無茶
「いい加減にしろ」
私は元少年の弁護士事務所へ一人乗り込んだ。
「・・・」
元少年は最初とても驚いた表情をしたが、その後、ずっと黙ってソファに座っていた。
「警察にだって行ったんだからな」
「・・・」
元少年はやはり黙っていた。
「お前だってことは分かってんだからな。人のこと付け回しやがって」
興奮する私に対して、元少年は完全に冷静だった。それがまた私を興奮させた。
「おま・・」
「あの人とは別れた方がいい」
元少年が独り言を呟くように何かを言った。
「なにっ?」
「あの人とは別れた方がいい・・」
「なんで・・、やっぱり・・」
私は愕然とした。元少年はしまったと言った表情で再び口をつぐんだ。
「なんで知ってんだよ。なんで細井さんとのこと知ってんだよ」
「・・・」
「なんで知ってんだよ」
しかし、私がいくら怒鳴っても、結局、その後、元少年はうつむいたまま何も言わず黙っていた。
それから、平和な日々が続いた。付け回されているような、あの嫌な感じが消えた。
「やっぱり・・」
やはり、元少年だったんだ。私は確信した。
「無茶するよ。お前も」
私とマコ姐さんは、いつものごとく屋上で、ビル下の景色を眺めながら並んで煙草を吸っていた。
「一人で乗り込むなんて」
無謀な私をマコ姐さんは、呆れるような、感嘆するような、そんな何とも言えない表情で見ていた。
「でも、なんで私を・・」
「初めての女ってのは、特別なんだ」
マコ姐さんが煙草の煙を吐きながら言った。
「う~ん」
私には分からなかった。
「男ってのはそういうもんなんだよ。あたしも経験あるよ。童貞君が通っちゃってさ。しまいには結婚してくれってな」
「・・・」
本当にそれだけなのだろうか。私は何か釈然としないものを感じていた。
「しかし、なんで一人で行ったんだよ」
マコ姐さんは少し怒ったように言った。
「マコ姐さんには迷惑は掛けられないから・・」
「お前は何でも一人で抱え込む。悪い癖だ」
マコ姐さんは微笑んだ。
「はい・・」
「それがお前のいいとこでもあるけどな。でも、遠慮しなくていいんだからな。なんかあったらちゃんと言えよ」
「はい、でも全部終わりましたから」
しかし、これで、本当に全部終わったのだろうか・・。何か引っかかるものがまだ私の中にあった。




