙っていてほしければ言い値で買えと?」
顎を撫でる店主に、私はうなずく。
「そう」
「こいつ……!」
用心棒の男が剣の柄を握って足を踏み出してくる。
「………………!」
フランが自分の剣に手を添えて私の前に歩み出る。
一触即発の空気。
だけど、私は知っている。この店主は無謀なように見えて、きっちり利益を計算して動く主義だ。
「やめな」
案の定、店主は用心棒を止めた。
「嬢ちゃんには参ったよ。なんでこっちの本当の値付けを知ってるのか、金庫の品を知ってるのかまったく分からんが、ちっこいのに良い根性だ。今回はワシが折れるよ」
「ありがと!」
「ホント……うちの孫とたいして変わんねえ年に見えるのになぁ……。護衛もかなりの手練れみたいだし、二人一緒にうちで働かないかい」
「だめだめ、そんなことしてるヒマないよ! 私は魔王倒しに行かなきゃだし!」
「そうかい。がんばっとくれ。これはオマケだ、飴ちゃんだよ」
荷物を換金し、ついでにキャンディーももらって、口の中でコロコロさせながら私はリサイクルショップを出た。
これだけお金があれば……美味しいモノが食べられる! やっと勇者パーティから独立して自分のお金が手に入ったんだし、レストランに行こう。




