再会
昔考えていたどこか遠い、全然自分と関係ないと思っていた別の人の話が今の私だった。その今の私と、昔考えていた遠い誰かとが全く繋がらないまま、私はでも、やっぱりその人だった。
私は私であることを捨てる。そう決めた。もうどうでもいい私を、私はどこか遠い人のように見つめていた。
「あっ!」
「あっ!」
カーテンを開けて、部屋に入ってきたのは元少年だった。私たちは、時が止まったみたいに、しばし見つめ合った。
「あ、僕、帰ります」
「いいじゃないですか」
「いや、でも」
「話がしたいわ」
「こんなところで?」
「こんなところだからだわ」
私たちはベッドの横に並んで腰かけた。
「もう会わないと思ってました・・」
「会いたくなかった、でしょ」
「・・・」
元少年は黙っていた。
「あの・・、お金は?」
元少年はおずおずと私を見た。
「使ったわ。全部」
「全部!」
「ええ」
元少年は私の顔をまじまじと見た。私は、そんな視線を無視して、たばこをくわえ火を付けた。
「あっ、たばこ吸うんですか」
「悪い?」
「い、いえ」
「なんか変わりましたね」
「女は変わるものよ」
「いや、でもちょっと変わり過ぎじゃ・・」
「女はそんなものよ」
私はたばこの煙を勢いよく中空に吐いた。
「あの、じゃあ、これで」
「じゃあって、まだ何もしてないわ」
「いや、でも」
「私じゃ起たないってぇの」
「いや、そういうわけじゃ」
「いいからズボン脱げ」
「は、はい」
「弁護士って儲かるんだろ。私にポンと一億だして。女遊びも出来て」
裸になった元少年は言い返しもせず、全身を硬直させ、私にされるがままになっていた。
「あんな美人、秘書にしてな」
「・・・」
元少年は何かに耐えているかのように口を真一文字にきゅっと固め、顔を強張らせ黙っていた。
「羨ましい限りだぜ」
「・・・」
「し、失礼します」
全てが終わると、元少年は慌ててはいたズボンを半分ずり落としたまま、残りの服を抱え、必死で逃げるように途中何度も転びながら部屋から出て行った。
「まったく、男なんて」
私は一人覚えたてのたばこの煙をくゆらせた。私はもうなんだか、全ての事がどうでもよくなっていた。自分なんかどうでもいい。自分の人生なんかどうでもいい。心の底からそう思った。
「クソだわ」
カティの口癖が私の口から洩れていた。
「ホントクソだわ」
どこまでも落ちていく自分を、私はどうしようもなく実感していた。
この仕事を始めても、決して泣くまいと決めていた私の右目から涙が流れ落ちた。どんなに自分の言葉で言い訳しても、誤魔化しても、私が今の自分に傷ついていないわけはなかった。私はただ惨めだった・・。