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神様は明後日帰る 第4章(帰郷篇)  作者: ロッドユール
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 あれから何とか、働きに働き、入院費用などもろもろの医療費はなんとかぎりぎり、滞納を重ねながらも払うことができた。

「おい、愛美ちょっと小遣いくれないか」

 父は私に媚びるように言った。

「千円でいいから」

 卑屈な表情までして私を見る。

 父は退院し家にいた。もう自分で歩くことも出来たし、体もほとんど良くなっているはずだった。足も手術とリハビリのおかげで、また普通に歩けるようになっていた。

「なっ、千円でいい」

「自分で働けよ」

「五百円でいい」

「働け」

「頼む」

 私の前で手を合わせ、親父は拝む真似をした。そんな父の卑屈な姿勢に虫唾が走った。

「働け」

「まだ足が痛むんだ」

「この前酒に買いに行く時、走って行ったじゃねぇか」

「あん時は急に調子が良くなったんだ」

「うそつけ」

「なっ、頼む」

「お前、娘に働かせて恥ずかしくねぇのかよ」

「父さんだって辛いんだよ。娘に食わせてもらっている男親の悲しさ。お前にもいつか分かる時が来る」

「ぜってぇ、来ねぇよ」

「なっ、頼む。千円、たった千円でいいんだ」

「父親としてのプライドは無いのか」

「無い」

 親父は断言した。

「何威張ってんだよ」

「頼む。なっ。これが最後だ」

「いつも、最後、最後って言ってるだろ」

「頼む。今回はほんと最後」

「おら」

 私は財布から千円札を取り出すと、親父の手に叩きつけるように渡した。

「もう一枚」

 父は私を見て、また手を合わせた。

「・・・」

 父は卑屈に私を見上げる。

「おらっ」

 私はもう一枚叩きつけるように渡した。親父はその金を持って、嬉しそうに表に出て行った。多分、また角の酒屋へ酒を買いに行くのだろう。

「はぁ~」

 私は大きなため息をついて、その場にうなだれた。

 

 最近、心の奥の何か大事な感覚が麻痺してしまっていると感じる。もう感覚もないほど、慣れたくもないこの仕事にも慣れてしまった。

「あっ、先生」

「あっ、双子石」

 部屋に入ってきたのは数学の桐嶋だった。いつも身なり良く、キリッとノリのよく効いたシャツにニットのベストを着て、頭をこれでもかと、ねっとりがっちりきっちり固め、いつも気取って、生徒を見下している嫌な奴だった。生徒からみんなに嫌われていた。

「お前こんなとこで何やってんだ」

「先生こそ」

「お、お、俺は見回りだよ」

「見回り?」

「そうだ、お前みたいな不定の輩を取り締まっているんだ」

 そう言いながら、桐嶋はもう服を脱ぎ始めていた。

「お前が高校を辞める時、こういう人間になると先生は思っていたよ」

 そう言いながら、どんどん服を脱いで行く。

「だいたい、ドロップアウトした人間の行きつくとこは決まっているな」

 桐嶋は私を見下したようにそう言いながら、服を全て脱ぎ終わると、それを几帳面にきれいに畳み、慣れた調子で風呂場へすたすたと勝手に歩いて行った。

「・・・」

 桐島は超がつくほどのマザコンで、それが基でお見合いをことごとく失敗したともっぱらの噂だった。だから四十近くなっても未だに独身だった。

「どうせ、ブランド物のバックかなんか欲しかったんだろう」

 桐島は風呂場のスケベイスにどっかと偉そうに座ると、見下すように私を見た。

 それからあれやこれやと、説教めいたことを偉そうに言いながら、

「やっぱり学歴の無い人間は碌な人間にはならんな」

 と、最後にまた堪らなく偉そうにそう言って、結局三回もやって桐嶋は帰っていった。

 桐島は自分の出身大学が自慢で、授業中もやたらと低学歴の人間をバカにしていた。

「二度と来るな」

 桐島がドアを閉めると同時に私は思わず、叫んでいた。

 しかし、それから桐嶋は毎日やって来た。

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