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神様は明後日帰る 第4章(帰郷篇)  作者: ロッドユール
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家出

「私は汚れた女よ」

「あなたは誰よりも美しい」

 私は雅男の胸の中で、今まで感じた全ての苦しみが溶けていくのを感じた。生きてきてよかった。そう思った。

「あなたは誰よりも美しい」

 雅男はもう一度そう言って、私をきつく抱きしめた。

「雅男」

 私たちは、抑えていた全てのたががはずれ、抱き合った。ありとあらゆる感情が激流のようにお互いを流れ合い、溶け合った。それはもう、止まらなかった。

 もう戻れない。何か大きな渦の中に流されていく、そんな二人の無抵抗な運命のようなものを感じた。

 でも、それでもいい。それがたとえ、地獄への始まりだったとしても・・。それでもいい。私たちはもうそれに流されるしかなかった。


「フフフフっ」

「なんか幸せそうだな。お前」

「ふふふふっ、そうですか?」

「そうだよ。朝からにやけてんじゃねぇか」

「ふふふふっ、そうですか。ふふふふっ」

 私は手鏡で自分の顔を見た。

「男だな」

「えっ」

「同棲したな」

「えっ!」

「図星だな」

「えっ、いや、あの」

「いいよ、隠さなくても」

「れいの男か」

「えっ、いや、あの」

「また図星か。お前はほんと分かりやすいな」

 そう言って、マコ姐さんは笑った。

「そうですかねぇ」

 私はまた手鏡で自分の顔を見た。しかし、何が違うのか自分では全く分からない。

「真実の愛に目覚めたって感じだな」

 マコ姐さんが私を覗き込むように見つめる。

「何言ってんですか」

「はははっ」

 マコ姐さんは豪快に笑った。

「ふふふっ」

 私もつられて笑った。私は幸せだった。確かに幸せだった・・。

「でもな、傷の嘗め合いは、結局お互いを傷つけるぞ」

「・・・」

「男ってのはいろいろと複雑だからな」

 マコ姐さんは最後にそう呟くように言った。


 ―――あれから、私はそのまま家を出て、雅男の部屋で一緒に暮らすようになった。雅男の弁護士事務所も兼ねた小さな部屋だった。

 私たちはお互いの崩れそうな心に触れないように、静かにそっと、―――全てに遠慮するように暮らした。それでも、私たちは幸せだった。


                             (愛憎篇に続く)

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